第69話 剣聖武闘会の終わり

「はあああああああああああああああああああああああああああ!」


 聖剣レーヴァテインを装備したクレアは上位デーモンに襲い掛かる。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 斬り裂かれたデーモンが真っ赤に燃えた。聖剣レーヴァテインの発する炎はクレアが持つ事でより、高熱を放つようになった。


 それは上位デーモンすら焼き切る程の強い熱であった。炎は神々しく滾り、デーモンを焼いていく。


 ソルの剣が走る。暴れまわっているデーモンにトドメを刺した。断末魔が上がる。


 ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 呪詛のような叫び声を上げつつ、上級デーモンがバハムートに襲い掛かってくる。


 だが、当然のようにバハムートは表情ひとつ変えない。


「散るが良い」


 バハムートが念じ、手を翳しただけで上級デーモンを灰燼と化した。


「やるぞっ! 俺達も続くんだ!」


「ああ……」



 闘う事ができる者は剣を持ち立ち上がった。主には剣神武闘会に出場していた参加者達である。


 凄まじい戦闘能力を持つ三人に鼓舞されるようにして、戦士達はデーモン達に向かっていく。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 激しい闘いは続く。しかし、確実に終わりの時は近づいていた。闘いは永遠には続かない。いつか終わる運命にあるのだ。


 ◇


「……これで終わりだ」


 ソルは最後の一匹となったデーモンにトドメを刺す。断末魔を上げ、デーモンが消失していった。


「ふう……これで粗方片付いたか」


 長い闘いは終わった。やっと一息つける時間がやってきたというわけだった。


「……ふむ。何とか終わったようだの」


 バハムートが寄ってくる。


「それで、一体、どうなったのだ? この武闘会は」


「それは俺に言われてもわからない。武闘会の運営に確認してみない事には」


『ええっ……と。大変な事が起きました。どうやら、決勝戦を闘っていたレイ選手は人間ではなく、魔族だったようです』


 実況の女性が言う。


「ふむ……それで一体、どうなるのだ?」


『ええっと……今、運営本部に確認をしております。少々お待ちください』


 観客が誰もいなくなり、寂しくなった闘技場(コロセウム)の中、ソル達は待ちぼうけを食らう。


『お待たせしました!』


 長い時間を待たされ、ついには剣神武闘会の決勝の結果が出たようであった。


『紆余曲折ありましたが、決勝戦の相手は逃亡しましたので、不戦敗という事になります。そういうわけで、ソル選手の優勝になります!』


 パチパチパチパチパチ。


 拍手が鳴り響く。


「凄かったぜ!」


「ああ……まさか『レベル0』のソルが優勝するとは思わなかったぜ」


「こいつは誰も予想していない大穴が当たったな」


 まばらになった選手達から拍手が送られる。


『それでは国王陛下から賞金と商品が送られる事になります』


 紆余曲折はあったが、こうして剣神武闘会の表彰式が行われる事となった。


「……主人(マスター)よ。よくわからないが、賞金が貰えるのであろう」


「……そうだな。そうなるな」


「良かったではないか。これで暫く、飢えを我慢する事もないぞ。うんうん」


 ソルの目の前に国王陛下が現れる。それからクレアも。


「色々とあったが優勝おめでとう。ソル殿。そして我々の窮地を救ってくれて誠にありがとう」


「ありがとう……ソル。ソルのおかげよ」


 そう、クレアはソルに言ってきた。


「よせ。クレア。皆の力だ。別に俺一人でデーモンを倒したわけじゃない」


「……うん。それもそうだけど、ソルがいたからあの魔人に聖剣レーヴァテインを渡さなくて済んだの。はい……これは優勝したあなたのものだもの」


 クレアはソルに聖剣レーヴァテインを返そうとする。だが、ソルはそれを拒んだ。


「え? なんで? ソル」


「これはクレアに相応しい剣だ……あの魔人レイは言っていた。天界を攻めた後に、人間界も魔族は攻めると。その時、きっとこの剣は必要になる。だから、クレアが持っている方がきっといいはずだ」


 ソルは思った。きっとまたあの魔人レイとは相まみえる時が来ると。


「ありがとう……ソル。それじゃあ、この剣は私が持っているね。必要になったらいつでも返すから」


 クレアは微笑む。


「うむ。それでは賞金だ。金紙幣150枚を進呈しよう」


 ソルは賞金を受け取った。金紙幣を150枚。しかし、それでは聞いた話と違う。賞金は金紙幣100枚であったはずだ。


「国王陛下、50枚多いです」


「うむ。良いのだ。準優勝者は金紙幣50枚が賞金として支払われるはずであった。だが、御覧の通り、準優勝者はいないのだ」


 そうだ。決勝戦を闘ったのはあの魔人レイだ。故に準優勝者は欠格となる。


「良いから受け取っておくが良い」


「ありがとうございます。では遠慮なく」


 ソルは賞金を受け取った。


「そしてソル殿。貴公に『剣神』の称号を与えよう。皆の者よ。ソル殿の健闘と栄誉を称え、盛大な拍手を送ってくれ!」


 パチパチパチ。


 拍手が響き渡る。


「おめでとう、ソル」


 クレアが微笑む。


「おめでとう、主人(マスター)」


 バハムートも笑みを浮かべる。そして、闘技場(コロシアム)にいた人々——主に闘技者だった人達が優勝者であるソルに拍手を送った。


「へへっ……なんだか照れくさいな」


 ソルは顔を赤くした。もはや誰もソルを『レベル0』だとして馬鹿にする事はなくなっていた。剣神武闘会の優勝者として称えるようになったのである。


「翌日は王城で祝賀パーティーを予定している。優勝者であるソル殿は是非参加してくれたまえ」


「我も参加できるのか!」


 バハムートが国王にせっつく。


「ソル殿のお付きの者か。よかろう。参加を認めよう」


「やった! これで沢山おいしいものを食べられるぞっ! ぐへへっ!」


 バハムートは涎を垂らしていた。


「バハムート、言っとくけどあまり食い散らかすなよ」


「わ、わかってるぞっ! 主人(マスター)! ちゃんと皆の分も少しだけ残しておく!」


「少しだけじゃダメだ! 皆もお腹いっぱいになるくらい残しておけよっ! どれだけ食べるつもりなんだっ!」


「くすくすくす……」


 クレアは笑っていた。


 こうして剣神武闘会は終了していた。


 そういえば、エドワードと実父――カイの姿がなかった。


 どこにいったのだろうか。あんな事があったのだ。この場にいられるわけもなかった。実家に帰ったのだろうか。


 しかし、あのカイの様子はおかしかった。このままでは終わるとは思えないが。


 一方、その頃、ユグドラシル家では事件が起こっていた。その事件とは、一体。




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