インタールード・4

 十年ぶり二回目の彼との一夜は、数えきれないくらい繰り返した私の妄想をもはるかに上回る、完璧に素晴らしいものだった。私は完全に我を忘れて、彼との行為をむさぼりつくした。 


 でも本当の勝負はここからだ。こんなに素晴らしい彼を、手放すなんて考えられない。

「ニイタカヤマノボレ」

 私は奇襲作戦を開始した。


 彼に別れを告げると、繋いでいた手を放し、彼の一歩前を、振り返ることなく駅に向かって歩いた。駅の改札へと続くエスカレーターに乗る前に彼が私を呼び止めてくれれば、「トラ、トラ、トラ」、我奇襲に成功せりだ。


 もしこれでダメだった時は、すかさず次の作戦に移らなければならない。

 エスカレーターを上り切ったところで取って返して階段を駆け下り、「私たち、もうこれで終わりなの」と叫んで彼を振り向かせる。

 それで彼がひるんで私を受け入れる素振りを見せたら、すかさずそのまま抱きつく。

 でも、この作戦だと、こちらのダメージも少なくない。もしこれも失敗したら、それこそ女としてもう立ち直れないかもしれない。


 どうか、彼が呼び止めてくれますように。

「お願い! 仏様、イエス様、八百万の日本の神様」

 

 私は思いつく限りの神様を総動員し、胸が痛くなるほど祈りながら、前だけを見て歩いていた。


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