7話「トルネルコに今後のことを相談するみたい」



「ふう、とりあえずこんな感じかなー」



 一区切りついた姫が、ため息交じりにそう呟く。あれから、ひたすら魔法の習得に集中していた姫は、その成果を確認するべく自身に鑑定をかける。




名前:重御寺姫


年齢:25歳


種族:人間


体力:300 / 350


魔力:320 / 2080


スキル:【火魔法Lv2】、【水魔法Lv2】、【風魔法Lv2 NEW】、【土魔法Lv2 NEW】、


【光魔法Lv1 NEW】、【闇魔法Lv1 NEW】、【生活魔法Lv2 NEW】、【回復魔法Lv2 NEW】、


【魔力操作Lv4】、【魔力制御Lv2 NEW】、【身体強化Lv1 NEW】、【鑑定Lv2】、【異世界言語学LvMAX】



修得魔法:


【火魔法】:ファイア、ファイアーボール、ファイアーアロー(NEW)


【水魔法】:ウォータ、アクアバレット(NEW)


【風魔法】:ウインド(NEW)、ウインドカッター(NEW)


【土魔法】:アース(NEW)、アースウォール(NEW)


【光魔法】:ライト(NEW)


【闇魔法】:ダーク(NEW)


【生活魔法】:クリーン(NEW)、ヒート(NEW)


【回復魔法】:ヒール(NEW)、キュア(NEW)


称号:異世界人、英雄の素質、九死に一生、八属性詠唱者




「ふむふむ、一言で言うなら……絶対にやり過ぎたなこりゃ」



 鑑定結果に、正直な感想を述べる姫。そう、彼女は少々どころではなほどにやり過ぎてしまっていた。



 この世界における魔法とは、先人たちが長い月日を掛けて研鑚してきたものを、今の時代の人々が先人の知恵を借りる形で習得したものだ。一つの魔法を開発するのに要する時間は、それこそ数十年から下手をすれば師から弟子に引き継がれ、数百年という時が掛かることも珍しくはない。



 だが、それはこの世界の人々の想像力とものを生み出す発想力が乏しいだけで、裏を返せばその二つを持っていさえすれば、魔法というものだけでなく様々な分野のものをいとも容易く作り上げてしまう。



 姫がたった一晩で覚えた魔法は、ごく一般的な才能を持つ魔術師や魔法使いが同じことをしようした場合、ほぼ100%に近い確率で不可能という結論に至ってしまう。



 そもそも、この世界の人々は種族や性別に関係なく、相性のいい魔法の属性を生まれながらに持っている。そして、ある一定の年齢になると教会などでその相性を調べてもらい、同じ属性を習得している人間に教えてもらうというのが、この世界の魔法の常識だ。



 まかり間違っても、誰にも教えられることなく、しかもこの世界に存在する大方の魔法を一晩で習得するなど前代未聞であった。



 しかし、オタクという人種である姫は、想像力や発想力が豊かであり、この世界の人々が魔法習得に一番苦労するイメージ力という点で既に賢者レベルにまで達しており、初級レベルの魔法であれば頭の中で思い描いたものを魔力を使って表現するだけで、とても容易に覚えることができてしまったのだ。



 そして、この世界にやって来た時に手に入れていた英雄の素質という称号が、魔法という一つの分野の才能を際限なく高めてしまっていた。



 姫自身の想像力と魔法という概念に対する理解力、さらに称号の効果による魔法の相性の全適正化によって、彼女の魔法の才能はチートレベルにまで引き上げられていたのだ。



 ちなみにこの世界の魔法の属性は基本属性が八つあり、その基本属性の上に上位属性というものが存在する。基本属性は火・水・風・土・光・闇・生活・回復の八つで姫が現在習得している属性全てがこれに該当する。



 上位属性については、基本属性のレベルを最大にまですると覚えることができ、その威力は基本属性の比ではないほどに強力なものが多い。



「なんか、中二病っぽい称号が増えてるんですけどー」



 自分の情報が表示されたウインドウの称号の項目に、新しい称号が追加されていることに気が付く。その名も【八属性詠唱者】といい、表記されている文字そのままなのだが、基本属性を全て習得しているものに与えられる称号で、その効果は基本属性で消費する魔力が大幅に軽減されるというものであった。



 魔法以外のスキルについては、魔力操作のレベルが上がっているのと、新しく魔力制御と身体強化のスキルが追加されている。



 魔力制御は、魔法を使用する際込める魔力の量を調節するスキルで、これにより最下級魔法でも高威力で使えたり、最上級の魔法でも最下級並の威力しか出ないようにしたりできる。このスキルを手に入れた経緯が、魔法が暴走して宿が壊れたら困るというなんとも言えない理由なのが、姫らしいといえば姫らしい。



