第22話 一泊旅行へ

あれから何回かメールのやり取りをする

昔のドキドキが戻ってくる

前に閉めた蓋をまた開ける

懐かしいな…


夫は特に進展はない

夫婦喧嘩は良くも悪くも増えている

でも、まだ嫌いじゃない

ただ、悲しいだけ


とりあえず、一泊旅行に行くことになる

東京駅で待ち合わせをする


「もしもし?今、どこ?」

「本屋さん」

「じゃあ、そっちに行くから待ってて」

「うん。分かった。」

あー。この声。

この声がとても大好きだった。

やっぱり好きだな。ずっと聞いていたい。


「お待たせー」

「うん」

そう言いながら、自然にそっと腰に手をまわしてくる。グッと体を引き寄せる。

あー。これ、好きだったやつ。

そうだ…。ユウスケは華奢だけど実はそれなりに背が高いんだった。

ちょっと男を感じてしまう。


「どこ行く?全然決めてないんだよね。いつもはこういう時はちゃんと決めてるんだけどねー。」

「私も決めてないや…。どうしよっか?」

…って、何?ノープラン?

それは別に良いけど、いつもは決めてるって何?

それは、それだけリラックスしてるよ〜っていう嬉しい意味なの?

それとも、別に考えなくてもいいか〜くらいの相手って意味なの?

なんか、モヤモヤする。

聞きたくなかったなその言葉。


いつだってそうだ。

ユウスケはいつも自然体で感覚で生きている。

悪く言えば物事を深く考えない。

良く言えばありのまま

言わなくてもいいことも言っちゃうクセして

ホントの本音を言ってはくれない


私は逆だ

言わなきゃいけない事も言えないし

言いたくないことも相手に合わせて言ってしまう

空気を読んで相手を読んで色んな色に変身していく

いつの間にか本当の自分の色が何色なのかさえも分からない

それが、わかる人にはわかるんだと思う。

その相手の微妙な苛々を感じるときがある。

でもさ…

本音だって言えないんじゃなくて、いったい何が自分の本音なのかが分からないだけなんだよ。悪気はないんだよ。


自分って誰なんだっけ…

いつも迷子になる



結局、伊豆に行くことに決まった

新幹線代はユウスケが出してくれた


「てか、旅行中は仕事完全にオフにしてマネージャーとかにも絶対に電話してくるなって言ったら本当にしてこないやー」

「そっかぁー。ありがとう。いつもは忙しいんだね?大丈夫なの?」

「まじ、お前この俺の時間を独り占め出来るって凄いことだからねー。みんな羨ましがるよー。」

「そうなんね。ありがとう。嬉しいよ。」


んー。ユウスケはさっきから一生懸命自分の凄さをアピールしてくる。

私はねユウスケが凄くても情けなくてもどっちでも良いんだよ。

私は心をみてるんだけどな。。。

きっと分かってもらえない。


この旅行、どこか自分がちょっとずるいように思っている。

私は結婚しているけどユウスケは独身だから…

私のワガママに付き合わせている「不倫」ということになる。

「遊び相手」ということになる。


だからといって、ユウスケが私一筋になるようなタイプじゃないことは分かっている。

きっと、不特定多数の女の子がいるんだろうから…。ユウスケにとってはそんなに辛くはない筈だ。いつも通り、あんまり深く考えてないんだと思う。

だから、大丈夫だよね。。


夫に対しての罪悪感は勿論ある。

でも、こんなんだから相手のユウスケには罪悪感はない。

気楽だ。そう思うと相手がユウスケで良かった。。。


「ねぇ、実はさー。俺、結婚して子供もいるんだよねー。」

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