第3章24話『復活してしまった彼女』


 前書き

 魔王カヤの回想は終わったので、今回から豊友ほうゆう洒水しゃすい視点に戻ります。


★ ★ ★


「と、いうわけだ。童はただ平穏に日々を生きたいだけなのにこの世界はそれを否定するのだ。童はもう死にたくないのだ! いくら生き返るからと言っても何度も死ぬなど童には耐えられぬ……親しく接してくれる者も現れない無限の地獄を歩いてきてようやく主様と出会ったのだ! 頼む主様! 童に力を貸してくれ!」



「うん、いいよ」



「軽っ!?」



 あれ? 何か間違えたかな? いいよと言ったのに驚かれちゃったよ?


「あー、えーーっと……主様? 本当に童の力になってくれるのか?」


「当たり前じゃないかそんなの。今の話を聞いてたらカヤは何も悪くないし。ただ、僕は何をすればいいの? カヤを襲う勇者を倒したりすればいいのかな? 正直それはあんまりやりたくないんだけど……」



 この世界がどうやって勇者を選んでいるのかは知らないけど、今回の勇者は僕の幼馴染であるエルジットだ。そうでなければ『前科持ちの勇者』と新たにステータスに記入された僕なのだが……まぁどっちにしろ敵として相手にしたくない感じだ。




「う、うぅ……(泣)。なぁに言ってんだよ洒水よぉ!!! カヤちゃんがこんなに辛い目に遭ってんだぞぉ!? 勇者なんて俺が蹴散らしてやるよぉ!! ぐすっ」



「え!? レンディア!? そんなまさか!?」



 あ、あり得ない……。




「か、カヤちゃん? ま、まぁよい。レンディアとやら。童に力を貸してくれるのか?」



「もちろんだぜ! カヤちゃんを襲う勇者の野郎なんざ俺がぶっ潰してやるよ!!」



「あぁ。いや、別にそんなことは頼まぬのだが……」



 何やら話が進んでいるがちょっと待ってほしい。



「カヤ! これは一大事だよ! そんな昔話よりも凄く大変な事が起こったよ!?」



「そんな昔話!? 主様、童が長年悩んでいた事態をそんな昔話で済まされると傷つくぞ!?」


 確かに少し無神経だったかもしれない。しかし、今はそれどころじゃないんだ!



「カヤの話は結構複雑だったと思うんだ!」



「そう……か? まぁ理不尽なことがたくさんあるが別に複雑というほどでは……」



「いいや複雑だった! 四話も費やしてるんだもの! 複雑に決まってるじゃないか!」



「本当に何の話なのだ!? 主様! 何のことかはわからぬがそれ以上言わないほうが良いような気がするぞ!?」



「そんなことはどうでもいいんだよ! 問題は……そんな複雑な話をレンディアが理解してるって言うことだよ!!」



「そこなのか!? 主様が危惧するのはそこなのか!? それこそどうでもよい問題ではないか!?」



 何を言っているんだカヤ。あんなに長い話をレンディアが理解出来るなんて天変地異が起きるよりもあり得ない事じゃないか。



「おい洒水ぃ! てめぇ! 俺を馬鹿にしてんのかぁ!?」


「馬鹿になんてしてないよ。ところでレンディア。今のカヤの話が僕には理解できなかったから僕に教えてくれないかな?」



「あぁ? 理解できなかったのか洒水? お前バッカだなぁ」



 馬鹿に馬鹿にされるほどムカツクことは無いっていうのをどこかで聞いたことがあるけどそうでもないなぁ。なんか温かい目で見つめてしまうよ。しかも相手は棺桶状態だし余計に温かい目で見てしまうよ。




「なんか馬鹿にされてるような気がするんだが気のせいか?」


「気のせいだよ。それでレンディア。カヤの話はどういうものだった?」


 こういう馬鹿にされた時の勘だけは鋭いよなぁレンディアは。まぁすごく簡単に騙されるからあんまり意味はないんだけど。



「そうなのか? ならいいか……。さて、カヤちゃんの話だったな。要はあれだよ! 勇者の野郎がカヤちゃんを虐めててカヤちゃんが悲しんでるってことだよ! これぐらいなら俺にだって理解できるぜ?」



