名もなき毒

憂凪69

第1話 歩道橋でのキス

「キスしていい?」

「いいよ」

夕方、大宮駅の歩道橋の上でちょっと生ぬるい温度の中キスをする。

昨日、会ったばかりの男の人に簡単に気を許すことなんて考えもしなかった。


でも、なんの違和感もなく当たり前に口から出た言葉だったから仕方がない。

キスをしたけれども、特になんにも感じられなかった。

でも、なんか白いワイシャツがカサカサして良かった。

それよりも、彼の抑えられない気持ちをただただ受け止めたかった。

彼が興奮して喜んでいる姿が嬉しくて受け入れてあげたかっただけ。

顔はほんと、かっこ悪いな。

でも彼が笑うと私の心が軽くなるなぁ。


ひょっとしたら、

この頃からこの関係性はもう決定付けられていなのかもしれない。


昨日から携帯の調子が悪くて仕事の帰りに駅前の携帯ショップに寄った。

赤いジャンパーを着た、テンション高めの親切そうに声をかけてきたの男の人がユウスケ。


「こんにちは。どうしたの?」

「ちょっと携帯の調子が悪くて…。新しいのにしたいんだけど、画像が。」

「じゃあ、画像とかこっちの携帯に移して保存しておいてあげるよ。」

「あっ、でも。画像見られたくないから。」

「大丈夫、絶対に見ないよ。」

「じゃあ、おねがいします」


そうやって、簡単に出会ったばかりの人を信じて画像を預けてしまったのだけれども…。

その画像の中には、本当に見られたくない画像がたくさんあって…。

いつも私の欲求を満たしてくれるアイテムも入っていて、とてつもなくエロい画像でいわゆる私のオナニー用の素材だ。


それを失いたくないしでも見られたくなかったのだけれど…

今思えば、きっとユウスケは見たんだね…。

あの頃の私は人を疑うことを知らなかったから。


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