ゲームの世界に勇者として召喚された魔王は勝手に無双する。異世界チートなんて邪魔なだけだし、王女の事情なんて関係ない。そもそも俺は正義じゃないから。そんな魔王と一緒に召喚された高校生が翻弄される話。

岡村豊蔵『恋愛魔法学院』3巻制作中!

第1話 宮村淳士


<< Atsushi side >>


 高校二年の夏休み、予備校からの帰り道。俺、宮村淳士みやむらあつしは突然閃光に包まれた。


 気がつくと薄暗い部屋の中で、白いローブ(?)を着た人たちに取り囲まれていた。足元で光っているのは……魔法陣だよな?


「ようこそ、クロムウェル王国へ……異世界の勇者様」


 これって……まさかの異世界召喚って奴か!


 白いローブの人たちは宮廷魔術師で、俺が案内されて向かった先は、ファンタジーRPGに出て来るような豪華な王宮の広間。他にも俺と同じで、如何にも異世界召喚されましたという格好の人が何人もいた。


 そして、騎士を従えて広間の奥の玉座に座っているのは……超絶美少女だった!


 ミルクティーベージュの外跳ねミディアムヘアーに、パッチリ煌めく琥珀色アメジストの瞳。白く滑らかな肌とピンクの唇。ちなみに俺が女の子の髪型とかファッションに詳しいのは……モテるために勉強したからだよ。全然成果はなかったけどさ……


「私はエミル・クリステリア、クロムウェル王国の第一王女よ。異世界から召喚した貴方たち勇者には、この世界を救うために魔王と戦って貰うわ」


 へえ……エミルたんって言うのか。美少女な王女様に勇者に魔王って、如何にもテンプレだけど。せっかく異世界に召喚されたのに、マニアックな世界も頂けないからな……テンプレ万歳!


 そんなことを俺が考えていると……空気の読めない奴が、いきなり乱入して来た。


「なあ、エミル。それって、おまえたちの勝手な都合だよな」


 胸元が開いた白いシャツに黒革のボトム、裸足に踵のない靴って……ホストかよって思ったけど、何となく雰囲気が違う。エミルたんを呼び捨てって……おい、顔が近いって! それにしても……こいつはいつの間に移動したんだ?


「エミル殿下! 貴様……勇者だからと、何をしても許されると思うな!」


 剣を抜いた騎士たちが、空気を読めない奴を取り囲む。周りの魔術士が何か呟いてるけど……もしかして、魔法を詠唱してるのか? やった! 魔法が見れると俺は期待したけど……エミルたんが止めてしまう。


「貴方は召喚される前から魔法が使えるってことよね? なかなか優秀じゃない……不躾が過ぎるけど、私は嫌いじゃないわよ」


 え……空気の読めない奴が魔法を使ったってこと? それにエミルたん、嫌いじゃないって……どういう意味?


 ちょっと距離があって角度的にも見づらいから、彼は騒ぎに紛れてエミルたんの方に移動する。そいつは俺と同じくらいの年で……イケメンだった。髪も目も黒いけど、全然日本人っぽくない……ハーフとか反則だろう!


「ねえ、貴方……名前を教えてくれない?」


「カイエ・ラクシエルだよ。俺もおまえみたいな奴は嫌いじゃないけどさ。そっちの勝手な都合で召喚した癖に、魔王と戦えって命令するのか?」


「そうね……確かにその通りね。訂正するわ……勇者カイエ・ラクシエル、どうか私たちを救うために力を貸して下さい」


 あ、空気が読めないイケメンは、ハーフじゃなくて外人だった。ていうか……勝手に話が展開してるよ。俺ってモブじゃなくて勇者だよね?


「魔王と戦うかどうか決める前に……エミル、質問に応えてくれよ。おまえが俺の知らない言葉で喋ってるのに意志疎通ができるとか、俺の身体に起きた変化とか……これって誰の仕業だよ?」


 え……言われてみれば、エミルたんが喋ってるのは日本語じゃない。だけど、何で意味が解るんだ?


「もう全部気づいているなんて……カイエ、貴方って本当に優秀よね。良いわ、教えてあげる……正直に言えば、私も理屈で理解してる訳じゃないけど、異世界から召喚した勇者には、神様が『特別な力』を授けるって言われているわ」


「へえー……言われている・・・・・・ってことは、おまえも神様に会って直接確かめた訳じゃないんだよな?」


「当たり前じゃない。神様に会える筈がないでしょ?」


 うーん……話している内容は、如何にもゲームやラノベって感じだけど。どうしてイケメンは説明される前から知ってるんだ?


「ねえ、カイエ……結局のところ、貴方は魔王と戦ってくれるの?」


「そうだな……とりあえずは保留だな。俺には魔王って奴と戦う理由がないから、おまえの言いなりになるつもりはないよ。まあ、この世界に興味はあるし……自分の目で見極めから、どうするか決めるよ」


「良いわ……カイエ、貴方が私のために・・・・・戦ってくれるように、絶対に懐柔してみせるから」


 はい、俺のモブ確定。こいつが完全に主人公じゃんか! 


 そこから、エミルたんが色々と説明してたけど……燃え尽きた俺は、何も聞いていなかった。ああ、エミルたん……酷いよ。


「あの……質問しても良いですか。魔王を倒したら、私たちは元の世界に戻れるんですよね?」


 女の子の声に俺が復活すると、明るい色のショートボブの子が質問していた。白いTシャツに青のキャミとジーンズ……うん、結構可愛い!


 最初は異世界召喚に舞い上がって、その後はイケメンに翻弄されて燃え尽きて忘れてたけど……そう言えば、帰る方法を訊いてなかったな。だけどお約束だし……魔王を倒せば元の世界に戻れるんだよね?


「質問の意味が解らないわ……魔王を倒せば、私は望むままの褒賞を与えると言ったわよね?」


 あれ? なんか雰囲気が違う。エミルたんの有無を言わせぬ迫力に、ショートボブの女の子は黙ってしまう。他に何か言いたいことはあるかしらと、エミルたんは俺たちを見るけど……もう質問できる空気じゃないよね。


 えーと……褒賞の中に、元の世界に帰ることも含まれてるってことだよね?

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