「何一つ取り柄もない15歳の少年が脱出率0%の迷路を突破するを証明せよ。ただし、彼が何一つ取り柄もないのが取り柄な故、異端であることは考えないものとする。」

空白の迷路編

第0話



始まり



それが起きたのは突然だった。

何の前触れもなく、ほんの数秒の間に、人類文明が滅んだ。いつもは見渡せばそこにあったはず全てが消えた。


いたくもいたくなかった家が消えた。

行きたくも行きたくなくもなかった学校が消えた。


学校帰りによく買い食いしていたコンビニも、ヤンキーばかり溜まっていたゲーセンも、全てが一瞬にして消えた。


消えて、リセットして、乗っ取られた。


犯人は、自らのことを『宇宙人』と名乗った。


おかしな話だろう。

あのSF映画なんかでお馴染みの宇宙人だ。


ちゃんと円盤型の宇宙船に乗ってきたきたか、聞けばよかったね。しかし彼らは人間と敵対する気なんてほんの少しもなかったみたいだよ。


ただ、一方的に文明を終わらせて、圧倒的な力で人類の殆どを殺して──残った人間を試した。

本当に勝手な話さ。


奴らは「地球を救いにきた」とは言っていたけれど、別に人類を救いに来たわけではない。


そりゃそうだ、誰も救われなんていない。

死んだ人間も生き残った人間も、何の希望もないじゃないか。


生き残った人は、まだ死んだ人よりは希望があるって言ったって、あんな地獄の中ではなぁ。あの中に「死んだ方がマシだ」と思っていた人が何人いたことやら。



あの──空白で、無情で、非道で、絶望的な脱出率0%の迷路で。



僕かい?

僕はそうだなぁ。


あの空白で謎に包まれた迷路。あれが僕の本質だよ。


あれは僕のために作られたような迷路だ。それ以上でもそれ以下でもない。あの首謀者、『宇宙人』は僕ら人間のことを試していると言っていたけれど、そんな事実は建前で、僕が僕による僕のための本質でしかなかった。


では僕はそんな僕は何者かって話になってくるけれど、残念ながらその質問には期待しているような返事は出来なさそうだ。


僕は何一つ取り柄のないふっっつうの15歳の男の子さ。

そこにはいるが、いざ居なくなっても誰も困らないそんな普通の15歳。

人に迷惑は掛けないが、人からも迷惑を掛けられない、そんな普通の15歳。

人を悲しませもしないが、喜ばせもしない、そんな普通の15歳。

そんな普通で普遍のなんの取り柄もない15歳。

至って平凡な常識人さ。


そんな僕達の前に突如現れた宇宙人はこう言った。


「我々は地球を救いに来た。 生き延びたければ我々が用意した迷路を脱出せよ。ちなみに脱出率は0%だ」


さて此処で問題だ。


「何一つ取り柄もない15歳の少年が脱出率0%の迷路を突破するを証明せよ。ただし、彼が何一つ取り柄もないのが取り柄な故、異端であることは考えないものとする。」

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