束の間の

風月

第1話

 背中から伝わった衝撃は、すぐに体全部を揺らす鼓動となって、やがてそれが静かになって。

 君、のことを少しも考えなかった、と言ったら嘘になる。会いたい、と思っているし、逢えるんじゃないか、と期待もした。

 けれど。

「……少し、早過ぎるんじゃないか?」

 会えば屹度送り返そうとするだろう、とも、また思ってはいた。


 瞳をあける。波の音、潮の匂いはしてこない。足元に水、不思議と冷たくない。今まで幾度も入水をしてきて、こんなに温かい水に触れたことが、一度でもあっただろうか。

 遠くに広がると思われた水平線は、何故か眩しくて見えない。振り返ると、思ったより近くの砂浜に君がいた。

 ぐ、と込み上げるものを飲み込む。

「……じつは、私もそう思っているのだよ」

 応える。君が表情を変えずに驚いた。嗚呼、懐かしいな。

 ひら、と白い衣装を翻す。君の見慣れた黒でも、君を想った砂色でもない、白い装束は君の瞳にどう映っているのだろう。

「態々こんな格好で、遥々こんなところまで来て仕舞って。あと一歩でそちらがわなんだけれども。

  ……どうやら、今回も未遂に成功してしまいそうだ」

 今頃元相棒が頑張っているだろう。恐らく、もう間もなくで引き戻される。

 そうか、と君は安堵したようだった。こぼれそうになるものを押し留める。

「但し、一旦、と注釈が付いてね。彼らが……あのこが生きることに絶望して仕舞ったり、諦めたり、潰れて仕舞ったり──そうなったら、今度こそシュッパイして仕舞う、」

 もしそうでも、赦して呉れるかな。

 君に尋ねるようなことじゃない。そうは思ったが、問わずにはいられなかった。

 駄目だな、君の前ではあの頃の──何方を向いて善いのかすらわからずに探していた頃の私に戻って仕舞うようで。

 ふ、と吐息だけで笑う声。ぐわん、と胸の奥で何かが揺れる。

「お前が精一杯やって、それで駄目なら他の誰がやっても上手く行かない事なのだろう。なにしろ、自殺未遂すら100%成功させて仕舞う腕前だからな」

「あは。それを言われると弱い」

 何も未遂を目指している訳じゃ、とか。少しでも君に会いたくて、とか。

 言える言葉は幾らでもあったろう。けれどどうやら時間切れのようで。

 揺れはどんどん酷くなる。その度に君が遠ざかる。

「、もう暫く──」

 声を張るのに届かなくて。君の声が、表情が、姿がわからなくなっていく。視界が白く潰されて。


 次に私を襲ったのは、満身創痍の右ストレートだった。

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