面長の白い人形

影神

表と裏



仕事の都合で、急遽移動が決まった。




表向きは子会社に欠員が出た為の補充要員だった。




真実は、先日亡くなった女性の原因となった、




中年男性の管理職員を、私が窓際へと




追いやったのが原因だろう。






彼女は容姿も良ければ性格も良かった。




ただ、間違いがあったとするならば、




"この会社に来てしまった事"




それだけだった。






私は、それなりに仕事をし、




女性と言う立場でありながらも、




この、男社会の中で、才覚を表した。






でも、私の様になれるのはごくわずかで、




泣き寝入りや、命を絶ってしまう者も少なくない。




そう、彼女の様に、、






パワハラ、セクハラ、モラハラ等は日常茶飯事。




表に出ていないだけで、間接的に、いや、




直接的にそういった、精神ダメージを与える、




陰湿な嫌がらせみたいなものは、いくらでもあった。






社会では精神が強くないとやってられない。




強くないならそれなりの武器が必要だ。




馬鹿みたいにへらへらして、媚が売れる奴か、




仕事しなくても、上手に周りの人間を使えるか、






給料は会社が定めたモノでしかなく、




そこをその金銭でどの様に働くかは、




本人のさじ加減でしかないのだ。






仕事しない奴はやらないし、




文句ばかり言って周りの人を不快にさせる奴。




グループを作って今の中学生でもやらなそうな、




虐めの様な事をするいい年をした奴とか、






本当に、何をしに来ているのか、




私には理解出来ない、、






だが、それも個人の"仕事"なのだから、




彼等、彼女等の"働くという事の内"なのだ。




私個人の見解では勿論賛成や同意等はしないが、




その行為に間違い等は存在しない。




何故なら会社と言う組織がそうなのだから






そういう社会なのだから。






だから私も自由にやる。




気に入らない奴は仕事で追い詰め、




こうして自らの立ち位置を築き上げた。






正直辛くない訳ではない。




辛くて、苦しい。疲れるし、めんどくさいし、




不快。状況がおかしく思い、死にたくもなる。




でも、強くいなくては、幸せにはなれない。




強くならなくては、、






先日、付き合っていた彼氏とも別れ、




これから会社が用意した家で3ヵ月を過ごす。




その間に私は自分で新居を探さなくてはならない。




両立というのはなかなか難しく、




恋愛はいつも上手くいかなかった。




嫌な男しか見てこなかったからか、、




いや、恋愛が下手なだけだ。






両親に、孫の顔をせがまれ、




相手の親にもせがまれ、




まさに板挟み状態だった。






子供を作ったとて、可愛いだけでは済まない。




子供の送迎、通院、大学まで通える金銭。




食費、電気、ガス、水道、税金、、、




ただでさえ国がまともに育てようとはせず、




無駄な金を使い、更には削減しようとまで、




裏で暗躍している事実下の中、




滅びの末路を辿っている我々に、




子供が育てられる訳がない。






それなのに、何かと理由をつけては、




新生児の出生問題や、




ジェンダー等の問題を掲げる。






つい鼻で笑ってしまいたくなる。




ふざけるなと。






恋愛や結婚は本人達の自由だと私は思うし、




若い人達が口だけ野郎共のお尻を拭かなければ、




半数以上が路頭に迷い兼ねない。






椅子取りゲームの椅子は、




椅子がなければ座れないのだよ笑?






さて、話がだいぶ逸れたが、




私が会社から案内されたのは、




まさかの一軒家だった。






その家主は既に亡くなっていた。




彼女には身寄りがなく、子会社に殺され、




しまいには家すら取られたみたいだ。




その彼女の家を、嘸、当たり前かの様に




会社の寮同然の様に扱う。






いたたまれない。




言葉すら出ない。






私がそんな様子で立ち止まっていると、




子会社の新しい社長が口を開いた。




「これを、」




渡されたのは黒いファイルと、鍵だった。




「一応、お祓いはしているし、




後数ヶ月もしない間に取り壊しが決まってるから、」




そうたどたどしく話す。




「基本的には、あの、テレワークで、」




私を突き放すかの様に接する。






私は左遷されたのだった。




まあ、最初から分かっていた。




だが、キャリアがあった。




それが武器となったようだ。




私を辞めさせれば真実が浮き彫りになる。




私の立場で子会社を任せると言う形にすれば、




全てが上手くいく。




「皮肉だな、、」




ボソっと言った言葉を気にする様に、




会釈をしながら社長は後にする。






ファイルの中には私の仕事の書類と、




住所変更等の書類。間に数枚の御札があった。




私はスーパーに寄り、お酒とお線香を買った。




きっと物件的にも私が住めば事故物件でなくなり、




次に建てる物としても、良い様に扱えるのだろう。




ネカフェやビジネスホテル等はない為、




見事に会社の思惑通りとなった。




「私の敗けだ」






最初は気が引けたが、私は彼女と向き合う事にした。




「貴女のお家にしばらくの間、住まわせて頂きます。




不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します。」




そう言いながら玄関のドアノブに手を当てて開いた。






室内は広く、生活感で溢れていた。






"まるで、まだ誰かが居る様な"






