第28話 美少女で許されるのは限度があるよね
「…………偶然神様とすれ違ったの?俺んちの、それも玄関にも鍵のかかってた家の、せまい廊下で?」
「うん!こういうこともあるんだね。いやー、偶然ってすごいなー」
内心を隠しながら、とりあえず話を進めるべく聞いてみたのだが、幼馴染の言動には早くもツッコミどころしかなかった。
いや、ねーよそんな偶然。有り得ないから。
一般家庭の廊下で、しかも神様とたまたますれ違うとか、どんな確率だよ。
海に逃げたメダカだって鮭みたく川にバックトゥザリバーして「ないわー」って言うわ。
宝くじが買った瞬間「あ、僕ハズレ券なんで。乙っしたー」って言いながらちり紙に生まれ変わるくらいない。
ないない絶対ない。ないったらない。
ねーよマジで。それで押し通せるなら世の中はとっくに平和になってるわ。
「へー、そっかー。偶然かー。そういうことももしかしたらあるのかもしれないなー」
「うんうん、偶然って便利だよね。それでね、このチケットなんだけど」
おい、待て。流すな。
ナチュラルに話を進めようとするとかビビるわ。せめてもう少し動揺を見せろ。
あまりにも平然としすぎてるから、こっちがおかしいのかと一瞬自分を疑っちまったじゃねぇか。
神じゃなくなってなお、俺のSAN値を削るのやめーや。
腹が立ったので追求するべく、俺は声を荒げることにしたのだが…
「神と!すれ違うとか!偶然って!すごいな!」
「そうだね!やっぱり私が美少女だから神様に愛されてるってことじゃないかな!私が!美少女だから!!!」
あ、確信犯だこいつ。
「……そうか。美少女ってすごいな……」
「そうなの!神様も美少女が好きだから私のことを応援してくれてるんだよ!だからこの話は終りね!ハイサイ!やめやめ!蒸し返すのナーシ!これ以上はNGだから!」
誤魔化そうとしてる。
この幼馴染、美少女で押し通して誤魔化そうとしてるんだけど。
お前、それでいいのか?それでなんとかなると、本気で思っているのか?
もしそうなら偶然という単語に謝ってくれ、頼むから。
あと美少女にもな。可愛ければどうとでもなると考えてるなら、それは大間違いだぞ。
神様も趣味を勝手に決めつけれられて、いい迷惑だろう。
全方位に迷惑を撒き散らすのはさすがにどうかと俺は思う。
「…………うん、花梨がそこまで言うなら、俺はもうなにも言わないわ」
言いたいことが多すぎてめんどくさくなったのもあり、ひとまずこの場は頷いておくも、俺の中では現在進行形で美少女の価値が急転直下。大幅下落してる真っ最中だ。
ストップ安の円高で、このままいけばデフレスパイラルまっしぐらである。
もしかしたら今後、美少女そのものを信じられなくなるかもしれない。
それくらい目の前の美少女を名乗る幼馴染は、あまりにも見苦しかった。
「な、なら良かった…ふぅ、じゃあ話を戻すね…この映画のチケット、お母さんから貰ったんだけど…」
おいコラ、ちょっと待て。ツッコミどころをまた増やすな。
矛盾するのがあまりにも早すぎるわ。
「神様から貰ったんじゃないのか?」
「あ、え、えーとね…そう!お母さんは神様の知り合いなの!だから神様がお母さんに頼まれて、私にチケット渡してくれたんだよ!」
すげーな北欧の血。おばさんどんだけ偉いんだよ。
本人に確認したら全力で否定してきそうだ。まぁあの人まで巻き込むのは可哀想だからやめとこ…
「あとね、明日のデート代預かってきたんだ。トウマちゃんが遠慮するかもしれないから、今回は商品券なんだって。それと、今度遊園地のフリーパスもくれるって言われたよ。次の長期休みの時は旅行券も…」
「おい、ちょっと待て」
なんだその至れり尽くせり。
さすがにやりすぎだろ。花梨を猫可愛がりしてるのは知ってるが、そこまで娘が可愛いのかあのおばさん。
「なんでただ出かけるだけでそんなにお膳立てされないといけないんだ。おばさんなに考えてんだよ」
「え?うーん、なんかね、お母さんに私がトウマちゃんに告白したこと話したら、すごく応援してくれてるの。なにがなんでも捕まえなさい、そのためならどんな協力も惜しまないしなんでもするって言われたんだよね」
違ったわ。狙い俺かよ。
「あ、あとトウマちゃんにも言伝頼まれてたんだ。いい加減覚悟決めなさいって。というか決めてだって。お願いだから花梨と付き合って私を安心させてくださいお願いしますほんと貴方がついていないとこの子が心配すぎて胃痛がひどくて…後生だからなんでもするからなんなら土下座もするからほんとお願いだから貰って頂戴ほんとにお願いだからって、なんか最後は涙目になりながら言われたんだけど…心配性だよねぇお母さんも。私だってちゃんとしてるのにさー」
長ゼリフを言い終えた花梨はなにやらむくれている様子だが、俺は素直にドン引きしていた。
(おばさん必死すぎだろ…)
昔からなにかにつけて俺と花梨をくっつけようとしていたのは知っていたけどここまでとは。
やはり血は争えないのだろうか。親子揃って俺を引かせる神代家の残念さに、俺は戦慄を禁じ得なかった。
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