第16話 主人公-16
一番の朝夢見が打席に入った。相手のピッチャーは、少し戸惑っているようだった。小柄な眼鏡を掛けた少女が一番で左打席に入ってきた。その事に、明らかに戸惑っていた。様子を見るような加減で、第一球が投じられた。と、一閃、バットが振り抜かれた。打球は快音を残して、外野ネットを飛び越えた。驚愕の声の中、ゆっくりと朝夢見はグラウンドを回った。呆気に取られたメンバーの中で、ミキとしのぶとサンディだけが、喜んで朝夢見を迎え入れた。あまりにぼんやりしている面々を見て、朝夢見は言った。
「どうしたの?」あゆみ
そう言われて、高松はようやく気持ちを取り直すことができた。
「さ、さぁ、続くぞ。次は、誰だ」高松
「行きます」木村
相手のピッチャーも気を取り直して慎重に攻めてきた。木村は簡単に凡打で退いた。
次は未来だった。打席に入った未来は、静かに佇んでいた。第一球を簡単に見逃すと、二球目を待った。相手のピッチャーもまだ慎重に投げてきた。が、未来の打球は高々と舞い上がり、ライトのネットを直撃した。未来は脚を生かして、一気に三塁まで駆け込んだ。三塁打。歓声の中で大きくガッツポーズを取る未来の姿は、颯爽としていた。
その後も愛球会の打棒は続き、試合は圧勝で終わった。
帰りのバスの中で、楽しげな会話が続いた。
「でも、すごいね。あゆみさんもミキさんも」木村
「四ノ四だろう。ホームランも打つし」中沢
「バケモンだよ」山本
「拗ねてやんの。今日は、調子が悪かったから」中沢
「うるせい」山本
朝夢見と未来は、仙貴やサンディと楽しげに話している。
「さすがだね、二人とも」仙貴
「仙貴は出る場面がなくて残念ね」あゆみ
「アタシにも、教えてください。バッティング」サンディ
「サンディも調子良かったじゃない」亮
「デモ、まだまだデス」サンディ
「あんまり、この二人を手本にしないほうがいいよ」仙貴
「どういう意味よ」ミキ
「まぁ、その通りなんだけどね」あゆみ
こうして話している姿は、ただの女の子だと、しのぶは思った。ふと、前にいた林に目がいった。林はぼんやりしている。しのぶは、林に話し掛けてみた。
「ね、林君。林君も、あんなふうになるの?」しのぶ
「…え。…僕には、無理だよ」林
「でも、特訓してるんでしょ」しのぶ
「うん。でも…、自信ないな」林
「…そう」しのぶ
「…でも」林
「なに?」しのぶ
「あんなふうに、活躍できたら、いいな」林
「きっと、大丈夫よ」しのぶ
ぽつりと漏らした林の言葉にしのぶは嬉しくなって励ました。きっと、大丈夫だ。だって、あゆみさんと仙貴さんが、コーチしてるんだから。しのぶは、楽しげな朝夢見と仙貴の二人に目を向けながら、どこかわくわくしていた。
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