聖女と呼ばないで!〜追放された元聖女は、自由に生きたい〜
ザットヌーン
プロローグ
神と聖女を信仰する宗教国家デューマロウ。
この国では神より特別な力を授かった聖女が誕生し、その者が死去すれば新しい聖女が誕生すると言い伝えられている。
聖女は特別な理由を除き、原則として王族と結婚しなければならない決まりがあり、私リーフェ・イオ・パルゼッタはこの国でたった一人の聖女だった。
「イオ。…いや、リーフェ・パルゼッタよ」
玉座に腰を下ろした国王が、鋭い目つきでこちらを見つめる。
イオとは私の別名で、聖女が誕生すると神官より与えられる神の名前だ。
聖女は神の名前が与えられた瞬間から本来の名を使う事を禁じられ、その名前で生きる事を強制させられるのだが、
自分の名前が気に入っていたので、人前以外では密かに使っていた。
「お前は聖女ではない」
その言葉に、スカートの裾をギュッ…と掴む。
神殿でお祈りを捧げていた私が王宮に呼び出されたのはつい先程の事で、迎えに来た騎士に連れられて沢山の人達が集められた謁見の間にやって来た。
そして、国王から告げられたのは、私が聖女では無かったという事実だった。
「本当の聖女は…ローゼ・パルゼッタだ」
ザワッ…。
一気に周囲が騒がしくなり、その視線はある一点に集められる。
「ローゼ…」
「ごめんなさい。お姉様」
ローゼとは、男爵である父が数年前に連れてきた腹違いの妹だ。
妹…と言っても同じ歳で、私の方がローゼよりも生まれるのが数カ月早かっただけだ。
咎めはしなかったが、ローゼは何かに付けて私を敵対視し、日頃から人を見下すような発言をしていた。
国王の発したその言葉にローゼは申し訳無さそうな雰囲気を漂わせながらも、その口が笑っていた事を私は気づいていた。
「本当はずっと隠すつもりだったの。だって、お姉様があまりにも可哀想で…」
泣き真似も一流だ。
私が聖女だと発覚したのは五歳の頃で、それからは修行と祈りの日々を繰り返してきた。
しかし、神官より聖女だと言われたものの、いくら修行を積もうが一切力が使えなかった。
その為、周囲から“出来損ない聖女”と呼ばれるようになっていた。
力が使えなかったのは、私が偽物だったから…?
聖女の決め手はいくつかあり、その一つは鑑定スキルを持つ神官による判定だ。
鑑定スキルを所有する神官は世界でもあまり居ないとされていて、聖女を探す為だけに他国から鑑定スキルを所有する神官を連れてくるのだと、以前聞いた事があった。
つまり、ローゼが聖女だと判決を下されたと言う事は、改めて鑑定を受けたローゼに聖女の素質があったと言う事になる。
それと同時に、今まで聖女として生きてきた私には、始めからそれが無かった…と言う事にもなる。
「イオの名を剥奪し、直ちに荷物をまとめて王宮から出て行く事を命じる」
以前とはまるで違う国王の冷たい言葉に、私は静かに頭を下げる事しか出来なかった。
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