練習試合とクリスマス ③

 ハーフタイムも終わり試合が再開される。俺はやっといつもと同じ様にコートの上に立っている。改めて試合に出られる喜びを感じて気合いを入れた。


「一気に行くぞ! 流れを変えよう‼︎」


 長山と皓太にハッパをかけると、二人とも大きく頷いた。

 試合再開後、すぐに皓太からパスを受けて、ハイポストの長山にボールを渡すと俺は相手を上手くかわして長山から絶妙なタイミングでゴール下でパスを受ける。相手チームのセンターがシュートをブロックしてくるがフェイクでかわしてあさっりとシュートを決めた。

 あれだけ前半苦労してシュートをしていたのが嘘のようだ。静かになっていることが多かったベンチが盛り上がってきた。


「さすがだな……何気ないシュートだけど、これで行けそうな気になるな」


 長山が自陣戻りながら俺に呟いてきた。そのまま長山と自陣に戻り相手の動きを確認する。


「何言ってるんだよ。長山や皓太のパスがあるから俺がシュートを決められるんだ」


 俺が真面目答えたので、長山は恥ずかしそうに笑っている。


「ホント、お前には敵わないよ。さて、しっかりとデフェンスしていくぞ!」

「あぁ、一気に逆転だ‼︎」


 大きく頷いてデフェンスの体勢に入った。相手チームは結局、攻めきれず途中で俺達のマイボールに変わる。相手チームが油断している隙に、俺は走り込んでまた簡単にシュートを決めて得点差を縮めていく。前半に出場していないから体力には全然余裕がある。


「宮瀬……シュートを決めてくれるのはいいけど、もう少しペースを抑えてくれ、俺の体力がもたない」


 シュートを決めて再び自陣に戻ろうとしていると、困惑顔した皓太が呟いた。


「分かったよ。でも一気にたたみかけないとな」

「そうだな……出来るとこまでやってみるか」


 苦笑いしながら俺が頷き返事をすると、皓太も仕方なさそうな表情になり頷く。それから怒涛の攻撃で第三Qが終わった時には同点になっていた。第四Qの開始直後に逆転をするとあっという間に点差が開いてしまった。相手チームは完全に疲れ切った顔をしている。


(なんとか大丈夫みたいだな……さすがに疲れたな)


 時間的には後半しか出場していないが、運度量はいつも試合の倍のような気がする。顔を上げると絢達の姿が目に入った。


(あ、あや……あんなに喜んで……ここは絢達の学校だろう……いいのかよ)


 絢は前半の様子と違って、俺が心配するぐらい楽しそうに喜んでいる。隣にいる白川が迷惑そうな顔になるぐらいだから、全く事情の知らない生徒が見れば怪しむに違いない。

 試合はそのまま俺達のチームが勝利を収めた。後半のチームの得点は半分以上を俺が決めていた。

 挨拶が終わり、俺は一度ベンチから出て体育館の隅に移動する。

 この後は一年生中心でベンチに入ってないメンバー同士で試合をする予定だ。俺はとりあえずもう出番がない。他に試合に出ていたメンバーもそれぞれ休憩する為に移動していたが、俺は美影と一緒に移動していた。


「凄かったね」

「あぁ、本当に疲れたよ」


 美影が嬉しそうにな顔をする。俺は返事もほどほどにその場へ座り込んだ。美影も次の試合は仕事がないみたいだ。


「大丈夫?」


 美影が心配そうに覗き込み隣りに座る。


「うん……少し休めば問題ないけど、ちょっとだけ横になりたいけどね」


 笑って答えたが、一気に疲労が出てきたのか、とりあえず寝転がりたい気分だった。さすがに美影がいるところでは無理だなと考えていると突然、美影は座り込んでいた膝の上辺りをポンポンと軽く叩き始めた。


「じゃあ、私の膝を使う?」


 少し顔を赤くした美影は予想外のことを言い始めた。


「えっと、さすがにここでは……嫌なことはないんだけど……」


 焦った俺は何を言っているのか分からない。美影も恥ずかしかったみたいで、二人の間に微妙な空気が流れてしまい、お互い俯いてしまった。


「あっ、ここにいたんだ……あれ、二人ともどうしたの?」


 いきなり聞き覚えのある声がするので、慌てて顔を上げると絢が不思議そうな顔をして俺達を眺めている。美影も絢の声に気がつき慌てて顔を上げるが、いつもの落ち着いた表情に戻っていた。

 動揺したままの俺とは対照的だった。俺は何も言うことが出来なかったが美影は気を取り直したように絢に謝る。


「ごめんね。よしくんが疲れ切ったみたいで休ませてあげようとして、あーちゃんのところになかなか行けなくて……」

「ううん、いいよ。仕方がないよ。だって後半の活躍、すごかったからね」


 絢は全く気にした様子がなく、笑顔で試合のことを思い出していた。美影も絢の言葉に協調するように何度か頷いていた。急に絢はに寂しそうな顔になる。


「やっぱりみーちゃんは羨ましいなぁ……」

「どうしたの? いきなりそんな羨ましいって……」


 絢の言葉に美影は驚いた顔をしている。俺はさっき同じようなことを言っていたのを思い出した。


「いつもこうやって間近で見られて、この前の学校の球技大会も凄かったんでしょう」

「えっ……あっ、う、うん」


 珍しく美影が動揺した返事をして、なんで絢が知ってるのという顔をして俺を見る。俺は知らないという感じで誤魔化すように笑みを浮かべていた。

 絢は段々と拗ねたような口調になってくる。


「それになんかドラマみたいによしくんに抱きついたりして……」

「えっ、えっと……なんでそのことを……」


 美影はかなり動揺している。さすがに可哀想になってきたので、助けようと話に割り込もうとすると絢の表情は一転して元の笑顔に戻った。絢にしてはなかなか手の込んだことをしたなと見て思わず俺も笑顔になる。


「ふふふ、冗談よ。みーちゃんはよしくんの彼女なんだからいいのよ。でも羨ましいのは本当だからね」


 絢は笑顔で美影に言っていたが、最後の羨ましいのところはやはり本気だったみたいだ。美影も絢の顔をみて少しムッとしていたがすぐに笑みが溢れていつも二人の空気になっていた。試合前の美影の顔を見た時はいろいろ考えたが、今の絢と美影の顔を見ると大丈夫だと安堵した。

 この後、夕方からの予定を話し合って絢は先に一度家に帰ることを告げて俺達と別れた。

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