揺れる想いとお正月 ③
俺はこたつの正面側に座っている。右側に絢がその反対側に美影が座っている。美影が用意してくれたコーヒーと紅茶を飲みながらお菓子を食べて年末のバラエティ特番を見ている。
(まだ落ち着かないな……やっぱりなんかおかしいよ……なんで普通にテレビを見てるんだ……)
美影と絢を交互に様子を窺うが、二人ともテレビに夢中なのか俺の視線には気がついていない。
(美影も絢も普段通りで凄いな……全く動揺している雰囲気がないよな……なのに俺は一人舞い上がってるみたいで……)
落ち着いている二人を見て反省をする。
「ねぇ、初詣はどうする?」
不意に美影が話しかけてきた。こたつに座っているので意外と美影との距離感が近い。普段の学校生活とは違い油断していたので焦って言葉が出てこない。
「えっと……」
「みーちゃんこの前、市内の大きい神社に行こうって言ったよね」
絢が俺を助けるように返事をしてくれた。そんな絢もすぐ側に座っているので距離感がほぼない。多分これが舞い上がっている原因のひとつだ。
「うん、でもせっかくだからこの後、日付けが変わる頃に町内の神社に行ってみない」
「そうだね、こんな機会は滅多にないから行ってみようか……いいよね?」
美影は楽しそうに提案して絢も笑顔で頷き、俺の顔を窺い返事を待っている。ただし町内の神社といってもそこそこ大きいのだが、ここから三十分以上歩かないといけない。でも美影と絢の顔を見る限り行かないとは言えない雰囲気だ。
「うん、いいよ」
俺が頷くと二人が嬉しそうな顔をする。二人の笑顔があまりに近くて俺のドキドキが収まる気配はない。この後も明日のことを話し合い、当初の予定通り市内の大きな神社にも参拝へ行くことになった。
(家の中に居ても間がもたないよな……まったりとするのも悪くないけど、多少疲れるがそんな関係ないよな……こんな状況が続くと体がもたない)
そんなことを考えながらぼんやりとテレビを見ていた。
「……ん、あれ、寝てた……」
時計を見るとあれから一時間以上過ぎていた。適度な暖かさと疲労でまた眠っていたみたいだ。美影と絢の姿を確認する。
「寝てるな……」
二人ともぐっすりと寝ていて、やはり寝顔も可愛い……美影も絢もいろいろと準備で疲れたのだろう。特に美影はこの二、三日はずっと機嫌が良くて普段見せることがないぐらいのはりきり様だった。
さすがに至近距離で二人の寝顔をずっと見ているのと恥ずかしくなってきたので起こさないように立ち上がろうとした。俺自身も座ったままだったので急に立ち上がろうとしてバランスを崩しまう。体勢を立て直そうとしたがこたつの机に膝が当たってしまい衝撃で二人とも目が覚めてしまった。
「あっ、ごめん……起こしてしまったね」
慌てて小声で俺が謝るが、まだ寝起きの状態で美影も絢も意識がぼんやりとしているみたいだ。
「あれ……いつのまにか寝ていたみたいね……すごく居心地が良くて……」
美影はすぐに意識が戻ったみたいで姿勢を正そうとしている。一方で絢はまだ夢見心地なのかまだフラフラしてまた寝そうになっている。
「あーちゃん、起きてよ、ここはよしくんの家よ」
美影が絢に優しく声をかけるとやっと目が覚めたようで慌てて顔を左右に振って確認をしている。
「えっ、あっ、うん……あれ、なんで、あっ、そうね、ここは……」
「もう、あーちゃんはいつもそうなんだから……」
絢は恥ずかしそう俯いて顔を赤くする。美影は寝ぼけた絢を見守るように笑っている。美影はよく知っているみたいだが、俺はこんな表情の絢を見るは初めてだ。
(可愛いすぎる……)
いきなり美影が強引に俺の顔をぐいっと向きを変える。
「痛っ⁉︎」
「もう〜、なんであーちゃんをずっと見てるの‼︎」
美影が拗ねた顔をしている。無意識に絢に見惚れていたようだ。絢は気まずそうに俯いたままだ。
(ヤバい……怒らせてしまったかな……今一番やってはいけないんだよな……)
この場の空気が悪くなりそうな雰囲気だ。でも下手な言い訳をするのも意味ないだろう……だんだんと焦ってきた。
「あの……美影……ごめんね」
とにかく謝るしかないと深く頭を下げる。
「ふふふ、冗談よ〜もう、そんなことぐらいで怒ったりしないよ」
恐る恐る頭を上げると優しく微笑んでる美影の顔が視界に入る。しかし不安なのでジッと美影の顔を見ていると、今度は美影が恥ずかしそうに視線を逸らした。
「もうそんな目で見つめないで……もうズルいよ……本当に怒ってないから、大丈夫だよ」
顔を赤くして照れた表情の美影が答えた。
(この反応なら本当に大丈夫だろう)
ひとまず胸をなでおろす。俺と美影のやりとりを見ていた絢が小さく笑っている。
「もう、みーちゃんたら……そろそろ年越しそばでも作ろうか、お腹空いてきたしね」
「そうだね、じゃあ作ろうか。よしくんはここで反省してて……」
美影がまた本気か冗談か分からないようなことを言って笑顔で立ち上がる。絢もクスッと笑いながら立ち上がり、美影と一緒にキッチンに向かっていった。
(なんかいいようにされてるな……でも仕方ないか……)
諦めたように大きく息を吐いた。
晩ご飯は二人が作ってくれたそばと持ち寄ってくれたおかずでお腹いっぱいになった。それから出かけるまでの時間は三人でテレビを見ながら過ごしていた。
時間も夜の十一時を過ぎて今年もあと一時間を切った。今年は特にいろいろな出来事があったなとしみじみな気持ちになりそうになったがそんな余裕はなかった。
「準備はできた?」
俺がそう言うと美影と絢が部屋から出てきて小さく返事をする。もう遅い時間なのであまり大きな声は出せない。
「うん、出来たよ」
お互い暖かそうな格好をしている。
「じゃあ、行こうか」
三人がそれぞれ玄関から出てくる。なんか変な感じだ。俺が最後に鍵をかけて出発する。
「こんな遅い時間に一緒に歩いているは変な感じだね」
歩き出してまもなく美影がポツリと呟いた。辺りはすごく静かで遠くに除夜の鐘が聞こえる。
「本当だね。でもよしくんがいるから安心だね」
絢が俺を見て笑顔で答える。確かにこんな遅い時間に女の子だけで歩いていると不安になるが、一応俺が一緒にいる。
「ははは……心配しなくても、ちゃんと二人を守りますよ」
そう俺が返すと二人とも何故かはにかんで頬が赤くなったように見えた。
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