第22話 主人公-22

          *


 『好天に恵まれました本日、ただいまから緑ヶ丘学園野球部と、おなじく緑ヶ丘学園愛球会の女子チームとの対戦が行われようとしております。本日の実況は放送部の、わたくし、むろ和子がお送りします。解説は、いつもは緑川由起子先生にお願いしておりますが、本日緑川先生は女子チームの監督として参加しておりますので、特別に、卒業生であります、旭学園のヒーロー、緑川直樹さんにおこしいただきました。直樹先輩、よろしくお願いします』

『上手だね』

『そうじゃなくて』

『あ、はいはい、よろしく』

『あのぉ、本物の緑川直樹さんなんですよね』

『はい』

『あたし、ファンなんです』

『いいの?実況がそんなこと言ってて』

『いえ、いけません。気を取り直して。

 えー、本日はよろしくお願いします』

『はいはい』

『緑川先輩は、この試合についてどう思われますか?』

『どう、って言われても、ランニング途中で捕まって、いきなりここに座らされたからなんとも言えないけど。大体、この女子チームっていうのは、なんなの?』

『あ、失礼しました。まず、それから、説明しないといけません。えー、手元の資料によりますと』

『よく、そんな資料あったね』

『えぇ、こっちは、とんでもない情報蒐集家がいますから。えー、資料によりますと、…愛球会はご存じですね』

『あぁ、野球の同好会。一回、野球部に勝ってるんだよね』

『はい、その通りです。えーと、その愛球会に女子が増えた。それで、いっそのこと女子だけで、チームを作っちゃえ、ということになってできたのが、この女子チームということです』

『へぇ~。それで、うまいのはいるの?』

『はい。手元の資料では、サンディ。彼女は元々愛球会のエースですから、御存知ですね?』

『金髪の娘だね』

『えぇ。それから、清水朝夢見さんと明日未来さん。二人とも由起子先生の弟子だということですが、御存知ですか?』

『清水さんは知らないけど、ミキちゃんなら、うちに居候してたから知ってるけど、そんなに野球がうまいとは知らなかったな』

『あら、居候してたんですか?羨ましい…』

『なに言ってるんだよ。それから?』

『あとは、緑川由理子さん』

『そうなんだよな。由理子が入ったんだよな』

『上手なんですか?』

『小学校のときは、いつも、オレや直人と一緒に野球やってたから、うまいよ』

『そうなんですか。それから、愛球会のメンバーの朝霧涼子さんと桜井恵理奈さん』

『メンバーだからうまいとは限らないだろ』

『まぁ、そうですけど。あとは、ほとんど初心者だそうです』

『まぁ、サンディはちょくちょく見てたけど、結構うまいから、野球部も手こずるだろうな』

『そうですか』

『だけど、野球部の江川の球は打てないだろう』

『でもないみたいですよ。清水さんと未来さんは、噂のファントム・レディらしいですから、もうバケモノみたいだということです』

『ファントム・レディ?ホント?』

『だから、由起子先生の弟子なんです』

『あぁ、そうか。じゃあ、わかんないな、このゲームも』

『そうですか。では、直樹さんの予想では、どちらが、勝つと思いますか』

『まぁ、野球部の方は力量を知ってるけど、女子チームの方は知らないんで、なんとも言えません。本当にファントム・レディなら、二人もいるなら、女子チームが勝つでしょう』

『そんなにすごいんですか?』

『俺も噂しか知らないから、はっきり言えないけど、由起子先生は高校のとき一四〇キロ代の速球をほおっていたっていうし、いまでもプロで通用するんじゃないかっていうことだから、もし、本当に二人もファントム・レディがいるなら、女子チームが有利でしょう』

『でも、うちの野球部はベスト四ですよ』

『でもなぁ。たかだかベスト四だろ?ずば抜けて強いなら、こんな試合なんかやらないだろ』

『この試合のきっかけは、またイチロー君だそうです』

『あのバカ!まったく騒動屋だな』

『イチロー君が挑発したということですから、野球部としては受けざるを得なかったようです』

『これで負けたら恥だな』

『本当ですね。さあ、両チームともベンチ前で円陣を組んでミーティングをしています』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る