第4章7話『VS四天魔将』


「「「「「…………」」」」」

 


 突然の出来事にあっけにとられてしまう。ウェンディスやエルジットも予想外と言うかそもそも『誰だよこいつら』という展開に棒立ち状態だ。

 空から飛んできた異形の化け物たちは僕たちの傍へ着地すると声をそろえて『魔王様の元へは行かせない』なんて言ってきたのだが……えっと、どちら様?



「カヤさん。知り合いですか?」


「いや、知らぬ。そもそも童、命令できるような部下を持った覚えなど無いし」


 ウェンディスとカヤの会話を聞くが、あの化け物たちはカヤの知り合いとかではないらしい。でもさっきあの人たち魔王様とか言ってたよ?

 まぁとにかくだ。


「えーと。どちら様ですか?」


 まずは対話からだ。相手がどんな異形の化け物だとしても、会話ができる以上対話は友好的な手段だ。だというのに、



「貴様らのような雑魚に教える義理はない」



 ……チクショウ。いきなりコミュニケーション放棄しやがったぞこいつ。っていうかこいつ今魔王様とか言ってたその口で魔王様の事を雑魚だって言ったよ? 大丈夫?



「まぁ待てブレイズ。今宵がこやつらの最期なのだ。少しは優しくしてやろうではないか。奴らが我らを避けて魔王様のお膝元へと潜入した卑怯者だとしてもな」



 ……今宵って……まだお昼くらいなんですけど……。



「……どうでもいい……。早く終わらせて帰る」



 どうぞお帰りください。そもそも呼んでません。っていうか一人だけテンション低いっすね。思えばこの人だけは登場時に何も言ってなかった気がする。



「アクアルスよ。貴様はもう少しやる気を出せ。敵は卑怯者なれど、我が腹心を倒した者たちだ。慢心は死へと繋がるぞ。

 卑怯者の勇者よ。貴様のようなふさわしくない者を魔王様に会わせるわけにはいかぬ。魔王様に会いたくば、魔王様の忠実な部下たる我ら四天魔将してんましょうを倒してからにしてもらおう」



四天魔将してんましょう?」


 四天魔将してんましょうってなに? 初めて聞いたけど四天王的な何かかな?


「我は火の魔将。ブレイズ」


 その魔物は炎だった。人型の姿ではなく、ゆらゆらとゆらめくだけの炎。炎って喋れるのか。初めて知った。


「我は木の魔将。ウォークマン」


 その魔物は木だった。うん、これは知ってる。トレントっていうやつだ。人型ではないけれど木に目と口と鼻を書いただけの姿。すなわち、製作人の怠慢が生んだ恐ろしいモンスターである。

 しかしこの魔将さん、ウォークマンって名前なのか……。何故だろう。唐突に音楽が聞きたくなってきたぞ? そういえばこっちに来てから音楽なんて何も聞いてないなぁ。


「私は水の魔将。アクアルス」


 その魔物は人型だった。

 慎ましやかな胸。スラリと伸びた手足。クールで整った顔。エルジット達に負けないくらいの美人だった。なぜか着ている物がどこかの制服っぽいのは気のせいだろうか? スカート履いてるし。

 残念なのは、彼女の体が水で構成されている事だ。全身が水色だ。どう見ても絵の具で塗ったような感じではないし、時折彼女の体の中で気泡が生まれるのが見えるのでまともな人間ではない事は確定だろう。


「そして我が闇の魔将。ゼルハザードだ」


 その魔物は漆黒の鎧をまとい、漆黒の大剣をその手に持つ人型の魔物……ってんん!?


「なんでそこで闇ぃ!?」


 火・木・水ってくれば次は金とか土じゃないの!? なんでそこで闇!? 五行か四神がベースじゃないの!?


 そんなツッコミどころ満載の四天魔将してんましょうさんの自己紹介。しかし、彼らの勢いはとどまらない



「さて、ではまずは我が相手をしようか。炎熱地獄と言うものを見せてやろう」


 火の魔将を名乗るブレイズさんが一歩前に出る。


「……暑苦しい。私、もう帰ってもいい?」


 続いて水の魔将のアクアルスさんが一歩後ろに下がる。いや、っていうかなんで来たの? 重ねて言うけど呼んでないよ?


