第59話 仮面剣士スカーレット(クレア)との闘い上

 闘技場(コロシアム)の熱気はさっきまでの第三回戦よりも確実に高まっていた。


 ソルと仮面剣士スカーレット、長いので以下スカーレットと表記する――の二人が闘技場ステージに立つと、割れんばかりの拍手と怒声交じりの応援が入り混じった、騒音で耳が五月蠅くなる程だった。思わず耳を塞いでしまいたくなる程の音だ。


『剣神武闘会もいよいよ大詰めです! 選手両名が闘技場ステージに立ちました!』


 実況(アナウンス)が響き渡る。


『準々決勝に駒を進めたのはこの両名です! 一人目は仮面剣士スカーレット選手!  正体不明の謎の仮面剣士!』

 

 実況(アナウンス)を聞いて観覧席にいるクレア(偽)は冷や汗を流し、苦笑いをしていた。当然のようにクレアの影武者を務めているレティシアはスカーレットの正体を知っていた。


『そして仮面剣士スカーレット選手と対決するのは破竹の快進撃を続けてきた『レベル0』の固有スキルを授かりし、ソル選手です! ソル選手はここまで快進撃を続けてきました! その実力は運ではなく本物か!? もう『レベル0』なんて呼ばせない! この闘いに勝利を納め、優勝候補に名乗りを上げるか!?」


 ソルとスカーレットは剣を構える。凄まじい雑音だが、戦闘に集中している二人には聞こえていないにも等しい。


「あの仮面剣士と『レベル0』の闘いか。準々決勝からはどれも注目カードだけど、これはその中でもより注目の対戦カードだぜ」


「どっちが勝つんだ?」


「わからねぇけど、多分、見ごたえのある良い試合になるんじゃねぇか」


 観客が騒めている。それだけこの一戦が注目されているようであった。誰もがその闘いの始まりを今か今かと待っている。


『ゴン!』


 試合開始のゴングが鳴らされた。


『始まりました! 準々決勝第一試合! 仮面剣士スカーレット選手VSソル選手!』


 実況が響き渡る。


「ソル……悪いんだけど、私も手加減はしないよ」


 スカーレットの持っている剣が真っ赤に燃え始める。


「おおっと! スカーレット選手の剣が激しい炎を発しています! よくわかりませんが、これもスカーレット選手のスキルによるものなんでしょうか!」


「はああああああああああああああああああああ!」


 スカーレットはソルに斬りかかってくる。だが、ソルには裏ダンジョンの生活で習得した数多のスキルがあった。その一つが炎属性の弱点とされる氷魔法『氷結魔法(フリーズ)』そして剣に魔法を付与(エンチャント)できる『魔法剣』のスキルだ。


 ソルは『氷結剣(アイシクルブレイド)』でスカーレットの紅蓮剣を受け止めた。


「なっ!?」


 スカーレットは驚いたように目を見開く。


「どこで覚えたの? そんなスキルを」


「この半年間の修行で……ちょっとな」


「わかってたけど、ソル相手に手加減は必要なさそうだね」


 スカーレットは笑った。彼女は女性ではあるが、それ以前に戦士なのである。強者との対決を純粋に楽しんでいる節があった。美しい見た目をしているが、競争や闘争を楽しむような、男性的要素も持ち合わせていた。


 スカーレットは片手を放した。


「煉獄の手(フレイムフィンガー)」


 要するに、手を燃やしただけの攻撃である。その技は至って単純(シンプル)。燃えている手で相手を攻撃するのだ。殴ってもいいし。ただ単純に掴むだけでも炎が燃え移り、ダメージを与える事ができる。


『煉獄の加護』の固有スキルによる攻撃である。


「くっ!」


 迫りくる紅蓮の右腕をソルは首を反らして何とか避ける。そのままソルはバックステップをして距離を取った。再び立ち回りへと戻っていく。


『おおっと! これは凄まじい攻防! 準々決勝の名に恥じない名試合の予感がします!』


 実況(アナウンス)が響く。


「すげぇ攻撃だったな」


「ああ……凄まじく攻防で目で追うのがやっとだ。そのうち目でも追えなくなるかもしれないが……」


 ソルとスカーレットの激しい攻防に、観客達は息を飲んでいた。あまりに緊迫した闘いの場合、思わず騒ぐ事すら忘れ、見入ってしまう事も多い。観客達はそんな気持ちになっていた。


「やっぱりソルは思っていた通り、いえ……思っていた以上に強い。わかってはいたけど、手加減なんてできない」


 スカーレットは鞘に剣を納めた。抜刀術……のような事をするつもりだろう。鞘に剣を納めてから剣を抜く事で、ただ剣を振るうよりも剣速が上がり、優位に立てる。そういう剣術がある事は知られている。


 だが、スカーレットの放つ剣はただの抜刀術ではないように感じられた。


「紅蓮剣! 一の型!」


 スカーレットは剣を放つ。居合斬りの要領で。剣から放たれたのは炎であった。炎属性の飛び道具だ。


 紅蓮の炎がソルを襲う。


「くっ!」


 ソルは氷結剣(アイシクルブレイド)で紅蓮の炎を迎え撃つべく構えた。


 前半戦は終わった。お互いに小手調べは終わったようだ。闘いはいよいよ、後半戦へと移っていく。






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