第12話 婚約者
「婚約者だって……」
いつかは覚悟をしていたことだ。むしろ姫奈が俺の知らないやつとくっつくのを見るのが嫌だから、屋敷を出たのだ。だっていうのに、なんで俺はこんな話を聞かされているのだろう。なんで彼女はこんなに悲しそうな顔をしているのだろう……
「ええ、お父さんとの競合会社の社長の息子さんらしいわ。パーティーで私にひとめぼれをしたんですって……まるで漫画やおとぎ話みたいよね」
「……姫奈はそいつの事が好きなのか……?」
「わからないわよ、だってろくに話してもいないもの……大体私がのり気だったら家出何てすると思う?」
「そうだよね……」
彼女は声を震わせてそう言った。ああ、わかっていたさ。彼女は少し我儘な事ところもあるがそれは常識の範囲内だ。よほどのことが無い限り、こんな無茶はしない。ライトノベルでもないんだ。家と家同士の取り決めである。婚約破棄というものがそんなに簡単にできるものではないということはわかっているはずだ。
「ねえ、一夜……もしも、私が助けてって言ったらあの映画みたいに助けてくれるかしら……?」
「それって……」
彼女の申し出に俺は何も言えなくなる。俺と彼女は幼馴染で……元執事とお嬢様で……友人で……だけど恋人というわけではないのだ。それにうちの父は彼女の親の子会社の社長だ。王牙おじさんを敵に回したら、仮に彼女を匿ったところで高校生の俺が彼女を養うのは不可能に近い。そして、待っているのは関係の破綻だろう。かつて俺に「ごめんね……」といって出て行った母の様に……
「ごめんなさい……変な事を言ったわね。ちょっと席を外すわね」
そういうと彼女は立ち上がる。そんな彼女になんといえばいいかわからない。金で人は幸せになれないというがそれは嘘だ。だってさ、俺の両親だって、元は仲良しだったんだよ。父の会社の経営が危なくなって、結局会社は立て直せたものの、父と母の関係は立て直せなかった。結局貧乏が全てをダメにしたんだ。そんな思いを姫奈にさせるわけないはいかない。王牙おじさんが選んだ人なんだ。いい人に決まっている。
俺は必死に自分に言い聞かせる。そうでもしないと俺はあの映画の様に婚約者から奪いたくなってしまうからだ。
「お待たせいたしました!! カップル特製のパフェです!! あれ、お嬢様は……?」
「あのその……」
そういうと店員さんがパフェを持ってきた。それは写真と違い形がかなり歪だけど、俺の大好きなイチゴがたくさん乗ったパフェだった。心なしかハートマークのチョコも多い気がする。
「いやーそれにしても、お嬢様は健気ですよね。わざわざ、朝早く来てこれを手作りをしていたんですよ。あなたのためにって……だから、喧嘩をしたなら仲直りをした方がいいですよ」
「え……?」
俺は店員さんの言葉に思わず驚いてみる。店員さんはどこか優しい顔をしていった。ここまでされたんだ、俺だって彼女がどう思ってくれているのかなんてわかる。
それにさ、姫奈はここまで俺のためにしてくれているのに……俺は何をしているんだ。姫奈は俺の母じゃない。俺はちゃんと彼女と向き合ったのか? ちゃんと話してないよな……俺の悩みとか、気持ちをさ……なのに勝手に決めて、勝手にあきらめて……
席を立った時の彼女の涙をグッとこらえた顔が思い出される。俺はどうしたい? 俺は本当はどうしたんだ? 俺が自問しているとスマホがなる
『ごめん、迎えが来ちゃったから帰るわね。パフェのお金は払ってあるから安心して』
姫奈からの通知だった。直感だけど、ここで彼女を帰したら取り返しのつかないことになりそうだ。それにさ、俺は本当の気持ちを伝えれていない。
「店員さん、すいません。このパフェを凍らせておいてくれませんか?」
俺は店員さんにそう告げると同時に駆け出す。まだ彼女は遠くにいっていないはずだ。店を出て見たのは、金髪の端正な顔の男に肩を抱かれて、車に乗せられていく姫奈だった。
誰だ、あいつは……? モデルのようなルックスと、俺でもわかる質のいいシャツのズボンに身を包んだ青年だ。年齢は俺とおなじくらいだろうか。
その男は俺の視線に気づいたのか、こちらを振り向いてニヤリとどこか歪んだ笑みを浮かべる。まるで俺に見せびらかすように。その顔に俺は嫌な予感を覚える。何よりも姫奈のあの顔が目から離れない。
「待ってくれ!!」
俺の言葉も虚しく、車は出発してしまう。タクシーを探そうとした俺の背後でクラクションが鳴らされる。
「一夜君、探しましたぞ。お嬢様は?」
「七海さん!! 姫奈はさっき金髪の男と一緒に行ってしまいましたが……」
「くっそ、遅かったか……一夜君、もしかしたら君の人生が大きくかわってしまうかもしれない。お嬢様を……助ける覚悟はありますかな? 」
「もちろんです!!」
俺は即答をする。俺の人生に光をくれたのは彼女だ。だったら俺は……
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すいません、七海さんのとのエピソードが抜けていました。
一話に追記を致しましたので読んでくださると嬉しいです。
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