第4章6話『限界なんて超えて見せるっ……嘘ですごめんなさい』



「まったく……朝からどれだけ元気なのだ主様は! 死ぬかと思ったぞ!?」


「し、仕方ないでしょ!? こちとら覚えたての男子高校生なんだから。まだまだ足りないくらいだよ」


 そんな事を言い合いながら僕とカヤは脱ぎ捨てていた服を集める。と言っても僕が服を装備するにはカヤの力が必要なのだが。


「だからってものには限度と言うものがあるであろう!?」


「限界なんて超えて見せる!」





「それでこそ兄さまです!!」



「…………………………」

「…………………………」



 訪れる沈黙。その中でウェンディスだけが目を輝かせてこちらを見ている。

 その中でカヤは「コホン」とわざとらしい咳をして、



「さて、童は用事があるのでこれで――」


「待て待て待って待ってくださいお待ちくださいお願いします」


 カヤは自分の分の服だけ着てこの場を立ち去ろうとするがそうはいかない。



「どうしたのだ主様? まだまだ足りぬのだろう? 限界など無いのであろう? 丁度良かったではないか」


「いや、ホントすいません。あれは言葉の綾と言うかなんというか……とにかく違うんです」


「ふーん。何が違うのユーシャ?」



「いや、だからこれ以上はさすがに厳しいかなぁ……って――」



 そうして僕が振り返った先にはエルジットが居た。


「……神よ」


 あんた、僕の事嫌いだろ。詰んだよ。



「はっはっは。まぁ無理もありますまい。家の裏手であれだけ激しく愛し合っていたのです。むしろ見ていたのがお二人だけで良かったと思うべきでは?」


 そんなエルジットの後ろからスッとセバスさんが出てきた。まぁ、確かに今回は不用心すぎた。いくら盛り上がってしまったとは言ってももっと場所は選ぶべきだった。ん?



「見ていた?」


「ええ。わたくしはカヤ様に悪いかと思い見ておりませんでしたがウェンディス様とお嬢様はそれはもう熱心に見ておりましたよ?」


「き」


「き?」



「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」



 カヤと僕の悲鳴が響き渡る。え!? 嘘!? 見られてたの!? 嘘でしょ!? 嘘って言ってよぉ!!


「ち、ちなみにどこから?」



「「”好きじゃ”のあたりからです(だよ)」」



 ほとんど全部じゃないか!?



「ユーシャ! やっぱりこんな世界さっさと脱出しようよ! セバスに任せれば全部パパーっと解決できるからすぐに出ようよーーー!」


「んな無茶な!?」


 いくらセバスさんが人外の化け物だったとしても無理があると思うんだ!


「無茶じゃないよ! ね? セバス?」


「…………お、お任せください、お嬢様」


 セバスさんは引きつった笑みを浮かべながら、なんとかエルジットへと答えていた。


「ほらね?」


「いやいやいやいや。セバスさん凄く無理してるじゃないか!? 顔とか凄く引きつってるの分からない!? さすがに無茶ぶりは良くないと思うんだ! っていうかエルジットはなんでもかんでも執事に任せるんじゃなく少しは自分で努力しろぉぉぉ!」



 そういう所だけお嬢様っぽいのは違うと思うんだ!


 と、そんな時だった。



「兄さま兄さま」


「どうしたのウェンディス? いつもみたいな戯言ざれごとだったら聞かないよ?」


 ウェンディスが何かを言うときは九割以上が戯言だからなぁ。え? それは酷いんじゃないかって? そう思うんなら過去のウェンディスの発言を振り返ってみればいいよ!


「いえ、そうではなく……何かが飛んできます」


「は?」



 ウェンディスがすっと空へと指を向ける。その方向を見ると、



「なぁにあれぇ?」



 なんか異形の化け物が四匹、空を飛んでるんだけど……。というかだんだんこっちに近づいてきているような……。

 そう言っている内に飛んでくる化け物たちとの距離はどんどん縮まり、


「「「勇者め、魔王様の元へは行かせんぞ!!」」」


 異形の化け物たちは僕たちの目の前へと着地して、そんな事を言い放った。

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