第6話 二人の思い出
「何を見ているのかしら、そんなに私が信用できないって言うの?」
「いやぁ……」
俺が包丁を握っている彼女を見ていると姫奈が不機嫌そうに唇を尖らせた。だって中学の時の調理実習の時は包丁を持って固まってたじゃないか。しかも、思いっきり包丁を振り上げ始めたから必死に止めたものである。最近は社交のためにとクッキーなどは作れるようになったらしいが、包丁を使いこなせるのかな? ちなみに今回の材料は彼女がスーパーで買ってきたものである。ひき肉400グラムが2000円って高くない? どこで売っているの?
「あれ……ちゃんとできてる?」
「ふふん、当たり前でしょう、私だって花嫁修業くらいしているのよ」
そう答えた彼女はどや顔で野菜を切り始める。その姿を見て、俺は安心すると同時に将来の婚約者が羨ましくなってしまう。くっそ、俺は何を考えているんだよ。なんでまだ見ぬ婚約者に嫉妬をしなきゃいけないんだ。俺は醜い感情を誤魔化すためにも彼女に話しかける。
「姫奈にばかり料理をさせるのは悪いから俺もなんか作るよ」
「そんないいのに……でも、こういうやりとりをしていると昔やったおままごとを思い出すわね。あの時は一夜ってば、私の旦那さんになるって譲らなかったわよね」
彼女が語るのは小学生の時の話だ。懐かしいな。彼女の家に遊びに行った俺は色々な遊びをしたものだ。その中でも彼女のお気に入りの遊びはおままごとだった。……あの頃は立場とかも考えなかったこともあり自由に気持ちを示せた気がする……でもさ、一つだけ訂正させてほしい。
「確かに最初はそうだったけど、姫奈だって俺のお嫁さんになるーって言って聞かなかったじゃないか。一回使用人さんが俺のお嫁さん役になったら一日中不機嫌そうに頬をふくらませてたじゃん」
「あー聞こえない聞こえない!! 昔の事をいつまでも言うなんて器の小さい男ね」
「最初に振ったのは姫奈の方だよねぇ?」
「ほら、そんな事よりもでできたわよ。冷める前に食べましょ」
俺の言葉に昔の事を思い出したのか姫奈は顔を真赤にしながら誤魔化すように言った。そんな彼女が可愛らしくて俺も浮かれていたのだろう。彼女がうちに来た理由をもっとじっくりと考えるべきだったのだ。
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