8話「商業ギルドに登録して、薬草採集をするみたい」



 トルネルコの案内で、姫は商業ギルドへとやって来た。さすがは商会をまとめ上げる経営者であって、移動は専用馬車での移動だった。



 たどり着いた建物は、木造ではあったが同じ種類の木が使われているのか統一性があり、外見からしてとても高級感のあった。



 中に入ると、正面から見える位置にいくつもの受付カウンターがあり、用途に応じて担当する場所が違うようだ。



 トルネルコはその中で、一番左端の受付に歩を進め、姫も黙ってそれに追従する。トルネルコの姿を見つけた受付嬢が、少し戸惑いながらも声を掛けてくる。



「これは、トルネルコ様。本日はいかがなされましたか? こちらは新規登録用の受付なのですが」


「こちらの方が新規で登録するので、案内をしてきたんですよ。それと、ギルドマスターに例の件で来たと伝えていただきたいのですが」


「かしこまりました。少々お待ちください」



 トルネルコの言葉を聞いた受付嬢が席を外し、奥の部屋へと入っていく。しばらくして、受付嬢と共に五十代くらいの白髪交じりの男性がやってきた。



「おう来たか、相変わらずあくどいことをやってるらしいなぁー、ええ?」


「いえいえ、私などあなたの悪行に比べれば微々たるものですよ」



 男性とトルネルコが、受付カウンター越しになにやら剣呑な雰囲気になる。ただそれは憎み合っているというよりも、仲のいい男の友情のようなものが感じられたので、ただの軽口なのだと姫は判断した。



「それで、このお嬢さんはなにもんだ? わざわざお前が連れてくるんだ。ただのお嬢さんじゃないんだろう?」


「ちょっとしたことで知り合ったただのお嬢さんですよ」


「けっ、どの口が言うんだか。てめぇがちょっとした知り合いを案内するわけねぇだろうがー。お前が案内するに足りる何かがそのお嬢さんにあるんだろ?」



 それからしばらくちょっとした言い合いが続いたが、お互い満足したのかトルネルコの口から姫を紹介された。



「初めまして、姫と言います」


「おう、俺はこの商業ギルドでギルドマスターをやってるダンケルってんだ。よろしくな、お姫様」


「ダンケル、姫という名前は彼女自身の名です。あまりそのような言い方は、感心しませんね」


「なんだと? そういうてめぇこそ、お嬢さんのこと“姫様”とか呼んでんじゃねぇか! 俺のことをとやかく言う筋合いはねぇと思うぜ」


「ま、まあまあお二人とも、彼女も困っていることですしそのくらいで」



 再び言い合いになる雰囲気を察知した受付嬢が、絶妙のタイミングで窘める。その後トルネルコとダンケルは別の用事があるとのことだったため、姫とはそこで別れた。



 ようやく商業ギルドに登録できることに、姫は内心でため息を吐く。



 そして、商業ギルドに関して受付嬢から説明があり、主な内容は以下の通りだ。



・登録するために必要な金額は3000ゼノ、大銀貨三枚(ギルドカードを紛失した場合、再発行手数料として小金貨一枚が必要になる)


・商業ギルドで取引する際、取引金額の15%を手数料として徴収する(取引金額が一万ゼノの場合、手数料は1500ゼノとなる)


・一定期間取引がなかった場合、ギルド員の資格を失い再利用するためには再登録しなければならない。


・国の法に抵触する行為を行った場合、最悪ギルドの資格を永遠に失う。




「説明は以上ですが、何か質問はありますか?」


「大丈夫です。登録をお願いします」



 特に問題なかったので、さっそく登録手続きを行う。登録は難しいことはなく、ただ名前を登録するだけで済んだ。



 登録自体は十分も掛からなかったが、ギルドカードを発行するのに少し時間が掛かってしまった。



 ギルドカードの発行を待っているところに、用事を終えたトルネルコが戻ってきた。それから、姫が今後どんな仕事をするのかという話になった時、彼はこう切り出した。



「姫様、よければ薬草採集などをしてはいかがでしょうか?」


「薬草採集?」


「はい、このアラリスの街近郊には薬の材料となる薬草の群生地が多く存在しており、低ランクの冒険者でも安全に採集ができます」


「危険はないのですか?」


「この街周辺にモンスターはほとんど出ませんし、精々が小動物程度の生き物しか生息しておりませんので問題ありません。ただし、薬草は見分けるのが難しいので、なかなか大量に採ってこれないというのが難点ですが」



