ギデギデキ・ギギギギギデデ・デギギギギ・ギギギギデギギ・ギギギデギドデ
煙
第一章『覚醒編』
第1話
・
始まり
・
天才とは、1%のひらめきと99%の努力である。
「それでは、ローイよ。一国民として問う」「お前は、今から覚醒する能力がどれほど強大であろうと、国の繁栄のためだけに使うと神に誓えるか?」
エジソンの有名すぎる名言だ。
しかし、この名言は少しねじ曲がった意味で伝わったのは知っているかい?
「はい、使官さま。国の繁栄のために『魔法を使う』と神に誓います」
エジソンは何も傲慢に天才ですらこんなにも努力をしているんだと言いたいわけではない。
「うむ、いい返事だ。きっと神もお前の清純な心に答え、相応の力を備えてくれるだろう」
どれだけ努力しようとも、1%のひらめきがなければ人類はみな凡人であると伝えたかったのだ。
「それでは、ローイよ。この聖火の灯った命の水の中に自分の血を垂らすのだ」
つまりはエジソンの自慢話が、回り回って謙遜の意に変わってしまったことになる。
なんて皮肉な話だろうか。
これでは、天に召されたエジソンの自尊心も救われまい。
「さぁ、飲み込め!己の『魔力』を開放するのだ!!」
腕立て伏せ×500
上体起こし×500
スクワット×500
ランニング20km
規定のメニューを1時間で終わらせる。
「うああああああああああああ!!!!!」
これが、僕の99%だ。
そして──残り1%。
「素晴らしい…!この魔法は…!!」
今日、僕の1%が覚醒する──。
はずだった。
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ローイの固有魔法(1)
名称登録:未登録
効果:特定した相手を転ばすことが可能
デメリット:24時間のインターバルが必要
・
・
ローイの固有魔法(2)
名称登録:未登録
効果:相手の攻撃を1度だけ避ける事ができる
デメリット:2100キロカロリー程度の消費分の体力を失う
・
世界的にも高い水準の都市国家『ナラク王国』。
その栄えの裏側には徹底された国家忠誠の教育制度が事を成していた。
6歳から国民たちの義務でもある──”国家英才教育”が始まる。
まずは、6年間。
6~12歳の間は、国家の忠誠を植え付けるための洗脳とも言える信仰教育の数々が施された。
”国家は神である”
”国家のために命を賭し、国家のために労することが美徳である”
と。
ほとんどの生徒が疑わず、本当になにも疑わずに国を崇める。
ここまでがこの国の初等教育。
中等部に学を進めると、今度はこの国に忠誠を誓い国家のために労するために必要な技術『魔学』についての学びを深め、体作りをする。
『魔学』とは、人間の持つ個人能力の『魔法』を文学的に表現した用語である。
人によっては手のひらから火炎放射を出せたり、息を吹きかけるだけで一帯を凍らせられたりと──種類は十人十色である。
これらの能力は生まれつき備わっているものではなく後天的に身につく能力だ。
つまり、中等部の教育は、この『魔法』を身につけるための教育とも言っていい。
要する期間は実に3年。
鼻血が出るまで勉強し──血反吐を吐くまで走り込んだ3年間。
ただただ目標に向かって突き進んだ3年間。
そして、高等部に上がると同時に生徒たちの魔法は一気に覚醒することになる──。
ナラク王国憲法にも記載のある通り”中等教育を修了し、将来ナラク王国の繁栄のために魔法を活用するものにのみ魔法覚醒を授ける”と。
つまりは何らかの力を以て国が魔法を覚醒させる──ということだ。
「おぉ、ローイ。相変わらず朝早いな」
友人のアミンが目を覚ましたようだ。
寝坊気味でいつも僕が起こしているが、さすがに今日は、ひとりで起きれたらしい。
「いつもの訓練、また行ったのか?」
「あぁ、さっき帰って来てシャワー浴びたところ」
