第26話 神(自称)、駄々をこねる
「ううぅ…暴力だ、DVだよこれ。ドメスティックなバイオレンスだよぉ…」
少しの時間が過ぎ、俺がつねっていた手を離した後、半べそをかきながら神(自称)は痛そうに紙袋の下から自分の頬をさすっていた。
「人聞きの悪いこと言うなよ」
「だって女の子の頬をつねるなんて普通しないよ?てか私神だし、不敬すぎない?」
まだ神と言い張るのか…どっちかというとお前のほうがよほど不敬だぞ。
紙袋被って神を名乗るとか、世が世なら天罰食らってもおかしくないレベルだし。
そのメンタルの強さは評価するが、設定含めて色々ガバガバすぎるのはマジでどうにかしてほしいんだがなぁ。
付け焼刃どころか米粒でくっつけた藁半紙並にペラペラすぎる。
「調子にのった罰だ。だいたい、お前の作戦全く成功なんてしてないからな」
「え…うそ、ほんとに?」
「マジマジ。ぶっちゃけ別の意味で引いていたし。てかドン引きしてたわ。朝のストーカー行為とかなんだったんだよ」
なにやら愕然としてる神(自称)に、俺は聞いた。
むしろ成功していると思ってたことが残念でならないが、それは今は置いておく。
「えっと、あれはさり気なーくトウマちゃんに私と一緒に登校できないことの寂しさを意識させようとしたつもりだったんだけど…」
チラリとこちらの様子を伺ってくる紙袋。
あれそういう意図だったのかよ。明後日の方向にかっとびすぎだ。
しかし、どうでもいいけど涙目になってせいか、紙袋の黒目部分が飛沫状に広がっていて、なかなかヤバい絵面に仕上がってるな。
中身がわかっていても上目遣いで見られると、呪いをかけられそうで正直チビりそうだ。
暗闇から現れたら間違いなく絶叫することだろう。
どうみてもホラー映画の悪霊にしか見えない凶悪さだが、この状態で帰ったらまたおばさんは卒倒するんじゃないだろうか。
あの人花梨の母親の割に意外と豆腐メンタルだからなぁ。いや、でもこの紙袋前にしたらそれが普通で、平然と受け答えしてる俺がおかしいのかもしれん。
そんな益体もないことを考えながら、俺は花梨に白い目を向けていた。
「全然さり気なくなかったし、寂しくもなかったんだが。むしろ疲れたわ。そういうことしたいなら、俺をガン無視してさっさと学校いっとくべきだったろーが」
「えー!?嫌だよそんなのー!?なんでトウマちゃん置いてひとりで学校行かないといけないのさー!今日だってすっごく我慢してたのに!」
呆れる俺に、神(自称)はブーイングをかましてくる。
いや、そんなこと言われても。作戦ってそういうもんだぞ。
俺に文句を言われても困る。そもそもの話、花梨のやったことは完全に逆効果だ。
女の子として意識するどころか、幼馴染として花梨の今後に関する不安が大きくなっただけだったしな。
そういう意味では花梨の作戦は完全に大失敗に終わったと言えるだろう。
「もしかしたら他のやつとも話すいいきっかけになったかもしれないじゃないか。昨日も言ったが、俺に拘る必要なんてないんだし」
「なんでそんなこと言うのさー!私がトウマちゃんがいい!トウマちゃんがいいのー!!!」
駄々っ子かコイツ。危ないから腕ブンブン振り回すのはやめてくれ。
というか、そこまで俺に拘りを見せてることもなかろうに。
正直嬉しくないかといえば嘘になるが、それはそれとしてなかなかに複雑な心境だった。
「そう言われてもなぁ…」
「むぅ…ほんとに作戦失敗してたんだ…いいもん、次の手があるから」
神(自称)は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、なにやら上着のポケットをガサゴソと漁り始めた。
ここでようやく今の神(自称)の服装がスカイブルーのパーカーに、ピンクのスカートといった、ラフな部屋着であったことに気付くも、気付いたところで別にどうということはない。
なんせ首から上があれだから、どれだけオシャレしたところで台無しってレベルじゃないしな。
マイナス補正があまりにもでかすぎる。顔というパーツの重要さを、俺はまざまざと見せつけられていた。
「あ、あった!」
胡乱な目つきで神(自称)がなにをするつもりなのか見守っていると、やがて神(自称)は嬉しそうな声とともに二枚の紙を取り出した。
そしてそれを俺へと突き出し、こういったのだ。
「トウマちゃん、明日私とデートしよう!」
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