クリスマスと待ち合わせ ②

 美影が合流すると絢は何事も無かったように会話をしている。俺はまだ気持ちが落ち着いていない。美影とは最初にちょっと話しただけでなかなか顔を見ることが出来ない。


「どうしたの? やっぱり疲れてる?」


 絢との会話の途中で美影が振り返り心配そうな顔をして俺の様子を窺っている。イルミネーションのイベント会場に歩いて移動していたが、絢と美影は並んでいたが俺はその後ろを歩いていた。美影には俺の足取りが重そうに見えたのかもしれない。


「ううん、大丈夫。疲れてないよ」


 優しく微笑んで美影に心配させないように答えた。


「よかった、でも無理しないでよ。疲れたら言ってね」


 美影は安心した表情になり、隣にいる絢もほっとした顔をしている。再び歩き始めて二人は会話を再開する。俺も特にこれといった追及がなくてほっとして二人の後ろを歩き出した。


(今はあまり気にしていたらダメだ……これ以上、意識していると逆にボロが出そうだ。とにかく普段通りに……)


 そう心の中で言い聞かせて歩いていたので周りの景色を意識していなかった。


「わぁ〜すごい〜」


 急に美影と絢が同時にはしゃいだ口調で立ち止まった。気がつくとイルミネーションの会場の目の前まで来ていた。


「おぉ〜」


 思わず俺も唸ってしまいぐらい色とりどりのイルミネーションが辺り一面に広がっていた。


「凄いね〜、みてみて、あのトンネル……」


 美影は俺の所に来て待ちきれない様子で、手を引いて行こうとする。美影には珍しいぐらいの上機嫌で少し圧倒されそうになる。絢はそんな美影の様子を楽しそうに見ている。


「あーちゃんも行くよ!」


 美影は絢に急かすように声をかけて、俺を引っ張るよう前に進んで行く。


「慌てなくても大丈夫だから……」


 俺は美影にそう言うが全く耳を貸す様子はない。


「ふふふ、行くわよ」

「えっ⁉︎ あっ……」


 笑顔の絢が美影とは反対側の手を引っ張り始めた。二人の女の子に引っ張っられる俺は周囲の目を引くことになる。さすがに恥ずかしい……が無理矢理に手を離すことが出来ずそのままトンネルの場所に到着する。

 美影はスマホを取り出すと自撮りの準備を始める。スマホの画面を見ながら美影は俺の顔に接近して来る。


「ほら、みーちゃんも入って‼︎」

「えっ、う、うん」


 絢は驚いたような反応をして遠慮気味に画面に入ってきた。


「みーちゃん、もっと近くに寄ってよ」

「ええと……」


 絢は迷っているようで、なかなか画面の中に入りきっていない。見かねた美影はスマホを一度下ろすと強引に俺の顔に絢の顔を接近させるすぐに元のようにスマホを構えて俺の顔に近づける。


(わわわ、二人とも近い……)


 二人に挟まれるような形で、スマホのカメラに収まる。美影と絢の頬が当たるぐらいで俺は焦りまくった。


「うん、いい感じだね」


 美影は満足そうに呟いて、絢と俺に画像を見せようとしている。画像自体はかなり自然な表情でお互いの顔が撮れていい写真になっている。絢はかなり照れた様子でぎこちない笑顔をして見ている。俺もかなり顔が熱くなっている。


「後で送るね。じゃあ、行こう!」


 美影は俺と絢の様子はお構いなしに次に進もうとする。俺は絢と目を合わせてはにかむような笑顔をして頷き美影について歩き始めた。

 会場を隅々まで写真を撮りながら周りイルミネーションを堪能した。


「みーちゃん、よしくん、ありがとう」

「なになに急に、どうしたの?」


 美影の言葉に俺は驚いて、絢もびっくりしたような顔をしている。


「だって私のわがままにいっぱい付き合ってもらって、嬉しかったから」


 美影は恥ずかしそうに笑顔で答えた。


「俺も楽しかったから全然美影のわがままじゃないよ」


 そう言うと絢も笑顔で大きく頷いている。俺の返事を聞いた美影は嬉しそうな顔をした。


「多分来年は受験があって来れないだろうから、だから今年しかチャンスがなかったの……でもこうやって彼氏と親友と一緒に来ることが出来たから、凄くいい思い出が出来たね」


 美影がそう言って満面の笑みを浮かべた。最後にもう一度、三人揃って写真を撮ることにした。でも今度は自撮りではなく他人に撮ってもらったので焦ることはなかった。


 時間も遅くなり、帰る時間になった。元来たバス停に戻ると美影の帰る方向のバスがタイミングよくやって来た。


「じゃあ、また明日ね」

「うん、明日は昼からだったよな」

「そうよ、遅れないようにね」

「分かってるよ、また明日」


 美影と俺は明日の練習のいつものように確認をした。その後に美影は絢となにか話して「またね」と手を振ってバスに乗り込んだ。俺と絢は美影を見送り、俺達が乗るバスを待つことにした。


「まだ三十分ぐらい時間があるな」

「そうね、まだ時間があるからあそこへ見に行ってみようよ」


 絢が指差す方向にこじんまりとしたイルミネーションがあった。俺が頷くと二人でそこまで移動する。到着すると先客のカップルがいて仲良く写真を撮っていた。


「ねぇ……私達も撮ろうか」

「えっ、さっきいっぱい撮ったよね」

「撮ったけど……私とよしくんの二人だけの写真はほとんどないの……」


 絢が寂しそうに答える。確かに絢の言う通りで、美影と俺、絢と美影のツーショットだけで後は三人揃った写真しか撮っていない。美影の手前、やはり絢は遠慮したのだろう……絢の気持ちを察して俺は頷いた。


「うん、いいよ。撮ろう」


 そう言って写真を撮ってもらえそうな他人を探そうとした。すると絢は俺の腕をぐいっと引っ張る。


「もう、私が撮るよ」


 イルミネーションの前に連れて行かれて、二人が並ぶ。絢がスマホを取り出して自撮りするように構える。絢の顔が近くに来る。最初に三人で撮った時ぐらいの距離と思っていると絢は更に近づいて頬と頬が当たる距離まで来た。


「わっ⁉︎ 近いよ!」

「いいの‼︎」


 俺が驚き離れようとすると絢は予想外の力で俺を引っ張り、更に密着した状態で顔と顔が当たっている。


「撮るよ!」


 絢の強引さに根負けした俺は笑顔で写真に収まった。撮り終わったと油断した瞬間に絢の顔が正面にきていきなり唇を塞がれた。

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