「今日くらい訓練サボったっていいじゃんかよぉ。人生で1番大切な日だろ?」
「体調崩して、儀式に響いたらどうするんだよぉ」
アミンは、あくびをしながら、ボサボサの頭を直そうと洗面所に向かう。
「そんなやわな体作りはしてない。そんなことより僕はそろそろ行くぞ」
──そう、本日は僕たち高等部の入学式だ。
とは言っても、全寮制で首都内に教育機関が一つ。
高等部までの義務教育化も徹底しているため、校舎が移動するだけだからたいして環境の変化があるように見えない。
ただ、先ほどアミンが口にしていたように僕たちにとっては人生で一番と言っていいほど重要な日である。
「え、まじ?何時にどこ集合だっけ?」
「9時に礼拝堂集合」
「は?まだ6時半だろ?なんで2時間以上前に行く必要があるんだよ」
「俺の学年は、60万人以上生徒がいるんだぞ、9時に行ったら何時間も待つ事になるだろ」
「じゃあ、せめて30分だけ待ってくれよ〜。初等部の頃からの付き合いだろ〜」
「嫌だ、時間は現金だ。無駄にしたくない」
「じゃあ、お前の大好きな板チョコアイス!あれ奢るから!」
僕は考える。何にも変えられない資産でもある人生の中の30分と食堂で150ゴールドで買える板チョコアイス。
どちらが自分にとって有益かをひたすら…ただひたすら考える。
板チョコアイスとはこの国の全国展開しているチョコ系の氷菓である。
厚手の板チョコに、クリームアイスが詰まっているという何の工夫もないアイスだ。
口にした瞬間、パキッとした音が特徴的でアイスの真ん中で割って分けて食べることも可能。
正直な話をすると、僕はこのアイスをあまり良い印象はあまりない。
まず、カロリー。
わずか、70mlの氷菓が288kcalものカロリーを有している。
これはほぼ暴利だ。カロリーのことを思うと、口の中を殴られている気分でしかない。
そして、外側のチョコレート。これは、チョコレートの本場の外国から原料を全て直輸入している。
これだけの味をあそこまで低価格で売っているんだ。
これでは製造元は奴隷のように働かなければ、需要と供給が成り立ちはしないだろう。
その劣悪な環境で人々が働かされている人々が届けるのは、暴力的なカロリーとほのかな甘い幸せだけ。
どう考えても、どちらの方が資産力があるかは明白だ。
考えなくても決まってる──。
── 30分後。 AM7:00.
「待っててくれてありがとな」
「いや。昨日読んでた本が、ちょうど30分くらいで読み終わりそうだったからだよ。気にするな」
僕は、奢ってもらった板チョコアイスを頬張りながらアミンと礼拝堂に向かう。
「そっか。ローイはほんといつもどおり落ちいついてるな」
「俺なんか一週間くらい前からそわそわして落ち着かねぇよぉ」
確かに、寝坊率99.5%を誇るアミンが今日は、目覚まし(僕のこと)なしに起きたのはほぼ奇跡だと言っても良い。
これも、おそらく今日の”儀式”の重圧からなのだろう。
僕らと同じ学年の奴らがチラチラと礼拝堂に向かっているのを横目で見ても、浮かない顔をしたやつばかりだ。
「やっぱ、あれだな。中等部学年1位、学科実技教科を合わせて1000点中997点を叩き出した化け物は違うな」
「やめろ、その言い方は好きじゃない」
僕はもちろん天才ではない。
人より覚えが良いわけでもないし、体格だって恵まれていない。
ただ、──誰よりも強くなりたくて。
誰よりも、博を知りたくて。
僕は人生という膨大な時間を捨ててまで訓練と勉強を欠かさずにこなしてきた。
「そういえば、サリーちゃんは?待ち合わせとかもしてねーの?」
「あいつは、案内してくれる付添の友達と一緒だろ。一人じゃ礼拝堂に行けないし」
「──そっか。早く、目治るといいな」
「そんな話より、やっぱり礼拝堂人入りきらなくて外で待たされるって。早く行こうぜ」
