第34話 バハムートとの闘い③
ソルは飛び跳ねて、何とか火竜(レッドドラゴン)の息吹(ブレス)を避ける。
だが、そこに待ち受けていたのは大きく口を開いている風竜(エアロドラゴン)であった。風竜(エアロドラゴン)もまた息吹(ブレス)を放つ。凄まじい無数の風の刃がソルに襲い掛かってくる。
バハムートのブレス程ではないが、痛烈なダメージを受けた。
ソルは風竜(エアロドラゴン)の息吹(ブレス)に飲み込まれ、勢いよく転がっていった。
さらにそこに追い打ちのように地竜(アースドラゴン)の放つ地割れにソルは飲み込まれた。
四方八方からソルは強烈な攻撃を受け続けたのである。
「他愛もないの……再び我と闘う事はないか。退屈ではあるがそれも仕方ない」
バハムートは優雅に紅茶に口を付けた。戦闘中とは思えない程優雅な光景であった。それだけソルは舐められているのだ。だが、舐められているおかげでまだ辛うじて生存を許されているとも言えた。
本気を出されていたら既に死んでいる。
(なにか……ないのか……手段は)
六つのドラゴンに気を配りつつもソルは打開策を考え続けた。現状、この世に存在するスキル類の類。あらゆる方法を考え続ける。
――その時の事であった。
ソルの世界が止まった。まるで、『時間停止魔法(ストップ)』の魔法スキルを使用したようであった。だが、そんな反則的(チート)なスキルは現在の世界では存在しない。あまりに強すぎるからだ。そんなスキルを習得した人物などいないはずだ。だから存在していないはず。
大体、誰が使ったというのか。竜王であるバハムートなら使用する事もできるかもしれない。だが、使用するメリットがない。大体、今この世界で時間が止まっているのは竜だけではない。バハムート自身もだ。
一体、誰がこの世界に流れる時間を止めたというのか。考えられる事は一つしかない。
この魔剣ラグナロクだ。それ以外に考えられなかった。この魔剣ラグナロクはソルの先祖である勇者ロイが使っていたとされる剣である。普通の剣ではない。故に摩訶不思議な力を持っていたとしても不思議ではなかった。
「君が、この世界に流れる時間を止めてくれたのか?」
『如何にも』
どこからともなく声が聞こえてくる。霊的な声だ。鼓膜ではなく、ソルの精神に直接訴えかけてきているかのような。
「どうして、そんな事を」
『答えは一つだ。そなたは世界を魔から救う事を運命づけられている。このダンジョンに捨てられ、そして我が魔剣ラグナロクを手にしたのも運命に決定づけられていたのだ。貴様に今ここで死なれる事はこの世界が望んだ事ではない』
「でも、どうやってこんな絶望的な状況を覆せばいいんだ。無理だ。俺が見てきたどんなスキルをどう組み合わせたって、どんなに闘ったって、こんな状況、覆せやしないんだ」
あまりに一方的なやられ具合に、ソルの心は折れかけていた。
『何を言っている。この世に存在している力(スキル)だけがこの世の全てだと思うな。かつて存在していたが、失われた力(スキル)も存在している』
「この世に存在していない、失われた力(スキル)?」
『この魔剣ラグナロクはその失われた力(スキル)を解放する為の鍵でもある。解き放つが良い。この剣のかつての所有者。貴様の祖先であるロイがいた頃の時代に存在していた力(スキル)を――』
魔剣ラグナロクが語り掛けてくる。魔剣ラグナロクはただの剣ではなかったのだ。
ソルの目の前に選択肢が現れる。
『新たな力(スキル)を解き放ちますか? YES/NO』
YESを選ぶに決まっていた。もはやソルには選択肢が他にない。
『新たに習得できるスキル欄が解放されました』
そこに存在していたのは現代は失われていた古代のスキルや魔法スキルであった。
現状を打破できるスキル。ソルは探した。目の前には見た事はないが、強力そうなスキルが所狭しと並んでいたのだ。
『古代の力(スキル)』
ソルは魔法スキルを選択する。
『無属性破壊魔法(アルテマ)』
あまりに強力すぎるが故に太古に使用が禁じられた、禁忌魔法だ。必要SP値は1000と破格であるが、膨大にSPを蓄えた今のソルであったのならば問題なく習得できる。
ソルは迷いなく古代魔法『無属性破壊魔法(アルテマ)』を習得した。
その時、『時間停止魔法(ストップ)』の効果が切れた。周囲の時間を停止するなんて望外な魔法スキルいつまでも持つわけがなかった。再び時間は動き出す。
停止していたドラゴン達も動き出していた。様々な属性(エレメント)を持つドラゴン達がソルに襲い掛かってくる。
せっかく習得した古代の力(スキル)だ。使わない手はない。形勢を逆転する手段は他になかった。
ソルは腕を翳す。
「『無属性破壊魔法(アルテマ)』」
ソルは古代魔法『無属性破壊魔法(アルテマ)』を発動させた。消費MPは500。
普通の魔法に比べて膨大な消費MPではあるが、それでも今のソルのステータスであるならば、数発程度使ったところで問題はない。
――だが、発動した古代魔法アルテマは予想以上の威力であった。瞬間、凄まじい爆発が起きた。
襲い掛かってきた火竜(レッドドラゴン)が一瞬で灰燼に化した。その上、その他のドラゴンのHPも大きく削り取り、僅かな間に壊滅状態に追い込んだ。
「これが……古代魔法の力」
ソルは、失われた古代の力(スキル)に驚愕していた。予想以上の力だった。消費MPが膨大だと思ったが、その結果は予想以上だ。
費用対効果が良すぎる。壊れたような性能の魔法だった。
「ほう……」
バハムートは面白そうに笑みを浮かべる。
「古代魔法か……流石はあのロイの子孫だ。なかなかに面白い事をする」
嬉しそうな笑みだ。強者は強者を求めるのかもしれない。やはり弱すぎる敵では手応えがなくなってしまう。
「喜べ。再び我が相手をしてやる」
バハムートが立ち上がった。
「下がれ」
バハムートが命ずると六竜達は跡形もなく、消え去った。
「飲むがいい」
バハムートは小瓶を投げつけた。
「これは?」
「エリクサーだ。何も毒瓶ではない。万全ではない貴様を倒しても面白くはないからな。死ぬ時に消耗していた事を言い訳にされるのも面白くない」
バハムートの言葉を信用していいのかと思ったが、そもそも殺せるチャンスが何度もあったのに殺さなかったのだ。
わざわざソルをそんな姑息なやり方で殺そうとするはずもない。念の為、『鑑定』スキルを使ったが、間違いなく霊薬エリクサーであった。
これで心配なく飲める。ごくごく。
ソルはエリクサーを飲み干した。HPとMPが瞬く間に全快していくのを感じていた。
「さて、では第三ラウンドといこうかの」
バハムートは笑みを浮かべる。心なしか、その表情に真剣身が増していた。遊びは終わりという事か。
バハムートは今までよりも本気で向かってくる事だろう。ソルは今まで以上に真剣に剣を構えた。
闘いは終局(クライマックス)へと向かっていった。
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