追加エピソード1

 結城の実家から帰省し、家に着いたのは昼過ぎ。

「……」

「……」

 結城と小鳥は互いに黙ったまま結城の家の中へ入っていく。

(……うごお、死ぬほど緊張する)

 結城は内心そんなことを思った。

 ポケットの中には、先日大坂に押し付けられたコンドーム。

 隣に立つ小鳥は、表情を硬くして俯いている。

 ……そう。

 これから自分は彼女とセックスをする。


   □□


「……」

「……」

 帰宅して玄関に辿り着いてから約十分。

 未だに結城と小鳥は動かずにいた。

 結城は隣に立つ小鳥を見る。

 普段一緒に学校から帰ってきたときなどは、小鳥が結城の制服や着替えを手際よく回収してすぐに家事を始めるのだが、今は電池の切れたロボットのようにカチコチに固まっていた。

(……そうだよな。当然小鳥も緊張してるんだよな)

「……ふう」

 結城は一息ついて気合いを入れる。

 ここは彼女のために虚勢を張ってやるべきだろう。

 男を見せろ、結城祐介。

「……小鳥」

 結城は小鳥の肩に手を置く。

 小鳥は体をピクリとさせた後、顔をこちらの方に向ける。

 やはりその表情は硬かった。ここまで緊張した表情は、初めて手を繋いだとき以来だろうか?

 小鳥の顔が結城の視界を埋める。

(やっぱり、最高に可愛いな。俺の彼女)

 長いまつげに整った優し気な目鼻立ち。シミ一つない色白の綺麗な肌。

 綺麗で可愛くて……愛しい。

「ええと……なんですか結城さ……んん!?」

 結城は小鳥の肩を抱き寄せると、問答無用でその唇にキスをした。

 驚いて目を見開く小鳥。

 結城は気にせず小鳥の口に自分の舌を入れる。

「ん、んん!?」

 突然の出来事に体を強張らせる小鳥。

 しかし……。

「ん、ん……あっ……」

 少しすると、小鳥も結城の舌を優しく迎え入れるように舌を絡めてきた。

 そうして数分間。

 たっぷりと小鳥の舌の感触を味わったあと、結城は唇を離した。

「……はあ、はあ」

 小鳥は顔を紅潮させて、少し呆然とした感じでこちらの方を見てくる。

 少し腰が抜けてしまったのか、立っている足元がふらついている。

 自分とのキスでこんなに感じてくれるというのは……男として単純に嬉しかった。

「……ゆ、結城さん?」

「先にシャワー浴びてくる」

 結城は小鳥の目を真っすぐ見てそう言った。

 小鳥はそれを見て小さく頷いた。

「……はい。着替えとタオル置いておきますね」

「うん、ありがと。いつも気が利くな」

 結城はそう言うと確かな足取りで玄関から上がり、浴室に入っていった。


   □□


「……暖房よしと」

 シャワーから出た結城はパンツ一枚でベッドの上に座ってエアコンを操作した。

 設定温度はやや高め。まだ一月のこの時期に裸でいるのだから、温かくしておくのに越したことはないだろう。

 部屋の明かりも薄暗い間接照明にしてある。よくは知らないが、こういう時はちょっと薄暗いのが雰囲気が出る……気がする。

 浴室の方からは小鳥がシャワーを浴びる水音が聞こえる。

「てか、このシチュエーションならバッキバキになるもんかと思ったらそうでもないんだな」

 先ほどはカッコつけられたが、やはり緊張の方が勝って息子はあんまり元気がない。

 まあ藤井から聞いた話では、男の方も始めては緊張で上手くたたない人の方が多いくらいだそうだが。

(……おいおい頼むぞー、俺の分身。いつも小鳥が髪を指で上げたりしてるときに勝手に元気になったりしてたじゃないか。いつものパッションはどうしたんだ)

 そんなことを考えていると。

 シャワーの音が止んで、ドライヤーの音が聞こえてきた。

 小鳥は髪が長いのでしばらくドライヤーの音が響いていたが、それも止まった。

 ……いよいよである。

「……結城さん、上がりました」

 小鳥の声と足音がして、結城は顔を上げて小鳥の方を見る。

 顔を上げればきっとそこには、小鳥の艶やかな風呂上がりの体が一糸まとわぬ姿かタオル一枚だけ巻いて存在していることだろう。

「……あれ、小鳥?」

 小鳥の姿を見て結城は少し拍子抜けする。

 いつも通りの制服姿だったのだ。


――――

 お待たせしました。ちょっと他の仕事も立て込んでいるので、次回の更新は……来月くらいまでにできるといいなあ。もう、この追加エピソードは完全に趣味の領域なのでマイペースにやっていこうと思います。

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