「そうだな。あぁ、俺早く”儀式”終わらせてーよ。早く『魔法』を使いたい」
「俺ら、そのために今まで頑張ってきたもんな」
そう、この儀式こそが僕たちの”人生で最も大切な日”の所以である。
この儀式が僕たちの魔法を覚醒させる。
原理は非常に単純明快。
中等教育の『魔法学』で皆が習った事だ。
人間の脳は、約10%ほどしか使われていないと科学的にも証明されている。
しかし、この人間の脳を強制的に引き上げることができる方法があるのだ。
それが命の水だ。
命の水は、創造神ブラフ様のお作りになったとされる透明の液体で、無味無臭である。
この生命の水と自らの血、アルコールを1:1:8の割合で調合し、火を付ける。
燃え上がった液体を喉から流し込むことにより早くて数秒、遅くとも翌日までには覚醒が完了するのだ。
この魔法覚醒が、高等教育を教育を受ける際の最低条件となる。
ちなみに、小~高等教育を途中放棄したり、不教育することは法律上認められていない。
もしそういったものが現れたのであれば、国内カーストは最下層となり奴隷以下の扱いを受けることになる。
これも中等部の学科内容の1つだ。
「着いたな。うぁー…すごい人」
「高等部の新一年生60万人、1000クラス以上が同じ場所に揃うなんて今日以外ないからな」
「ほっとんど顔の知らねえやつばかりだもんな、なんで国家直属の教育機関をこんなマンモス校にしたんだ?」
いくら僕だってさすがに60万人のすべてを覚えているわけじゃないし、この数を管理するのは学校側を溜まったもんじゃないだろう。
では、なぜ首都圏に教育機関を1つしかおかないのか?
初等部1年生から高等部5年生までの学生を集めて、莫大な費用をかけて全寮制にし、徹底的に管理しているのは──おそらく、お国様のためなのだろう。
国が『資産になり得るものは自分たちで徹底的に管理しておきたい』と、見え見えの本音だ。
『国民が何よりの資産になる』。
これはこの前、国王の演説の中で発していた言葉だ。
もしナラク王国が民主主義であったら大バッシングは免れなかっただろう。
だが、国民は異常なまでに『お国様』を崇拝している。
『そういう教育』をしてきたのだろうが、僕から見れば宗教じみており少し怖い。
「今日儀式してくれるのって、”バラモンカースト”の人々なんだろう?」
「あぁ、らしいな」
「失礼なことしたら殺されたりすんのかな」
「そんなの迷信だよ。そこまで器の狭い人じゃないし、そこまで人殺しができるような人たちでもないさ」
──だって、神様に関わる仕事をしている人たちだもん。と言いかけてやめた。
神に関わる仕事をしている?だからなんだと言うんだ。
なんの根拠も信憑性もない。
僕は理論的ではない話が嫌いだ。
「絶対今日中に終わらねーだろ。どうするよ。並んだら確実に2時間はかかるぜ」
「いいよ、入学式にも早めに行っておきたいし並ぼう」
本を読んでいれば、時間の無駄にはならないしアミンがいれば話も弾んで2時間なんてあっという間だ。
結局、僕たち2人は長蛇の列に並ぶことにした。
礼拝堂は、見渡せない程に巨大な建物であることに間違いはないが、だとしても人数が多すぎる。
本当はもっと早めに寮を出る予定だったが、7時過ぎでも遅すぎた。
ここまで他の生徒が前倒し行動が徹底していたとは、少し見誤っていた部分もある。
まぁ考えれば、こうなる状況くらい誰だって予想はつくだろうが。
「てか、ローイ。お前気を付けろよ」
「アミン。お前の言葉には『主語』がない。”なにに”かを答えてもらってもいいか?」
「わかるだろ。お前──」
アミンが、眉間にシワを寄せ僕と目を合わせてこう答える。
「今日、死ぬかもしれないんだから」
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