「それでこそレンディアだよ」



 やはりカヤの話はレンディアには難しすぎたらしい。



「童が長年悩んでいた事態がこんなに軽く扱われるなんて……こうして親しい者が出来たのは嬉しいのだがなにか釈然とせぬ……」



 ぶつぶつとカヤが何か言っているがとりあえずスルーしておこう。



「それでカヤ? 話は戻るけど僕に何をしてほしいの? さっきも言ったけど勇者を倒すとかは嫌だよ?」



「童の抱えてるものなんてどうせ……ん? 何か言ったか主様?」



 どうやら考え事に夢中でこちらの話を聞いていなかったらしい。



「カヤのスリーサイズは?」



「童の? 測ったことがないから分からぬ……って何を聞いているのだ主様!?」



「ちっ――」



「舌打ち!? どれだけ童のスリーサイズが聞きたかったのだ!? というか真剣な話を先ほどまでしていたはずなのに……主様よ! これ以上ふざけるのなら童にも考えがあるぞ!」



「これ以上ふざけたら何だって言うんだい?」



 僕を脅そうとするなんて百年早い! そもそも自分の世界に籠ってたカヤが悪いんじゃないか!



「これ以上ふざけるのなら……主様の妹のウェンディスの拘束を解くがよいのか?」



「さぁ、皆! 真面目にこれからのカヤの話をしよう!!」



「……脅した童が言うのもなんだが切り替えが早すぎぬか? 主様よ」



 うるさい。あんな恐ろしい脅され方をされたら言うことを聞くしかないじゃないか。卑怯だぞ!



「それでカヤ。僕は何をすればいいのかな? 力を貸してほしいって言われても何をすればいいのか分からないんだけど」



 先ほどのカヤの話を聞いていて僕にできそうなことは何だろうか? カヤを襲ってくる勇者を撃退するぐらいしか思いつかないんだけど。



「なにやら釈然とせぬが……まぁよいか。さて、主様にして欲しいことだったな。だが、正直童は主様にして欲しいことは無いのだ。童を傍に置いてくれるだけでよい」



「? と言うと?」


「先ほども話した通り、童は何度もこの世界を体験しておるのだが主様の存在は異常すぎる。村人で童を恐れぬものなど今まで居なかったのだ。それなのに主様は童を恐れなかった。そればかりか主様と接している者たちも時間が経つごとに童を恐れなくなっていった。きっと何かが主様にはあるのだ。ゆえに童は主様の近くに居ることにする。主様の近くに居ればこれからも今までとは違う何かが起こりそうであるからな。そこに童が死なずに済む方法があるかもしれぬ」



 僕が……特別な存在!

 それだけ聞くと勇者っぽく聞こえるなぁ。そういう響き嫌いじゃないよ!



「それじゃあこれからどうするかは僕次第ってことでいいのかな?」



「うむ。これからも頼むぞ主様!」



 魔王カヤが仲間になったらしい。



「俺も手を貸すぜ洒水!」



「レンディア……ありがとう!」



 レンディアが仲間になったらしい。



「さて……そうと決まれば」



「兄さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



「ギャアアアアアアアアアアアア!!」



 なに!? 何事!? いきなり目の前が真っ暗になったよ!?



「いたぁっ!」



 真っ暗な視界の中、僕は頭から地面に激突する。痛いっていうか本当に何事!?




「兄さま! 兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さま兄さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



「ウェ、ウェンディス!? ば、バカな!? あの状態からどうやって抜け出したっていうの!?」



 視界は封じられたままだがこの声は間違いなくウェンディスだ。いつの間にやら手の自由はきかなくなっており、どうやら後ろ手に縛られているようだ。

 だがどうやって!? ウェンディスは手足を縛られ口も封じられた状態だったはずだ! あの状態からどうやって抜け出したって言うんだ!?



