第20話:見えない出口

 悠太はあることに悩んでいた。それは、“同級生とどのように接して良いのか分からない”ということだ。これは、以前から少しずつ肌では感じていたが、最近になり顕著に表れることが多くなっていた。その理由の多くが“柚月のお兄ちゃん=妹大好き”という一部の保護者からの目、“柚月ちゃんがいないと存在が薄い”という一部の同級生からの目だ。


 この事が少しずつ深刻化してきたのが、3年生に進級したばかりの頃だった。2年生の時は柚月があまり学校に来ていなかったこともあり、“柚月を不登校にした”というレッテルを貼られたことでそれまで周囲から得てきた信頼を少しずつ失うようになっていた。そして、その信用を失う事態になったのも一部の同級生からの“お前が柚月の代わりになってやれよ”という心ない言葉が発端となり、彼の周りから1人、また1人と減っていったのだった。


 しかし、この事は全くのデマだということは分かっていても、当時小学2年生の同級生たちには理解しにくくかつこの話しを親から言われた事で真偽の判断をすることがむずかしく、反抗できる状況でもなかった。


 そのため、この事を先生に相談したいと思ったが、注意された同級生からの嫌がらせやデマなどがエスカレートしないか不安になり、先生にも言えないような状態になっていた。


 そして、先生に言えない他の理由として“大事になっては困る”という自己防衛の気持ちが働いていたのだ。彼は以前にいじめを受けた時も先生には相談せず、自己解決していた。そして、同じクラスの同級生が先生に報告してくれたことで事が収まった過去がある。


しかし、この時はまだ友達がいたが、今は友達がいても巻き込みたくない、巻き込まれたくないという気持ちをお互いに持っていて動いてもらえるかどうかは分からなかった。実は最近も別のクラスでいじめが発生し、その子の友達が「止めなさいよ!ひどいじゃない!」と言った事で今度はこの子もいじめられるようになってしまったというのだ。


 彼はその話を聞いてからというもの、何をされても反抗せず、ただ事が収まるのをひたすら待つことが多くなっていった。


 先生は“悠太君は頑張って学校に来られて偉いね”と言われて、彼は嬉しかったのだろう。先生から褒められることに喜びを感じていて、その事が嫌な気持ちを忘れさせ、嫌な事がこの喜びが越えさせてくれたと言って良いだろう。


 彼にとっては辛かったが、この事が将来的には忍耐力を付けることに役立っていると思ったからだろう。そして、彼が我慢することが問題解決を進めると彼自身が思っていた。


 しかし、彼の問題は学校を揺るがす問題に発展することになる。それは、2学期が始まって間もない頃に4年生の優の集団いじめ事件が学区内の公園で発生した。その事件は優が複数人の子供たちに囲まれて、金品の要求や身体的暴力などを受けて全治3ヶ月の骨折を負ったというものだ。この事案が学校に最初に報告されたのは週末だったこともあり、事件が発生してから3日後に優の両親が担任に直接連絡してきたのだ。そして、優から上京を聞くと、6年生数人と彼の友人である弘毅、純平など4人が関わっていることが分かった。そして、彼が名前を挙げた児童に対して担任から事実確認をしたが、どの子からも“やっていない”という回答しか返ってこなかった。


 そこで、彼らといつも遊んでいる子供たちからも話を聞いてみることにした。


 すると、ある気がかりな証言が出てきたのだ。それは“3年生である子がいじめられて学校には来ているけど元気がない”という女子児童からの証言だった。


 その話をしてくれたのは柚月と同じクラスでいろいろな事子と遊んでいる茉奈だった。その話を聞いた学年主任は彼女に個別面談室に来てもらい、詳しい話を聞くことにした。後日、彼女を個別面談室に呼び、その証言の真意を尋ねながら確認した。先生は彼女が着席して少ししてから「それは誰のことか教えてもらえますか?」と聞くと「悠太君です。」とはっきりと答えた。


 その時、先生が数日前に教職員会議の時に提言されたいじめ等関連事例報告書に書いてあった内容のいくつかあった疑念とその子の証言が一つの線で繋がった。そして、先生が「茉奈さん教えてくださりありがとう!この事はその子たちには話さないので安心して欲しい。」と話して、彼女は教室に帰っていった。その後ろ姿がやけに寂しそうだったことはのちに先生が茉奈の交友関係を見たときに気付いた。


 その後、担任の先生はすぐにいじめ等調査報告書を作成し、学年主任の承認をもらい、校長に提出した。すると、その書類を見た校長先生の顔色が今まで見たことがないほど青ざめて、血の気が引いてしまったのではないかと思うほど表情が変わった。


 担任の先生は“何かやってはいけないことをやってしまったのか?”とかなり不安になった。実は同じ報告書が1週間前に提出されていたため、この学校でいじめが確認・調査をされたのは3件目ということになり、3年・4年・6年と1週間に1件のペースでいじめが起きていたということになる。


 そして、その週の緊急教職員会議で校長先生がそのようになったことの理由が分かった。それは“管理職評価”という管理職は一般教員とは異なる評価をされているため、いじめや不祥事などが起きると異動などの際に異動先が決まらないなどの影響があるのだ。


 その頃、頑張って登校していた悠太の身体に異変が起きていた。それは、原因不明の蕁麻疹のような赤い斑点が身体中に出るようになったのだ。彼は絶対に両親に分からないようにその部分を隠しながら何とかやり過ごそうとした。


 しかし、身体中の発疹が首の辺りで斑点のようになると、那月から「悠太、首の辺り真っ赤だよ」と声をかけられると「これは何でもない」と言ってその部分を隠すように自分の部屋に走って戻っていった。

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