第2章 運び屋勇者

第8話 魔王討伐の偽装工作

 二回目の密輸は最初よりもやっかいなことになりそうだった。


 マルパスはまたしてもエイイチにベルナンケイアへ行くよう指示を出し、彼は再び世界港を経由して、中小企業の社長風王様が治める例の異世界へとやってきた。ここまでは初回と同様だったが、王の間で王様が想定外なことを言ったのだった。


「エイイチくん、今日はちょっと魔王城まで行ってもらえるかのぉ」


「え?」


「いやだって、二連続で即帰還とか普通に怪しまれるじゃろう?」


「あ、まぁそうですね」


「じゃろ? じゃからよろしく頼むわ」


「は、はぁ……まぁ、はい」


 というわけで、エイイチは魔王討伐のふりをする羽目になってしまった。王様いわく、例のカプセルは魔王城で製造されており、エイイチは勇者として召喚されたのであるから、魔王城に向かい、現地でそれを受け取っても不自然ではないだろうという理屈であった。


 そんなこと言っても、結局魔王を倒すわけじゃないから意味ないのでは? そもそも同じ世界に出入りすること自体不自然じゃないのか? 入世界審査イミグレにはどう言い訳するのか?


 王様の話にはツッコミどころがいっぱいあったが、宝石のメリケンサックを前にエイイチは気後れし、話は王様のペースでどんどん進んでいった。


 正直、魔王城の場所すらろくにわからぬエイイチであったが、王様は魔王軍との待ち合わせ場所や時間を一方的に告げた挙げ句、ドヤ顔でこう言った。


「うーむ。さすがにジャージでラスボスってのも変じゃろなぁ」


「え?」


「いや。勇者なら勇者っぽい身なりってのがあるじゃない。わかるじゃろう?」


「それはまぁ、わかりますが……」


「じゃろ? んじゃ、ワシ、そろそろ打ちっぱなしに行かないとじゃから、あとは適当に頼むわ」


「あ、ちょっと――」


 と、エイイチは追いすがろうとしたが、王様はやはり口を挟ませず、近くでうつらうつら半目で立っている大臣っぽい人に何やら言付けし、そそくさと王の間から出ていった。


 あいつマジなんなんだ、とあとに残されたエイイチは思った。そして、大臣っぽい人に城の外へと連れ出されたのであった。

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