揺れる想いとお正月 ④
思っていたよりも神社までの距離は長く感じなかった。三人でいろいろな話をして盛り上がったりで楽しい時間だった。神社に近づくごとに周囲の人が少しずつ増えてきた。
「想像していたより人がいるね……」
神社に到着すると美影の言葉通り参拝客は多かった。こんなにいるとは予想外だったので、まさか知り合いがいないかと一抹不安がよぎる。
「まだ年明けまで時間があるよ」
「そうだな……」
絢が時計を見ながら俺の顔を窺っている。折角だから年が明けてからお参りする方がいいような気がする。どうしようかと少しばかり悩んでいると美影が何かを伝えようと俺の肩をトントンと叩いてきた。
「どうしたの?」
「……あそこにいるの大仏さんじゃないかな?」
慌てて美影が言う方向を見渡すと大仏の姿があった。幸いなことに大仏はこちらに気が付いていない様子だ。
「……そうだな間違いないな」
そう言って頭を抱えるように項垂れると、美影は俺の姿を見て苦笑いをしている。とりあえずは大仏に見つからないようにしないといけないので再びどうしようかと悩んでいた。すると今度は絢が俺の腕をいきなり掴んできた。
「また誰かいたのか?」
「……うん」
絢が歯切れの悪い返事をするので視線の先を見ると白川の姿がある。まさかと思い少しの間白川の姿を追っていると、やはり大仏が現れた。
(なんでこのタイミングであの二人がいるんだよ……最悪だな)
でも俺と違って絢は白川と親友なので無視する訳にもいかないだろう。
「どうする、白川に会ってくるか?」
「……ううん、今日はやめとく……またいろいろと聞かれそうだから」
絢は少し暗い表情をするので、俺は罪悪感を感じる。
(絢もいろいろあるんだな……俺の責任なんだよね、はっきりしないから)
絢の様子を見ていたが、まずは大仏達に気付かれないようにすることが先決だ。でも後ろめたいことをしている訳ではないのだから本来は隠れたりする必要はない。なので美影の意見を確認したかった。美影の性格からすると「なんで隠れるの?」と言いそうな気がする。
「……どうする美影は?」
「う〜ん、そうね……今回は大仏さんには会わないようにするわ……」
「……そ、そうか、分かった」
予想外の返事で一瞬戸惑ってしまったが頷いて、見つかりにくそうな場所を探すことにした。すぐに辺りを見渡して身を隠すのによさそうな場所を運よく発見することが出来た。
美影と絢について来るように合図をして、俺はその場所へ目立たない様に急いで移動した。
「ここなら、人がいて目立たないし、暖もとれるから良くないか?」
古いお札などを焼いている場所に到着した。火の周りには年配の人や若い人がいて身を隠すにはよさそうだった。二人とも安心した顔で頷き、冷たい体を暖めようと火に当たろうとしていた。
「おっ、宮瀬じゃん⁉︎」
俺も暖をとろうと火に近づことした時に呼び止められた。嫌な予感しかしない……
「……皓太か」
「なんだよ、その嫌そうな顔は! この新年を迎えるタイミングでそれはないだろう」
皓太は嫌味な顔をして呟いている。皓太がここにいるということは多分いるんだろうな……と隣を見るとやはり芳本と空知が何かしら会話をしている。
すぐに二人は俺に気が付き美影と絢の存在にも気が付いた。俺はぎこちない笑顔で対応したが、美影と絢は焦ることなく普段通りの対応をしていた。大仏達に会うよりは全然問題ないのだろう……
「宮瀬……お前は相変わらずだな、新年から大丈夫か?」
「大きなお世話だ! 皓太だって人のこと言えないだろう?」
「ははは、俺は昨年もこうだったから問題ないんだよ……」
皓太は始めは威勢が良かったが、俺が反論すると笑っていたがだんだん弱気な感じになった。俺と皓太はお互いに慰め合うように話していて、美影と絢は芳本と空知の四人で楽しそうに話をしていた。
年が明けても暫く話していたが、そろそろ参拝しようかということになり結局六人でお参りすることになった。その途中で皓太は何かに気が付いた。
「……そういえば宮瀬達、三人ともバラバラだよな住んでるとこ?」
「えっ、そ、そうだよ」
皓太達は芳本が隣同士なのでおそらく空知が芳本の家に泊まっているのだろう。俺はマズイことになったのでどうやって誤魔化そうかと悩んでいると、芳本が面白おかしく答えてくれた。
「宮瀬くんの家に泊まっているんだよね、三人で……さっき絢が白状したよ」
そう言われてすぐに皓太が薄笑いをして肩を組んできて俺を逃がさないようにした。俺がチラッと絢に目をやると絢はごめんねと小さく合図を送ってくれた。
「どういうことだ?」
皓太は興味深そうに質問攻めをする。俺が何度も経緯を説明するが参拝が終わるまで皓太は離してくれなかった。最後は空知が説得してくれてやっと皓太から解放された。空知には感謝して出来た彼女だと改めて感心した。
時計を見るとかなり予定時間をオーバしていた。皓太達と別れて、俺達は明日のこともあるのでタクシーで帰ることにした。とりあえずは大仏達とは鉢合わせにならなかったので一安心した。
「よしくん、ごめんなさい」
帰りの車中で絢が小声で謝ってきた。俺は何事かと驚いて聞き返すと絢はさらに小さい声で答える。
「未夢ちゃんに話してしまって……」
「あぁ、そのことか、そんなに気にしなくてもいいよ」
「でも未夢ちゃんは黙っていてくれるって言ってたから……」
「なら大丈夫だよ。皓太もそんな人に話す奴じゃないから」
心配させないように答えると、絢はホッとしたような表情になった。美影も隣で「心配ないよ」と頷いていた。
家に着くと美影と絢が恥ずかしそうに玄関で立ち止まった。俺が不思議そうな顔で二人を見ていると美影が顔を赤くして呟いた。
「……同じ家に帰るって、同棲しているみたいだね」
「……えっ⁉︎」
「ふふふ、冗談よ」
そう言って美影は動揺した固まった俺を置いてさっさと絢と二人で部屋に入っていった。意識しないようにしていたが、美影の言葉で気恥ずかしいなってしまった。でも時計を見るとかなりおそい時間になっていて動揺している場合ではなかった。
「明日はゆっくり出かけることにしよう」
俺がそう提案すると美影と絢も頷き同意してくれた。それからはお風呂と就寝の準備でバタバタとして余計なことを考える暇もなかった。
(今晩はどうにかこのまま問題なさそうだな……よかった……明日の夜は一人だからゆっくり出来るだろう)
疲れた俺はそのまま深く悩むことなく眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます