第23話 神(自称)の再臨

「うえー、喉いてぇ…」




 偽り(ガチ)の神からポンコツメールが届いてはや三時間ほど。


 野郎だけのカラオケ大会は大いに盛り上がりを見せて終了していた。


 なんせ男だけしかいないのだから気を遣う必要もまるでなく、それぞれ思い思いの曲を熱唱し続けたのだ。




 ジャブ代わりのアニソンから始まり、ボカロ曲から渋めのロックまでなんでもありだったのもあって、気付けばなかなかカオスな空間が出来上がっていたが、男だけというのも案外悪くないものだ。


 リア充連中なら女子を引き連れて楽しむところなのだろうが、もしあの空間に女の子がいたら多分引かれていたことだろう。


俺達だって空気くらいは読める。普段ならそこらへんのさじ加減を弁えてるが、同性だけなら話は別だ。


思い切りはっちゃけるのは、普通に楽しかったしな。


 なんだかんだ新しく仲良くなれたやつもできたし、参加して良かったと素直に思う。




 叫びすぎたせいで襲ってくるのどの痛みを差し置けば、溜まっていたストレスを発散できたし気分爽快。


 さぁ後は帰って適当に過ごして寝るだけだと思えるくらいには、楽しい放課後だったと言えるだろう。




「まぁ俺にとって、本番はこれからなんだけどな…」




 痛むのどをさすりつつ、俺は視線を僅かに上へと向ける。


辺りは住宅街が広がっており、似たような家の外観がそこかしこに点在していたが、その一角には見知った我が家があり、それを確かに捉えていた。


視界に映る景色は既に薄暗くなっていたが、目はとうに慣れている。


あと一分もしないうちに帰宅することができるのだが、ニ階のとある一室から明かりが漏れているのが確認できた。




 そこは俺の部屋がある場所であり、さらに言えば両親は今日もまだ帰宅している時間じゃない。


 部屋の電気を消し忘れていた可能性がゼロとまでは言わないが、俺の記憶では間違いなく学校に行くために部屋を出る際、切り忘れがないか確認していたはずである。


 そのときはスイッチはオフになっていたし、なんなら寝る前に消して寝るのが俺のそもそもの習慣だ。


 これまでの自分を信じるなら、誰もいないはずの自宅から光が漏れているなんて、有り得ない光景なわけなのだが、現実として確かに明かりはついている。




 つまり、本来の家の住人である俺を差し置いて、先に部屋に上がり込んでいる何者が確実に存在しているというわけだ。


 それに気付いたなら普通は警戒を顕にしてさっさと警察に通報するか、物音を立てないよう気をつけながら家に入るべきなんだろうが、俺は構わず直進し、玄関の前に立つ。




(……まさかなぁ)




 鍵を取り出そうとしたところで、ふと思い至った疑問そのままに、試しにドアノブを下げてみると、ギィッと音を出しながら、ドアが軽く開いていった。




「人の家に入り込んでおきながら鍵もかけんとは、なんて無用心な…」




 これはさすがに一言注意しないとダメだな。


カバンを一度背負いなおすと、俺は改めて家の中へと入り込む。


 そのまま手探りで電気をつけつつ、土間を上がって靴を脱ぐのだが、視界の端にちょこんと揃えられたスニーカーがあるのを発見した。




 青色で白のワンポイントが入ったそれは、俺のサイズより小さい、見るからに女子用のものだ。


 ついでに言えば見覚えだってある。学校用のローファーとは違うから、一度帰宅して履き替えてから来たんだろう。




 着替えもしてきたのかもしれないな。


まともな姿になってくれていると有難いんだが…


でも紙袋で全部台無しだから、考えるだけ無駄かもしれん。


そんなどうでもいい情報を、つい読み取ってしまったのは、長年無駄に養ってしまった観察眼ゆえのことかもしれなかった。




「…………いくか」




 今日の神様がどんな格好をしてきているかは知らないが、少なくとも昨日見たく制服じゃありませんように……


 神(自称)ではないどこぞの神様に願掛けをしながら、俺は階段を一歩づつ登っていく。


 その際物音がないか耳に神経を集中させてみたのだが、特に聞き取れる物音もない。




 「なんだか悪い予感がしてきたな…」




もしや寝てるんじゃないだろうな。


 いやいやまさか、いくらアイツでも。


 でも絶対にないとは言い切れないんだよなぁ。


 受験勉強のときも目を離すと、すぐに鼻ちょうちん作って寝てたやつだ。


 可能性としては十分有りうる。


 悪い意味で、俺は幼馴染に信頼を寄せていた。


 ヤツはこちらの予想を悪い意味で裏切ってくることには天性の才能を持っているのだ。


そしてその予感は、すぐに的中することになる。




「ただい、まー…」




 部屋のドアを開けると、そこには予想外の光景が広がっていた。




「あ、おかえりー」




 返ってきたのはえらくフランクな声。緊張感の欠片もない。


 だけど昨日みたく、部屋の中心に鎮座しているわけでもなく、聞こえてきたのはもっと離れたところから。


 さて、どこから聞こえてきたのかと目を向けて、俺は思わずギョッとした。




「ごめん。ちょっと待っててー。今いいとこなんだー」




 今日の神(自称)は足をパタパタさせ、俺のベッドに寝転んでいた。




 漫画を読みながら。しかも案の定、頭から紙袋を被ったままで。




「あ、面白ーい!これ当たりだよいい漫画見つけたねトウマちゃん!」




 神(自称)が笑うと、被っていた紙袋もカサカサと音を立て小刻みに揺れていく。




(クッソシュールやん…)




 昨日の今日となる二度目の神(自称)との出会い。


 それはまさのシュールの極み。神(自称)の再臨は、威厳なんてまるでない、本当にひどい絵面だった。


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