 身体強化については、体全体に魔力を纏わせることで肉体を強化する魔法だということは、初めて使用した時に理解しているので、姫自身これについては特にこれといった感想は抱かなかった。



 いろいろといい意味で変わり果てた自分の姿に、多少なりとも達成感とやり過ぎた感の相容れぬ感情が交差する中、気付けば空が白み始めていた。



「昼間寝てたとはいえ、異世界に来て初日から徹夜してしまうことになるなんて思わなかった……日頃の習慣って怖いわー」



 姫が地球にいた時、仕事が休みの日になる前日とその次の日が休みの場合、ほぼ間違いなく彼女は徹夜をする。社会人にとって、休日という時間はそれこそ金よりも価値のあるものだ。それ故、日ごろの疲れを取るために寝て過ごすなどという勿体ないことなどできるわけもなく、自分の趣味に費やす時間を一秒でも確保するべく、寝ることを放棄するのだ。



 それはこの異世界に来てからも何ら変わっておらず、魔法の研究に没頭するあまり、気付けば朝になっていたのだ。



 どこにいても変わることのない自分の悪癖に苦笑いしながらも、ここにきて徹夜による眠気が襲ってくる。朝食の時間まで少し眠ろうかと思っていた姫だったが、残念ながらその願い敵わず、従業員が朝食の支度ができたことを告げに来てしまった。



 すぐに食堂に向かい朝食を済ませると、一旦部屋に戻る。



「さっそく、覚えた魔法が役に立つわね。てことで《クリーン》」



 姫は、昨日覚えた生活魔法のクリーンを発動させる。クリーンは、あらゆる汚れを綺麗にする魔法で、比較的簡単な魔法だ。割合的には五人に一人の割合で覚えている魔法で、この世界ではかなり重宝されている。



 クリーンによって綺麗になった姫は、しばらく部屋で時間を潰した。早朝から朝の時間帯になったのを見計らって身支度を整えたあと、部屋に鍵を掛け鍵を受付に預けてからその足でとある場所へと向かった。



「ここがトルネルコ商会ね」



 そう、アラリスの街に来るときお世話になった商人のトルネルコが経営する商会だった。中に入ると、手近な店員に声を掛け自分の来訪をトルネルコに伝えて欲しいとお願いする。



 そのあと、応接室のような部屋に通された姫は、トルネルコがやってくるまでしばらくボーっとしていた。



「お待たせいたしました。姫様、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「実は……」



 姫はこの世界で数少ない知り合いであるトルネルコに、自分が異世界人であることを隠したまま今の自分の境遇を話した。そして、今後どうすればいいのか相談をしに来たのだった。



 彼女の相談内容を箇条書きにすると以下のようになる。



・今の自分は田舎から出てきたばかりで、身分を証明するものがない。


・何か仕事を見つけて生活費を稼ぎたいが、目立って身分の高い人間に目をつけられたくない。


・女性なため荒事はあまり向いていないが、必要であればモンスターの狩りなども視野に入れている。



 一通りトルネルコに説明し、しばらくして彼が口を開く。



「まず身分を証明するものですが、一般的に平民で身分を証明するものを手に入れる一番の方法は、商業ギルドか冒険者ギルドに登録し、そこでギルドカードを発行してもらうことです。次に仕事に関してですが、こちらの場合姫様のやりたい仕事や向いている仕事などが現段階でわかりかねます。ですので、まずはギルドカードを手に入れるところから始めてみてはいかがでしょうか?」


「そうですか。ちなみに商業ギルドと冒険者ギルドどちらがいいのでしょうか?」



 その後のトルネルコの説明によると、商業ギルドは主に商いをする商人が所属する組織というイメージがあるが、それ以外にも仕事を求めている人の斡旋や自らが作った商品を持ち込んで売り込んだりもできるらしい。一方冒険者ギルドは、ギルドが発注する依頼を受け、その報酬を得ることで生計を立てている言わばなんでも屋のような側面を持っているとのことだ。



 そして、商業ギルドに登録する際はお金が掛かり、冒険者ギルドに登録する場合はお金が掛からないというところにも違いがある。何より、商業ギルドは荒事とは無縁の場所だが、冒険者ギルドは依頼の中にはモンスター討伐や要人の護衛をするものもあり、少なからず荒事と関わりが出てくるとのことだった。



 トルネルコの説明をよく聞き思案した結果、とりあえず荒事にならなそうな商業ギルドに登録することを姫は選んだ。



「わかりました。とりあえず、商業ギルドに登録しようと思います」


「承知しました。では、さっそく参りましょうか」


「え? あの、トルネルコさんも一緒に来てくれるのですか?」


「はい、ちょうど商業ギルドに用がございましたので、それならば私も一緒に同行しようかと思いまして」



 今の姫では商業ギルドの場所がわからないため、トルネルコの厚意に素直に頷き、二人は商業ギルドに向かうこととなった。

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