第12話 主人公-12


          *


 「話っていうのはね」

ベンチの横で金網にもたれながら、朝夢見は仙貴に話し掛けた。

「ほら、あの子」

「どれ?」

朝夢見の指した方向を仙貴は探した。

「気がつかない?あの子、ショートの子」

仙貴は、しばらく、練習しているショートのプレーを見つめていた。

「あぁ、あいつか。そうだな、割とうまいんじゃない」

「それだけ?」

「まぁ、大体、言いたいことはわかるよ。でも、どうする気だ」

「どうって、彼、すごくいい素質持ってるわ。この間からずっと練習中気になってたんだけど、他の子たちとちょっと違うと思わない?筋肉も、いい具合についているみたいでしょ」

「まぁ、他の選手とはちょっと違うな」

「彼を鍛えたいの」

「は?本気か?」

「本気よ」

「それは…、まさか」

「そのまさかだとしたら?」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫、別に最後まで教えるわけじゃないから。あたしが教えようとしているのは、基礎訓練。あくまで、いまの筋肉を鍛えるだけ」

「でも、そのトレーニングは、ファントム・レディと同じなんだろ?」

「さすがは仙貴、察しが早いわ。そう、あたしは、彼に、ファントム・レディのトレーニ

ングをしてみたいの」

「だけど、ファントム・レディは・・・」

「・・・男には使えない。男の筋肉だと堅すぎて、断裂してしまう、と言われているわ」

「じゃあ、まずいんじゃないのか」

「だけど、彼の筋肉は柔らかそうだし、あれだけの素質が埋もれているのはもったいないわ」

「だけど…。由起子先生に相談したの?」

「んん。あたしの判断でやってみたいの。もちろん、彼の意志も確認しないといけないけどね」

目を輝かせて、そう語る朝夢見に仙貴は納得した。

「いいよ。やるなら、手伝うよ」

「ありがとう」

 そんな二人のツーショットを見つめて、しのぶはやきもきしていた。

―――一体、何を話してるんだろう。

二人は打ち解けた雰囲気で笑顔で話している。


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