レベル0の最強剣士~レベルが上がらないスキルを持つ俺、裏ダンジョンに捨てられたが、裏技を発見し気が付いたら世界最強になっていた。レベル0でもステータスがカンストしているけどこれぐらい普通だよな?~
第46話 (義弟SIDE) ソルが生きている事を知る
第46話 (義弟SIDE) ソルが生きている事を知る
「はああああああああああああああああああああああ!」
エドは剣の稽古をしていた。相手は王国『ニーベルンゲン』の騎士団長である。『ニーベルンゲン』とはエドが生活している国であり、『フレースヴェルグ』の隣国でもあった。
王国の騎士団長は剣の達人として有名な、屈強な騎士であった。
しかし、固有スキル『久遠の剣聖』により、飛躍的に剣技を向上させてきたエドはその王国騎士団長をも圧倒していた。そしてついに、決着の時が訪れる。
「はあっ!」
キィン! 甲高い音が響いた。カラカラと剣が地面に転がる。どちらの剣が打ち落とされたか、言うまでないだろう。
「終わりですよ。騎士団長殿」
エドは騎士団長の首筋に剣を突きつけた。
「ま、参った。さ、流石はユグドラシル家の次期当主であるエドワード殿だな。凄まじい剣技だった。私では手も足も出ないよ」
騎士団長は降参した。エドは剣を納める。
剣神武闘会への出場を決定したエドは日夜こうやって剣の鍛錬をしていたのだ。時には岩や大木など無機物を相手に、そして都合がつく時は剣の実践訓練をしていた。
最初は手ごろな剣士や騎士を相手にしていたが、あまりに相手にならなかったが故に、最終的には王国の騎士団長にまで相手をしてもらう事になったのだが。
結果は見ての通りだった。エドの圧勝である。
「エドワード殿は剣神武闘会に出場されるのであろう? それほどの剣の腕前ならば、優勝は間違いなしではないか? 私が見てきた中でも君の剣技は最高峰だ。右に出る者を見た事がないよ」
「いえ。思わぬ伏兵がいるやもしれません。油断はできませんよ。もっと剣の腕を磨いていくつもりです」
エドは語る。
「それは立派な心構えだ」
「エドワード様! ……」
「なんだ?」
ユグドラシル家の使用人が駆け付けてきた。養子とはいえ、次期当主と噂されているエドには使用人連中は皆、平服していた。それに、エドはクレアと婚約しているのだ。ゆくゆくは次期フレースヴェルグ国の国王になるやもしれない人物と目されている。
「はぁ……はぁ……それがエドワード様! とんでもないニュースが入りました」
「なんだ? そのニュースとは」
「そ、その。エドワード様の義兄のソル様が」
(なんだ? ……あの無能兄貴、どこかで遺体ででも発見されたか?)
エドは久しぶりに義兄であるソルの名を聞いた。エドはソルの事を完全に死んだと思っていた。エドがカイから聞かされた限りの事では、スキル継承の儀以降、己の無力さと無能さを恥じ、ソルは失踪していったそうだ。
ソルに対する興味を失っていたエドはカイからの言葉を疑いもせずにすんなりと信じていた。事実はそうでないにも関わらず。
「ソル様が……行方不明だったソル様が見つかったそうです」
「な、なんだと! 兄貴の野郎生きていやがったのか!」
エドは驚いた。まさか、ソルが生きているなんて思いもしなかったのである。
(あの無能兄貴……死んだと思ってたぜ! しぶとく生き残ってたのか……ゴキブリみたいな野郎だな)
エドは驚いた。——だが勿論、脅威とは思っていない、微塵として。死んだらせいせいすると思っていた相手が生きていたと聞いて、多少残念に思っただけだ。それだけである。
剣神武闘会に出場する自分。ユグドラシル家の次期当主となった自分。クレアの婚約者となった自分。全てが順調にいっている自分の障害になる事など、微塵も考慮していなかったのである。
「兄貴の野郎はどこで見つかったんだ?」
「は、はい。隣国のフレースヴェルグで見つかったそうです」
「ふーん……フレースヴェルグか。……そうか」
エドは興味がなさそうに会話を打ち切った。
「別に兄貴が生きていたって俺には関係ねぇ。今日の稽古は終わりだ。片付けを頼んだ。騎士団長殿、お相手ありがとうございました」
「あ、ああ……我々も宿舎の方に撤収していくよ。すまないな、あまり相手になれなくて」
「いえ……そんな事ありませんよ」
(王国の騎士団長でこんなもんなら……俺の剣神武闘会の優勝は堅いな……見ていろよ、クレア。ベッドの上でひぃひぃ言わせてやるぜ! クックック!)
表向きの顔とは裏腹エドは腹黒い事を考えていた。
◇
コンコン!
「お父様、失礼します」
エドはカイの私室を訪れた。
ガシャン。グラスがこぼれ、壊れる音がした。
「お、お父様? ……」
カイはグラスを落としたにも関わらず、その事は気にもしていなかった。
異常な形相をしていた。何かに驚愕しているようであった。エドは不審に思う。
「ど、どうかされたのですか。お父様」
「ソルが生きているだと……あ、ありえん! そ、そんな事は絶対に! あるはずがない!」
当然のようにエドが受けた報告を養父であるカイも受けていたようだ。
カイは取り乱していた。ソルが生きているという事に対して、なぜこんなにもショックを受けているのか、エドには理解できていなかった。
「ど、どうしたのですか、お父様。義兄様は失踪なされたのでしょう? そうであったのならば生きていても不思議ではないでしょう?」
大方、隣国であるフレースヴェルグで乞食のような生活をしていたのだろう。あるいは窃盗行為を繰り返し、何とか飢えを凌いでいた。実家から失踪したとはいえ、生きていくだけならばいくらでも方法は思いつく。
生きているという事にそこまで驚く必要性はないようにエドは感じていた。
「あ、ありえんのだ……ソルが生きている事など! 絶対に! 何かの間違いだ! 他人の空似であろう! そうに決まっている!」
義父の取り乱しように、エドは複雑な事情を汲み取っていた。もしかしたらソルは失踪したわけではないのではないか。義父の様子はおかしい。義父はもしかしたらソルに関して、エドの知らない何かを知っているのではないか。
確信はないが、エドはそう推察していた。そしてその推察は正しかったのである。
その日、ユグドラシル家を不穏な空気が支配していた。
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