第33話 バハムートとの闘い②

「くっ…………」


 まるで弾幕のようであった避けようのないフレア(大砲)の一斉射撃。それはもはや戦闘などではない。竜王バハムートの蹂躙だ。ソルは踏みにじられていた。


 嵐のようであった。ソルはじっと嵐が過ぎ去るのを待った。その嵐が過ぎ去った時、ソルは既に満身創痍になっていた。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 あれほどあったHPが殆どなくなっている。一割を切っていた。今、大体100程しかHPはない。ソルは慌てて回復魔法(ヒーリング)をかけた。急いで回復しなければ死んでしまう。


「ふむ……なかなかにしぶといではないか。少年。そうでなくては困る。簡単に終わってしまっては遊びがいがないではないか」


 バハムートは余裕のある笑みを浮かべていた。遊んでいるのだ。完全に。満身創痍のソル相手に畳みかければ間違いなく勝利を納めるというのに。


 絶対的強者であるが故の油断だった。だが、その油断に救われた。ソルはHPを半分以上回復させた。これで即死という事もないだろう。安心はできないが、それでもそれほど絶望的な状況ではなくなった。


「どうしてトドメを刺さないんですか?」


「久方ぶりの宴(闘い)だ。そう簡単に終わっては呆気ないだろう? それに先ほどの攻撃に耐えきったのだから、貴様は遊び相手としては合格点をやれる」


 遊び――バハムートからすれば先ほどの事など戯(たわむれ)なのだ。ソルと闘っている事も勿論、遊びの範疇だ。


 バハムートが何年、何百年、あるいは数千年なのか、膨大な月日をここで過ごしていたのかはわからない。彼女は間違いなく退屈していた。このダンジョンの第100階層までたどり着いたのはソルが初めてかもしれない。


 だから久しぶりに手に入れた遊び道具(対戦道具)をそんなに簡単に彼女が手放すわけがなかった。


「それでは続きと行こうか。踊るのは飽きたか? 二人きりの宴では些か退屈であろう、待っていろ。今僕を呼びつける」


 バハムートは魔法陣を同時に六つ展開させた。


「……貴様には我の相手はまだ早いようだ。こやつ等を打倒できたら再び相手をしてやろうではないか」


「「「「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」


 バハムートが発動したのは『召喚魔法(サモン)』の魔法スキルだ。召喚士や死霊術士(ネクロマンサー)が発動させる魔法スキル。MPを大量に消費する事にはなるが、僕となる召喚獣や使い魔を召喚し、使役する事ができる。使い魔がダメージを食らって、例え死滅したとしても『召喚魔法(サモン)』を使用した主人は一切のダメージを受けない。せいぜいMPを消費し、その使い魔を失う程度の事だ。

 自身の危険を極力回避しつつ、相手を攻撃する事ができる。そういう便利な魔法スキルであった。


 六つの魔法陣から召喚されたのは想像をしていなかったような恐ろしい存在であった。


 ドラゴンだ。しかもそれぞれの属性(エレメント)の高位なドラゴン。


火竜(レッドドラゴン)水竜(アクアドラゴン)地竜(アースドラゴン)風竜(エアロドラゴン)聖竜(ホーリードラゴン)暗黒竜(ダークドラゴン)。


 六つの巨大な竜が第100階層に姿を現した。その光景はまさしく悪夢であった。


 ソルは『解析』スキルを使用したが、どのドラゴンもLV90前後だった。そのドラゴン一匹あたり、単純計算で第50階層で闘った天使ルシファー一体と換算できる計算だった。


 冗談ではない。とてもではないがやっていられなかった。それにMPを消費したであろうが、問題のバハムートは健在なのだ。


「それではせいぜい頑張ってくれ。少年よ。我は優雅に茶でも飲んでいようか」


 バハムートは椅子と机を作り出した。さらには紅茶まで。具現化系のスキルでも習得しているのだろう。完全に高見の見物を決め込んでいた。


「くそっ!」


 嘆いてもいられない。ソルはバハムートよりも前に、まず目の前にいる六匹の竜(ドラゴン)を何とかしなければならなかったのだ。


 火竜(レッドドラゴン)が口を大きく開く。炎の息吹(ブレス)だ。紅蓮の炎がソルに襲い掛かってくる。


 ソルの絶望的な闘いは続くのであった。

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