変身魔術のカタルシスト

ぴいじい

復活篇

序章 深淵

 3年前


 手が離れた。


 否、手を離してしまった。


「テレ……!」


 喉につっかかりそうな声で私を呼びかけた彼女は、目一杯の涙を私の目の前に置いていくように、直下の漆黒の中へと飲み込まれていってしまった。


 わからなかった。あの時の私にはわかりもしなかった。あると思っていたものが、急に自分の手から消え去ってしまうこの感覚を。


 何かとても熱いものが心の奥底で爆発したのを感じた私は、気づけば溢れ出す涙とともに、何も見えない闇に向かってただひたすら慟哭していた。



 飛び込みたかった。


 あの無の中で永遠に閉じこもりたいと思った。


 でも背後から伸びる腕が暴れる私を強く引き止める。


 私は自分の報われなさを嘆いた。



 今考えると、あの時飛び込んでいればよかったと思う。自分のためにも、みんなのためにも、この国のためにも。


 何もできなかった。彼女の遺した遺産を守りきれなかった。何もかも自分のせいだ。自分がこんな無能だったから、こんなことになったんだ。


 そして旗を翻した奴らは、すでにこの街のすぐ近くまで駒を進めてきている。


 なのに、私は……!



 怖い。


 逃げたい。


 いっそのこと消え去りたい。


 粉一粒残らず。



 あの人がいたから、頑張れた。彼女でなければ、私は今ここにはいられなかった。


 だからお願い


 助けて……!


 ナーシャ!

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