亡くなる前に気が落ち込んでたのもあり、




当然、掃除等はされていなかった。




なので私は、まず掃除から始める事にした。




カーテンを開け、ゴミをまとめ、




水回りを綺麗にした。




中は光が差さなかったが、掃除をすると、




いつしか、ゆっくりと夕日がさした。




「綺麗、、」




この部屋で彼女は何を思い、




何を考えて、亡くなったのだろうか、、




私もいずれそうなるのだろうか、、






なれない場所と掃除に疲れて、




買ってきたお弁当を食べて早めに就寝した。




夜間は特に何もなく朝を迎えた。




2階の掃除と、住所変更をしなくては、、






平日の昼間にこうやって




外を歩くのも久しぶりだろうか、




眩い太陽は私の目を狙う。






淡々と、用事を済ませ、携帯で物件を探す。




花屋で花を買い、彼女の家へと帰る。




適当な花瓶を見つけ、線香を焚き、




新しいお酒を供える。






二階は埃っぽく、私物で溢れていた。




彼女が寝ていたであろう場所には、




くっきりと、日焼けした後が残っていた。




ふと何かに視線を感じ目を向けると、




そこには面長の殿様の様な格好をした、




顔の白い人形の様な物があった。




私はびっくりしたが、何だかそれが気になった。






私物には極力触れずに、掃除機をかけ、




埃をはたいて、軽く水拭きをした。




住まわせて貰っている恩義とでも呼ぶべきか。






その日も何事も無く、普通に朝を迎えた。




アパートの下見を済ませ、スーパーで弁当を買う。




新居になったら料理をするのもいいかもしれない。






そんなことを考えながら家へと帰った。




玄関を開け、ふと階段を見上げると、




廊下には昨日の人形が居た。




普通にびっくりして、寒気がしたが、




何だか可哀想になって、一階へと持ってきた。






私はあまりそうゆうのは信じないが、




実際に目の当たりにすると、不思議なものだ。




こっちに来てからは何だか




自分の世界が変わった様な気がした。




自分に余裕が出来てきたのだろうか、






未だ会社からは連絡がなく、




口座には給料らしき、支払いがされていた。




そろそろ働かないと。




アパートの契約が決まったら頃には、




それなりの時間が経過していた。






遂に取り壊しが迫るに連れて、




何だか寂しくもあり、悲しくもなった。




人形は朝起きると私を見つめている。




それ以外には特に怪奇現象等は無く、




私は引っ越す事になった。






だが、引っ越しが終わると、




その日から恐怖が始まった。




夢にあの人形が出てくるのだ。




遠くに居る人形はゆっくりと私へと近付き、




私の顔の前まで来ると、じっと私を見つめる。




それが何回か続いた。




そして体調を崩し、寝込むも、




なかなか眠れなかった。






このままでは良くないと思い、




近所のお寺へと相談する事にした。




広い仏間へと通され、大きな座布団へと座った。




住職はお茶と和菓子を出すと、私が話すまで待った。




住職は恰幅の良い男性で、朗らかな表情をしていた。




話をすると、住職は頷き、ゆっくりと話した。






「きっと、彼女に愛されていた人形は、




彼女と貴女を照らし合わせて居る様ですね。






彼女は人形に話しかけて、




人形も彼女の話を聞いていた。




人形はそれが嬉しかった。






けれど彼女が居なくなってから




寂しくて悲しくなって、、そこに貴女が来た。






貴女が彼を置いてけぼりにしたから、




彼は貴女にアピールをしているみたいですね。」






そう言われて私はポカーンんとしていた。




なかなか直ぐにそれを受け入れられる程の耐性が




私にはまだ無かったのだ。




「ど、どうすればいいのですか、」




片言の様に出た言葉は住職を笑わす。






「そんな難しくないですよ




もっとリラックスして。






もし、貴女が嫌なら人形をこちらに




持ってきてもらっても構いませんよ。




そうでないなら、人形をお家へと、




招待させてあげて下さい。」






私は帰りにあの家へと赴き、




新しい花と、お酒。線香を供えて、




人形を取りに行った。






「人形を御借り致します。




どうか、ゆっくりと安心して、




おやすみ下さい。」




そう手を合わせて、二階に居た人形を抱く。




人形の顔からは水滴が垂れ、それはまるで、




涙を流すかの様だった。




私が会釈をし、家を出る時に、






『この子を、お願いします、』






そう、言われた気がした。






それから私は形だけの会社員を辞職し、




自ら自営し、会社を設立した。




まだまだ軌道には乗っては居ないが、




私が培って来たスキルは武器となり、




いずれば女性が活躍しやすい会社を建てたい。




彼女達の様な被害者が出ない為にも、、






その時までこの人形にゆっくりと見守って貰おう。






この世界は、嫌な事ばかりではあるものの、




案外いい事もその分あったりする。






要は、捉え方次第なのかも知れない。




辛いこともあるが、良い事も沢山ある。




誰かが言った言葉の様に、




貴女が自らの命を絶つ程、




この世界にはそんな価値はないのだ。






貴女は素晴らしい。




人形も、そう、想っていたのかも知れない。


























































































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面長の白い人形 影神 @kagegami

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