「だから貴様はもう少しやる気を出せと言っているであろうが。仕方あるまい。ここは木の魔将である我が」

「いやいや、闇の魔将である我が」



 ……おい大丈夫か四天魔将してんましょう。いきなりチームワークの無さが露呈ろていしてるぞ……。

 まぁそれはいい。それよりも気になっていること。もとい僕がイライラしていることがある。

 それは――

















「お前たち三人キャラ被っとるんじゃーーーーーーーーい!!」



「ほげぇ」

「ぐぬぅ!」

「だぶる!?」




 僕は四天魔将してんましょうの火と木と闇の魔将へとドロップキックをかます。どういう原理かは分からないが炎の体を持つ火の魔将の……名前なんだっけ? まぁいいや。火の人に対しても手ごたえはあり、ダメージは与えられたようだ。



「さっきからそこの三人! われ我我我我我我我我我我我ってうるさいよ!! 三人に一気に喋られても混乱するだけって分からないかなぁ!?」


 そう、僕がイラついていた理由。それはこいつら三人のキャラが被っていることだ。喋り方も声色も少し似ているから注視しないともう誰が喋ったのか分からないんだよ! 特にさっきの口論になった時なんかわれのオンパレードでこいつらただ”われ”と言いたいだけの中学生男子にしか見えなかったよ!



「「馬鹿……な……我が敗れるなど……ありえ……ぬ」」



 全く同じセリフを言いながら、火と木の魔将の姿が消えていく。え!? もう終わり!? まだ戦いは始まってすらないよ!? ツッコミ入れたら勝手に死んでるんだけど弱すぎない!?


 どうやら開幕のドロップキックだけで火と木の魔将のHPを削りきってしまったらしい。そんなつもりは無かったのだが……。ステータスを除く隙すら無かったよ……。



「さすがです兄さま! 不意をついた一撃。このウェンディス。ジュンっときました!」


 ジュンってきたってどういう意味なのだろう。まぁ聞くのはやめておこう。


「さっすがユーシャだね! 私たちが呆然としてる間もツッコミを忘れないその精神、尊敬するよ!!」


 ねぇエルジット。それ褒めてるの? 全然嬉しくないよ?

 そうして味方から称賛? されているときだった。



「ぐ……が……あぁ」



 血の底から響くような声が前方からする。

 見れば、そこには漆黒の鎧に身を包んだ闇の四天魔将してんましょうさんが膝をついていた。倒れそうな体を剣で支え、顔は兜で覆われているから見えないが、なんだか今にも倒れそうなくらい疲労しているのが分かる。



「おぉ、一人だけ無事だったんだ。まぁさすがにあれだけで四天王的な三人がリタイアなんてないよね。敵……なのかどうか分からないけど安心したよ」


 さすがにラスボス手前の敵っぽい雰囲気を漂わせていた人たちがただのツッコミでリタイアというのは見ているこっちも虚しくなる。特にツッコんだ僕がなんだか悪いことをしたなぁという気持ちにさせられるじゃないか。

 というわけで、



 さて、さっきの二人は僕がステータスを見る間もなく退場しちゃったからね。闇の魔将さんのステータス。見せてもらおうじゃないか。

 そう思って僕が闇の魔将さんに集中し始めた時だった。


「ぐ……おのれぇ。不意打ちとは卑怯な。正々堂々と戦えんのかこの腰抜けがぁっ!」


「失礼な事を言わないでください! 兄さまは腰抜けではありません! むしろ兄さまほどたくましい腰使いをする人はいませんっ(ガスッ)」

「ぐぼぁぁぁ」


 ……ウェンディスがついでのように闇の魔将(笑)さんを蹴り飛ばし、それがとどめとなったのか、闇の魔将さんの体が消え始める。え? ウェンディスさん。あなた、魔法使いですよね? そんなついでのようにそこそこ強そうな敵を倒されても困るんですけど……あ、それを言うなら僕もか。


 そうして何も為すことなく散っていった四天魔将してんましょう(笑)の三体。残るは水の魔将のなんたらのみ……なのだが――


「……私、そろそろ帰ってもいい?」

「やる気ないっすね」


 こうして四天魔将してんましょうとの戦いは終結した。

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