第25話 桜の木の下で

温泉から戻ったらユウスケは寝ていた

なんだ…

緊張して損したな


朝起きるとテレビでやっている映画を見る

「うどん」結構、前のやつだったかなぁ?

森山未來くんが主演の映画だ。

そう言えば、ユウスケはちょっとだけ森山未來に似ている。

だからなのか、私は森山未來が好きだ。


朝食を食べて旅館をあとにする。

なんの目的もなくウロウロする。

ブーツで歩いているから足が痛い

そんなのはお構いなしでユウスケはどんどん歩いていく

ちょっと待って。

が、言えない。

いつも何かに我慢して?何かに怯えて?

本音が言えない

空気、

空気を汚したくないんだ


私が言うことで、相手に気を使わしたり「ごめんね」を言わせたくないんだ

それを言わせることでとっても申し訳ない気持ちになってしまう

そうすると、空気が汚れるから居心地が悪くなる

何も無かったこと

感じなかったことにすると良い気がして

だから、いつも逃げてしまう

相手から自分の本音から逃げてしまう


まだ咲いていない大きな桜の木の下で、

この桜が満開だと海と桜でとっても綺麗だね

って話をする


「今度は桜が咲いた時に来ようね」

って約束をしてくれる

なんだが、とっても嬉しい

嘘でもユウスケとの未来があるということに心が浮足立つ


そして

その週のユウスケの担当するラジオで

その桜について話してくれていた。

なんだか二人だけの秘密を電波を通してみんなに話しているみたいでドキドキしたし嬉しかった。

認めてもらえない関係性を少しだけ披露出来たようなそんな気持ちにもなる。

「あれ…?これは、またユウスケに恋をしてしまったのかなぁ…」


ラジオを聴いて

あぁ、やっぱりこの旅行は私だけでなくユウスケにとっても特別な気持ちがあったんだって、

なんか、「同じ」を共有出来たことにとても特別感を感じたりもする

これは、二人にとって特別な旅行になったと思う


でも、17年後に知るんだよね…


こんなにスペシャルだと思っていたこの旅行のこと、ユウスケは全く覚えていない。

それどころか、

私と旅行に行ったことも映画に行ったこともカラオケに行ったことも一緒に料理を作ったことも全部覚えていない。

じゃあさ、

なんなの?

この時間はさ…

私との共有した時間達や思い出はユウスケにとってなんだったの…?


私はこんなに鮮明に覚えているのにね

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