第7話 プレゼントしたい2
「んー」
翌日。
結城は学校の帰りに、近所のショッピングモールの中にある携帯ショップに立ち寄っていた。
「うーむ。初白のを買ってやろうかと思って来てはみたものの、考えてみりゃ未成年が買うのには親の同意がいるんだったな」
というか、彼女がうちに来てもうすぐ一週間になるのに特に騒ぎにもならないというのはどういうことなのだろうか? 両親は行方不明者届とか出さないのか? 学校だってしばらく行かなかったら色々動くだろう。
「ってか、そもそも本体価格とか基本料金考えたら初白は絶対遠慮するだろうなこれ。ぬいぐるみ一つでさえメチャクチャ恐縮してたし」
「もう、いっそのこと黙って買っていっちゃうかな。うーんでも、それはそれで、申し訳無さが限界突破して家に居づらくなったりとかしそうなんだよな初白は」
日頃の感謝を形にしたくはあるのだが、相手が喜んでくれなければ意味がない。
そんなことを考えながら、何かいいものはないかとショッピングモールをウロウロしていると、ある広告を見て結城の足が止まった。
「……これならいいかもしれないな」
◇
「ただいま」
「お帰りなさい、結城さん」
家に帰るといつも通り初白が出迎えてくれた。
「今日は珍しくバイトが無いという話でしたけど、少し遅かったですね」
「ああ、ちょっと買ってきたものがあってな」
初白が首を傾げる。
結城は紙袋からショッピングモールのオモチャ売り場で買ってきたモノを取り出した。
「……ゲーム機、ですか?」
「おう。昔やってた作品のリメイクが出ててさ。懐かしくなっちゃったから買ってきてしまった。まあ、勉強の息抜きにでもと思ってな。それよりも、まずは飯だな。腹減ったわ」
「あ、そうですね。今日は焼き魚ですよ」
初白のレパートリーは和食中心である。なんというか、実家の祖母を思い出す丁寧な味付けがされていて、食べると安心する。
今日の晩飯も
◇
「さてと」
結城が買ってきたのはハードであるPW4と『聖槍伝説3』というソフトである。
まだかなり小さかった頃に友だちの家でやっていたゲームで、かなり楽しくプレイしていた記憶がある。
結城はそう言いながら、モニターに端子を挿していく。
ちなみにこのモニターは前に大谷に要らなくなったからと押し付けられ、一切使わずにホコリを被っていたものだ。
「お、ついたついた」
オープニングムービーがモニターに映し出される。
初白はおそらくゲームを見ること自体があまりなかったのだろう、物凄く興味深そうに映像を見ていた。
「……
「そうだな。俺が昔やってたやつはドット絵だったし、キャラに声も入ってなかったからなあ。最近の技術の進歩にはほんと驚くよ」
まあ、昔のドット絵はドット絵で味があって好きだが。
結城はコントローラーを手に取る。
「さてやるか。はい、初白」
「……え?」
俺の差し出した2Pのコントローラーを見て、目をパチパチとさせる初白。
「これ、二人プレイできるんだよ。せっかくだから一緒にやってくれないか?」
「……」
初白は恐る恐るといった感じで、コントローラーに手を伸ばす。まるで、自分がこんなものに触ってもいいのだろうかというように。
「頼むよ。初白……な?」
「……は、はい」
俺がなるべく柔らかい口調でもう一度お願いをすると、初白はコントローラーを手にとった。
初めての感触に、やや戸惑いながらも興味深そうにあちこちイジっているのが、無性に可愛らしかった。
「さて、ゲームスタートっと」
◇
結論から言うと、初白は本当にマジモンのゲーム初心者であった。
まず、AボタンとBボタンの基本的なお決まりを知らない。結城たちと同年代ならAボタンで決定、Bボタンでキャンセル、くらいは誰でも分かってるし自然と手が動くのが当然だろうが、初白は何度も間違えて「ごめんなさい、ごめんなさい」と頭を下げてきた。
そういうわけで、操作自体もとんでもなくトンチンカンである。
今も、戦闘中なのだが、初白の選んだ獣人のキャラクターが、誰もいないところで延々とコンボを素振りしていた。タミ◯ルでも飲んだかのような奇行である。
「す、すみません、結城さん。すぐに行きます えーっと、えい!!」
そう言ってスティックを体ごと豪快に傾ける初白。
それによって初白の獣人キャラは、なぜか敵とは反対方向に走っていき、ステージ端の岩の前で前進する動きを続けることになった。どこに行くつもりなのだろうか。ホ◯ワーツかな?
「ふう。あぶねえ。なんとか倒せたな」
結城がなんとか一人で敵を倒しきる。HPは赤色だった。
「この辺から敵も強くなってくるなあ。あ、回復できる女神像だ。親切設計だな。ちょうどいいから、今日はここまでにするか」
そう言って結城はセーブをして電源を落とした。
「……うう、すいません。足を引っ張ってばかりで」
先程から謝りっぱなしの初白である。
「まあ、最初はそんなもんさ。それでやってみてどうだった?」
そう聞かれて、初白は少し困ったように長い黒髪を右手でいじった。
最近分かったことだが、これは思っていることを言っていいのか迷っている時の癖である。結城は初白の決心が固まるまで、じっと待つことにした。
やがて、初白は小さく口を開いて申し訳なさそうに言う。
「あの……たくさんご迷惑をかけたのにこんなことを言うのは
その言葉に、結城は。
よし と心の中でガッツポーズを取る。
「あの、結城さん。どうしたんですか? 急にガッツポーズなんかして」
「え? あ、いやいや、なんでもないなんでもない。まあ、でも、あれだな、すげえ下手っぴだったな」
「……うう」
「だから、あれだ。気が向いたら他のセーブデータ使って練習しときなよ。これ、一人でもシナリオ進められるやつだからさ」
「え、あ、はい。そうですね。また、ご迷惑かけるわけにもいきませんし」
「そうそう。さて、
結城はそう言いながら、立ち上がって満足そうに伸びをする。
これで、少しは一人でいる間の暇つぶしもできるだろう。
(俺は俺で楽しかったしな。あー、そういや、ゲームやって楽しいとか、いつ以来だっけなあ……)
少々勉強の時間を削られてしまったが、こういう時間も悪くない。そんなことを思った結城だった。
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