第10話 主人公-10
四人で囲む食卓は、久しぶりだった。それは、大体、朝夢見かしのぶがアルバイトの都合で欠けていて、土日は未来が実家に帰っているためだった。このマンションに、しのぶが住むようになってから、未来も住み始めていた。
「未来ちゃんは、カレと一緒に通学した方がいいんじゃないの?」
周りからそんな風に言われた未来だったが、
「あたし、もう、ひとりの方が、馴れちゃった」と言いのけて、このマンションに同居始めた。それまでに住んでいた、朝夢見も仙貴もしのぶも簡単に受け入れてくれて、こうして食費を出し合って生活していた。
「ん、やっぱり、あゆみちゃんの料理は美味しいね」ミキ
「ありがと。お世辞はいいわよ」あゆみ
「お世辞じゃないわよ、ホントに美味しいよ」しのぶ
「ほら、ね」ミキ
「そう言って、あたしに炊事を押しつけようとしてるでしょ」あゆみ
「まさかぁ。ちゃんと、あゆみちゃんがいないときは、あたしとしのぶちゃんで、作ってますよ、ね」ミキ
「ぅうん」しのぶ
「どうしたの?」あゆみ
「あんまり、あたし、自信ない…」しのぶ
「そんなことないよ。それなりには、作ってますよ。ね、仙貴君」ミキ
「ん」仙貴
「そっけないわね」ミキ
「あ。でも、誰が作っても美味しいよ」仙貴
「お上手ね」あゆみ
「結構、仙貴君って、味音痴なんじゃないの?」ミキ
「いや、自分じゃあ作れないから、文句言えないだけ」仙貴
「そうか、我慢してるってわけね」ミキ
「そんなことないよ。ホント、一人だったら、コンビニで済ますとこなんだから、感謝してるよ」仙貴
「でも、味には不満あり、なんてね」ミキ
「もういいじゃない」しのぶ
「まぁ、このくらい上手になれたらいいんだけどね」ミキ
「あたしン家は、母子家庭だったし、お母さんが働いてたからね、手伝いがてら、よく作ってたのよ」あゆみ
「母の味ってわけね」ミキ
「いいな、色々作れて」しのぶ
「たいしたことないわよ」あゆみ
「でも、料理ができると、女の子らしく思われるじゃない。ね」しのぶ
「なんで、俺に、振るの?」仙貴
「そう思わないかってこと」ミキ
「まぁ。でも、まだ中学生だし、そのうち色々できるだろ」仙貴
「そうありたいものね」ミキ
「ミキちゃんはカレシがいるんだから、大丈夫よ」あゆみ
「でもね、これは、才能だと思うの。あたしも、ずっと家出して、コンビニで済ましてたから、こんなの作る人が偉く思えちゃう」ミキ
「あたしも」しのぶ
「もういいわよ。さ、冷めないうちに食べましょ」あゆみ
「ところで、仙貴君。今日、愛球会で遊んでたんだって?」ミキ
「あぁ、まあね」仙貴
「どうした風の吹き回しなの?」ミキ
「ちょっと、気になったんだよ」仙貴
「なにが?」ミキ
「だって、ここの二人も入ってるんだから、ちょっと、見てみようと思ったんだ。そしたら、あゆみに引きずり込まれて」仙貴
「あたしは、どう?って言っただけよ」あゆみ
「でも、誘っただろ」仙貴
「まぁね。でも、楽しそうだったわよ。ね、しのぶちゃん」あゆみ
「ん、うん」しのぶ
「仙貴君も、愛球会入るの?」ミキ
「もう籍は入れられたんだ」仙貴
「え?もう?」ミキ
「いきなり、入ってくれっていうことで、代打専門で入会」あゆみ
「なんだ。じゃあ、あたしも入ろう」ミキ
「え、ミキちゃんも?」しのぶ
「うん。だって、そんなの、あたしだけ、仲間外れじゃない。入ろ、決~めた」ミキ
「いいのかな?」しのぶ
「いいんじゃない?」あゆみ
はしゃぐ未来の前で二人は顔を見合わせながら、微笑み合った。
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