第5話 心の貞操帯
うおおおおおお、まじか、まじか!! 俺は突然の事態にパニくりながらも落ち着くために紅茶を淹れる。姫奈はどうして家を出たのだろうとか、なんでここに来たのだろうかという疑問が俺の頭を渦巻く。考えても答えは出ない上になにがおきているかわからない。
「別に一夜はもう、私の執事じゃないんだからこんな事しなくていいのに……」
「お客様に紅茶を淹れるのはマナーだろ。あんまり上等な奴じゃないから、美味しくても文句は言わないでくれよ。それで……ここにいることは王牙おじさんには言わないほうがいいんだよな?」
「ええ……察しが早くて助かるわ。その……家に入れてくれてありがとう。迷惑じゃなかったかしら? あんたのとこのおじさんうちの子会社の社長だし……」
姫奈は紅茶をすすりながら不安そうにこちらを見つめながら言う。まったくこいつは……自分だって家出をするくらいしんどいくせにさ。優しすぎるだろ、俺はそんな彼女の頭を軽くチョップする。
「何をするのよ、ちゃんとセットしてるのに乱れるでしょう」
「姫奈こそ何を言っているんだよ、迷惑なわけないだろ。姫奈が俺を頼ってくれたんだからさ」
「……ありがと……」
不満そうに頭を抑えている姫奈だったが俺の言葉を聞くと顔を真赤にして、ぼそりと言った。俺はそんな彼女を見て胸が熱くなってしまう。くっそ、やっぱり無茶苦茶可愛いな。実際のところやばいかやばくないかで言えばけっこうやばいかもしれない。うちの父の会社は王牙おじさんが本気になったらすぐにつぶせるレベルである。だけどさ……惚れた女の子が頼ってくれているのに、無下になんかできない。
「居場所は言わなくてもいいけどさ、王牙おじさんが心配しているだろうから連絡だけはしろよ」
「わかったわ、ちゃんと連絡はしておく」
「それで……何があったんだ? その荷物の量からいって家出か?」
俺は彼女がもってきた荷物を指さしながら訪ねる。大きめのキャリーケースににぱんぱんに詰められた荷物に、いつものオーダーメイドとは違うそこいらの量販店で売っているようなワンピース姿はお洒落な彼女にしては珍しい。まあ、それでも素材がいいから無茶苦茶似合っているんだが……まあ、何があったかはわからないが、家出をするくらいなのだ、ただ事ではないだろう。
「言いたくない……って言ったらだめかしら?」
「まあ、そういう事もあるよね。姫奈がそんな事をするってのはよっぽどの時だからね。その代わり俺が匿えるのはGWが終わるまでだよ。それ以上は俺も匿えないし、流石に王牙おじさんをごまかしきれないと思うから」
「ありがとう……やっぱり困った時はいつも一夜が助けてくれるのね」
そう言った彼女の笑顔がまぶしくて、俺は胸がドキッとしてしまうと同時に咄嗟に自分の愛馬を抑えてしまう。ああ、そうだ。もう、貞操帯はないんだった……
「じゃあ、泊めてもらうお礼に料理をふるまってあげるわ。私の手料理を食べれるなんてあんたくらいなんだからね」
「え、食えるもの作れるの? いえ、冗談です。姫奈様の手料理楽しみだなぁぁぁ」
行っている途中で彼女からすさまじい殺気を感じたので俺は愛想笑いをしてごまかす。それにしても姫奈の料理か……なんか同棲しているみたいで不謹慎ながらもテンションが上がってしまう。まあ、夜になったら父も返ってくるんだけどね。などと思っているとスマホが鳴った。
『すまない、急遽出張になった。GW中は帰ってこれない』
え、うっそでしょ。つまり俺は姫奈とこの家で二人っきりなのだ。何やら楽しそうに鼻歌を歌ってエプロンを鞄から出している彼女を見ながら俺は自分と自分の愛馬に言い聞かせる。「絶対変な事をするなよ」と……だって、彼女は俺を信頼して頼ってくれたのだから……だから俺は心の貞操帯をしなければいけないのだ。
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