 トルネルコがそう言うと、姫は思考を巡らせる。薬草採集は、異世界ものの物語ではよく登場する比較的有名な仕事だ。といっても、モンスター討伐などの仕事と比べるととても地味で実入りもあまり良くないというのが相場だったりする。



 しかしながら、現状どういった仕事をしたいかという要望を姫自身が持っておらず、自分に合った仕事があるのか現状把握できていない今は、いろんな仕事に挑戦してみるというのも悪くないと姫は考えていた。



 何事も経験が大切だということで、トルネルコの助言に従い、姫は薬草採集に挑戦してみることにしたのだ。



 姫の今後の活動の方針が決まったタイミングで、ちょうどギルドカードができたらしく、受付嬢が姫の名を呼ぶ。受付嬢からギルドカードを受け取り、トルネルコと共に商業ギルドを後にした。



 それから、商会に戻るトルネルコの馬車に途中まで乗せてもらい、そこからは徒歩で門を目指す。門に到着すると、商業ギルドで発行したギルドカードをさっそく使い、街の外へと出掛けた。



 トルネルコの話では、薬草の群生地は時期によって決まった場所にあるというわけではないらしく、その法則性はないとのことらしい。



「つまりは出たとこ勝負ってことだね。なんか、ソシャゲのガチャみたい」



 姫の口からオタクな発言が飛び出す最中、ようやくそれらしい場所へと到着する。



 そこには森とまではいかないものの等間隔に木々が覆い茂り、雑木林のような場所になっている。地面には所々に草木が生えており、土色の地面を緑色にしていた。



 姫はすぐに薬草を探してみるが、具体的になにが薬草でなにが雑草なのかその知識がない。しかし、姫には一つこの世界にやって来てから得た能力があった。



「これもまたこの世界の人たちにとってはチートなんだよね。てことで【鑑定】!」



 そう、姫が一番最初に手に入れた異世界の能力である鑑定、今回の薬草採集ではこれが大いに力を発揮することとなる。



 通常の薬草採集は、薬草が自生している場所へと赴き、図鑑などで調べた形と同じものを採集するというのが大体のセオリーだったりする。しかし、今の姫では薬草が自生している場所も薬草がどんなものなのかすらわかってはいない。



 だが、鑑定の能力があれば、その草がなんなのか教えてくれるため、ピンポイントで薬草を探し出すことが可能なのだ。鑑定の能力自体持っているものは稀ではあるが、決して珍しいものというものでもないため羨ましがられる程度だが、使い方によっては、これもまたチートと言えばチートである。



 それから、薬草採集を続けること数時間で入手できた薬草は以下の通りだ。



・メディク草 20本


・ベノム草 8本


・ライズ草 6本


・マジックマッシュルーム 13本


・ペッパー茸 8本


・マクレラ茸 3本




 夢中になって採集していたので、気付けばお昼を少し過ぎてしまっていた。そのことになぜ姫が気付いたのかといえば、採集が一段落ついたところで腹の虫が鳴ったからである。



 乙女としてはあるまじき行為だが、姫にとって幸いだったのはその音を誰も聞いていなかったことだろう。



 手に入れた薬草類をアイテム袋に収納し、ほくほく顔で姫は街へと帰還する。街の通りで肉串を売っている露店があったので、それを今日の昼食として頂いた。値段は一本、2ゼノである。



「うっぷ、さすがに4本は食いすぎたかな……」



 あまりに腹が減っていたので、いつも食べている量よりも多めに買ったのが仇となり、お腹が苦しい姫。腹ごなしがてら、街の様子を見物しながら姫はトルネルコ商会へと歩を進めた。

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