最終章20話『ジークリット・ウェンディス-終』


 前書き

 今回の話はウェンディスの回想であり、ウェンディス視点です。


★ ★ ★


 それからどれほどの時間が経ったでしょうか? おそらく数日後の事でした。



「なんじゃこりゃああああああああああああああああ!!!」



「きゃっどうしたんですか? 兄さま」



 機械のように同じ毎日を過ごす毎日だった私の日常に変化が生じました。

 いつもと違う行動を取る兄さま。しかし、感じた違和感は一瞬。私は本能のままに兄さまへといつものように甘えます。



「そんなの私の事を見つめて……ハッ! やはり興奮してらっしゃるのですね兄さま! 分かりました! このウェンディス! 一肌脱ぎましょう!!」


 私はいつものように兄さまのぬくもりを感じるために邪魔な衣服を脱ぎ去ります。


「ええええええええええ!!?? なんでぇぇぇぇぇぇぇ!!??」



 違和感が膨れ上がります。


「では……いただきます!!」


 それでも私は自分を止められません。私が兄さまのぬくもりを感じる事以外に必要な事があるでしょうか? 否! それ以外はどうでもいいことのはずです! まずは兄さまのぬくもりを感じてから考える事にしましょう!!


「おっと」


「きゃん!」


 避けられてしまいました。まぁ、そうですよね。そうなりますよね。

 

「さすが兄さま……。まだまだこの私を焦らす気ですね……。うぇへへ、兄さまったら変態なんですからぁ~」


「君に言われたくない!!!」


「??」


 そこで私の目が覚めました。何度か感じた感覚です。私が兄さまをなぜ愛しているのか? その疑問を感じた時にいつも感じていた『目が覚めた』ともいうべき感覚。今感じているものはそれと酷似しています。


(あれ?)


 目が覚めた私はこの世界がおかしい事。なぜ私が兄さまを愛しているのかという疑問を思い出します。


 更に、いつもと違う行動を取っていた先ほどの兄さまの事を思い出します。決定的だったのは兄さまの先ほどの一言です。


(君に言われたくない……きみ?)



 私と兄さまは兄弟です。

 私は兄さまに対して他人行儀な形で接したことはありませんし、兄さまにきみなどと呼ばれたこともありません。


 私は兄さまの顔をうかがいます。その姿を見てなるほど。やはりいつもの兄さまとは違うという事を再確認します。



『これは兄さまだ』

『でもこれは兄さまじゃない。この世界の法則から外れた何かだ』



「なるほど……そういう事ですか……」



 未だ私は目の前の兄さまを愛していました。ここまでくれば言い訳は出来ません。


 この愛情は……偽物です。目の前の方が兄さまではないと分かっているのに未だに愛しているなんて偽り以外の何物でもないじゃないですか。



(でも……偽りのままで終わらせたくありません)



 この想いを偽りのままで終わらせたくありません。この想いは誰かに無理やり植え付けられたものなのでしょう。では、その誰かを廃すれば? 私はもう誰かに操られるような恐怖を覚えずに済むのではないのでしょうか? そして私の心を弄ぶその誰かを廃してなお、私が兄さまを愛せているのならば……この想いは本物だと信じても良いのではないのでしょうか?



 既に偽りだと断じたこの恋心を信じるも何もないと冷静な部分の私が囁きかけてきますが、それ以上に意固地で子供っぽい私がその意見をはねのけます。イヤです、認めません。いえ、認めたくありません――そう叫ぶのです。



 それに、私には希望があります。私だけであれば私の心を弄ぶ誰かを廃する事も、見つけ出すことも出来ないでしょう。ですが、この兄さまなら……。


(いつもと違う行動を取る兄さま……この方なら……この世界の法則から外れたこの方なら……私たちを救ってくれるかもしれません)



 こうして、私は兄さまと同じ顔の彼に全てを賭けることにしたのです。


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