バースデーイヴ
水無 月
第1話
俺は今、親友を組み
俺の下で彼の顔が
高校一年生を終える春休み。
今日は彼の十七歳の誕生日の前日。
彼を俺の家に呼び込んだのは、純粋に彼の誕生日を祝うためだった。
なぜ『前日』なのかというと、誕生日当日の彼は『付き合っている彼女と二人きりで祝うだろう』という俺なりの
俺の下にいる彼が顔を
明かりの
彼の左耳だけに一つ付いたピアスに、夕日が反射した。
今日は
俺の目線の先には、緑がかった水色の小振りの紙袋。
俺から彼への誕生日プレゼント。
我ながら
「それだけ俺は彼を想っている」と言えば聞こえはよいけれど、実際のところは自己満足の
紙袋の中は、白の太い大振りリボンを掛けた緑がかった水色の小箱。その中にはピアスが片方だけ。銀色の小振りのフープピアス。
ピアスは片耳用ではない。もう片方は俺が持っている。
『俺と彼の
もちろん、彼に言うつもりはない。
彼は誕生日には家族と過ごすことが多かった。
今年こそ、俺は「彼と二人でいたい」と前から考えていた。
ケーキもホールではないけれど用意しているし、それに立てるキャンドルも準備した。誕生日の歌だって、恥ずかしいけれど歌う。何より、俺の心を込めた(
俺は今日、本当に彼の誕生日を祝うつもりだった。
けれど彼にプレゼントを渡す前に、俺は彼を押し倒した。
家が隣同士で、幼稚園から今も一緒の彼と俺。
俺たちが中学生だったある日の放課後。誰もいない教室で、彼が一人で泣いていた。
今日と同じく、夕日が窓から
彼を見つめながら「なぜ泣いている?」「誰がお前を泣かせた?」「なぜ、今、俺の胸の中にいないのか」「俺ならお前を泣かせたりはしない」と感情が
この時、俺は同性で親友である彼に恋をしていることを思い知る。
窓の外で沈んでいく夕日は、俺には彼が放つ
女神のような、天使のような。この時から、彼が俺にとって『親友』ではなく、『特別で
彼を見ているだけで
初めての体験だった。
その時の俺は、目の前にいる彼に触れたくてたまらない衝動を
俺の存在に気付いた彼は、涙を
教室を出てからも、彼は何ごともなかったかのように振る舞うから、俺は何も聞けなかった。
あの日から、俺は彼の涙を見ていない。
彼が泣いていた理由は、今も分からないまま。
高校に入学する春になった時、彼は
彼の心境に変化があったことは考えるまでもなく、俺は指通りのよい彼の黒髪にもう触れることもできないと、一人、手の平を
夏を迎えた頃には、彼には『彼女』という存在がいた。
長続きはせず、彼は次々と違う女の子と交際、別れを繰り返す。
いつ頃からだろうか、彼も俺も『彼の彼女』についての話をしなくなった。……今は十人目あたりか。
彼の行動には、正直、疑問を
俺の知る限りの彼とは、随分と違っているから。
昔から肌が白く、今も俺より小さい彼は、幼い時には人見知りが激しかった。初めて会った頃の彼は、いつも母親の後ろに隠れていた。互いに親しくなった後も、彼は彼の二つ下の弟と俺以外の人の前では内気なところがあって、この頃から俺にとってそれが『特権』のようになった。
近所に住む二つ下の男の子が彼の弟と仲よくなって、俺たちは四人で遊ぶようになる。それでも、俺たちにとって弟のようなその子たちを除いても、彼にはまだ俺だけだった。
けれどそれも、中学へ上がる頃には薄れていく。
彼はいつしか積極的に俺以外の友人と親しくなり始めて、
俺は必然的に彼以外の友人と過ごすことが増えた。
今思えば、彼が教室で一人泣いていたのは、その頃だった。
そして去年、冬が来た頃。彼は突然、左耳にピアスを一つ開けた。
俺が「開けたんだな」とさり気なく話題を振ると、彼はなぜか頬を
俺には衝撃以外の何ものでもなかった。彼の耳元で光るピアスを目にする度に、目の前にいる彼が知らない人に思えて、今も心臓は締めつけられるように痛む。
それでも、彼はいつもと変わらない笑顔で俺を見るから、俺は彼に微笑み返すしかない。
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