第5話 Take It Easy 4


第一王子の領地に着くと華やかな町であった。

ゼルダム王国の首都を除けば最も栄えているのかもしれない。

町を歩く人間の多くは獣人の奴隷を連れている。


「すごいね~ 領地経営、上手くいってるじゃん!

 さすが第一王子様。

 獣人奴隷も沢山いるようで儲かっていそうだね~

 奴隷売買は美味しいからね~~

 うわ~~~エルフもいる。

 あの親父は相当な金持ちだね~

 俺もバインバインのエルフが欲しいな~~

 第一王子のところにいない?」


「胸の大きなエルフは難しいね。

 エルフは脂肪の付きにくい種族だから」


「そうか~~残念」


「着いたよ」


と第一王子が言うと目の前に巨大な鋼鉄で作られた門が建っていた。


「ほほーー! 門からして立派だね。 うんうん」


第一王子が門番に右手を挙げると門は音も立てずに開いた。


「うわ~~立派な館だね! さすが第一王子。

 奴隷売買は儲かっていそうだね~」


「町の外で、そのことは話さないでくれないか?」


「やっぱり、マズイ? 王子が奴隷売買してるって?

 でも誰もが知っているんじゃない?

 ゼルダムは奴隷を禁止していないし、獣人亜人には人権を認めていないんだろ?」


「それでも口外されるのは、ちょっとね」


エントランスには驚くほど広く、城と見誤るほどだ。

城とは異なりは周りに数々の調度品が並んでいる。


「かーーーー、お旦那様、儲けてまんねーー

 10億ゼルダムくらいチョロいもんでっしゃろ!」


と、おどけて見せた。


「さぁ~第一王子、お会計、お会計!!」


「分かった。こっちだ。約束の物を渡そう」


第一王子は先を進み部屋に入った。

部屋の中には家老と思われる老人が立っていた。

その家老に


「10億ゼルダム用意してくれ」


と第一王子は命令した。


「10億でしょうか?」


と聞き返すと


「そうだ」


と短く答えた。

そして、パンパンと二度手を叩くとメイドがお茶と菓子を持って入ってきた。


「メイドさんも美人だね~

 第一王子の周りには美人ばかりで羨ましいね~

 奴隷商をやっていると美人さんも手に入れやすいのかな」


部屋を出て行くメイドの後姿を見ながら言うと、一瞬だけ第一王子の顔が歪む。


「おお、いい紅茶だね。

 高級茶葉を使っているね~

 このクッキーはどうかな?」


ポリポリと音をたて齧る。


「うん、美味しい。

 さすが王都と並ぶだけの町だね。

 これはこの町の名産のクッキーだろ?

 生地を作るときに塩を少し入れると、もっと美味しくなるよ」


「塩?」


「そう、塩! 甘みが増すんだよ」


第一王子はどうも理解することは出来なかったようだ。


部屋の扉が開くと家老に連れられた兵士が小さな荷押し車に宝箱を載せ入ってきた。


「お持ちいたしました」


「ひゃっほ~~」


宝箱を空け中身を確認しるとぎっしり金貨が入っていた。


「そんじゃ、貰っておくね~」


ローブの袖の下に手を入れ唐草模様の風呂敷を取り出し床に敷く。


「やっぱり悪人は唐草模様の風呂敷だよね~ 分かる?」


第一王子たちは無反応だった。


「このギャグ、分からないか・・・・・寂しいな~」


そして、100kgを超える宝箱を軽々、持ち上げ


「うん? 軽いね~」


第一王子はぎょっとした顔をしながら


「ちゃんと10億ゼルダムあるはずだ。

 誤魔化したりしていない」


「あっ、ごめん。ごめん。こっちの話。

 第一王子が誤魔化しているなんて思っていないから。

 ただ単に金の含有量が少ないんだな~~っと思っただけだから」


「これで僕を助けてくれるんだろうね」


「商談成立!! 第一王子が契約違反をしない限り問題ないよ」


ふぅー と第一王子は息を吐いた。


「先方さんとの約束があるから手ぶらで戻るわけにも行かないので・・・・・

 どうしようか?」


第一王子を見つめると


「商談成立といったじゃないか!!」


声を荒立てた。


「そうだね~こうするか」


再度ローブの裾の手を入れ、小さな子袋を取り出し中身の砂を床に撒き左手を向け魔法を唱えた。


「土魔法・砂人形」


砂は見る見るうちに第一王子と瓜二つになった。

それを見るなり第一王子と家老たちは尻餅をつ「あわあわ」と揃って声に出した。


「どう?なかなか良い出来でしょう」


と言うと水平に手刀を振った。


ポロッ!


砂で出来た第一王子瓜二つの人形の首が地面に落ちた。


「先方さんには、これを持っていくことにするよ。

 そうすれば信用してくれるでしょう。

 死んだ事になっているから、あまり目立った事はしないでね。

 今後は地味に日陰に暮らしてくださいね」


虚空庫からもう一枚唐草模様の風呂敷を出すと偽者の第一王子の首を包み虚空庫にしまった。


「ほら、第一王子! いつまで床に座っているんだい?」


と手を貸し腰の抜けた第一王子を立たせた。


「こんな豪邸なら風呂の一つ二つあるよね~

 ドロ人形くんは風呂に入ると溶けちゃうから入ることが出来ないけど、俺はドロ人形くんと違って綺麗好きだから風呂に入りたいな~

 ついでに綺麗なお姉さんと一緒に入れたらラッキーなんだけど。

 お願いできるかな?

 出来るよね!」


有無を言わせる事は無かった。


「家老さん、お風呂まで案内してね~」


外へ出る扉に手を掛けようとしたときポンと手を叩き王子たちの方へ振り向きながら言った。


「あぁ~~ 砂人形君を傀儡にしても良かったね~

 で、俺が宰相になってこの国を乗っ取も良かったね。

 どう? 第一王子!!」


「そ、それでは約束が違う!!」


第一王子は目を見開きながら言った。


「あっ、ごめん、ごめん!大丈夫だよ! 契約しただろ。

 君が変な気を起こさない限り大丈夫だから」


と言うと浴場へと向かった。


(こいつの言うことは、どこまでが本心か分からない!!)


第一王子は拳を握りしめながら思うのであった。

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