「愛の力です!」



 いや、それはおかしい。



「愛なら仕方ねえな」

「愛なら仕方なかろう」




「え!? ちょっとそこのお二方!? それで納得するの!? ここは納得するところじゃないと思うんだ!」



 愛でどうにかなるって言うなら戦争なんて起きてないと思うんだ。


「っていってもよぉ洒水。ウェンディスちゃんは聡明だし間違った事なんて言わねえだろ?」


「いや、言うよ!? むしろウェンディスは間違った事ばかり言ってると思うよ!」



 それこそ存在自体が間違っているんじゃないか? っていう勢いで間違っていることばかり言っている気がする。



「主様よ。正直主様の言うことは理解できるのだがなんというかその……その娘とはあまり関わりたくないのだ」



 おのれぇ! 裏切ったな魔王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 自分だけ安全なところに避難するなんて卑怯だぞ! 恥を知れぇ!



「さぁ兄さま! 真面目なトーキングタイムの後は兄弟のお馬さんごっこの時間です! 私がお馬さんの役をやるので兄さまは棒の役をお願いします!」



「もうそれ比喩になってないからね!? 誰がこんな外でやるかぁ! 大体僕は変な呪いで服を脱げないのはウェンディスも知ってるよねぇ!?」



「抜かりはありません兄さま! 私は兄さまのその呪いをなんとかする方法を考え、ついに見つけたのです!」



 ほ、ほぉう。嫌な予感しかしないが続きを聞こうじゃないか。




「簡単な話です! 兄様が服を脱げないというのならば……私がその邪魔な布切れを焼き尽くせばいいだけです! うぇへへへへへへへへへ」



「却下ぁ! 何をするつもりなんだよウェンディスはぁ!? 大体それだと僕は全裸で村に帰らないといけないじゃないか! いやだよ!? 僕の評判が更に落ちるじゃないか!?」


 もう既に落ちようがない程に落ちているかもしれないが、そういう問題じゃない気がする。



「問題ありません!」



「何が!?」



 むしろ問題しかないような気がするんだけど……。



「兄さまのエクスカリバーは私というさやに納めることができるじゃないですか! それで万事解決ですよね! さすがの私でも兄さまのたくましい剣を抜身のまま村に戻らせるなんてできません!」



「もう本当にヤダこの妹!!」



 それを実行に移したら世にも珍しいシスコン露出狂の変態兄貴の誕生じゃないか。いくらなんでも承諾できない。



「それではいきますよ兄さま!」



 そんなウェンディスの掛け声とともに、僕の体が燃えるように熱いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!



「あっつぅ! え!? うそでしょ!? 本当に僕の服を焼き尽くそうとしてるの!? 冗談だと言ってよウェンディス!? 冗談なんだよね!? ふざけてるだけだよね?」



 いくらウェンディスでもさっきの変態的行動を実際にするわけがないよね?



「え? 兄さま。私は冗談なんて今まで殆ど言ったことがありませんよ?」


 あ、ヤバい。これ本気だ。



「イヤ本当に待って!? タンマタンマタンマタンマぁぁ!!」



「うふふふ~。さぁ兄さま! 生まれたままの姿を私に見せてください! 恥ずかしがることなんてありません!」



 そうして僕とウェンディスが戦い? を繰り広げている中、



「なぁカヤちゃん」


「どうしたのだレンディア?」


「俺ら邪魔みたいだしちょっと離れねえか? あ、俺は棺桶状態で動けないから動かしてくれるとありがてぇんだがいいか?」


「奇遇だな。童も少しこの場から離れようと思っていたところだ。いくら主様の近くに居たいと言ってもこれは違うからな。ある意味ではこの状況も童が体験したことがない未知なのだが……これ童が居ないほうが良いだろうしな」


「それじゃあ一足先に村に入ってようぜ? こんな状態だと満足に案内できねぇから心苦しいけどな」


「なぁに気にするでない。レンディアが童に力を貸してくれるというだけで童は嬉しいのだ」


「カヤちゃん……。俺、カヤちゃんの為に全力を尽くすぜ!


「あ、えと、う、うむ。あ、ありがとう」



 レンディアとカヤがなにやらこの場を離れそうな雰囲気!?



「ちょっと君たち!? 僕の危機だって言うのに何を逃げようとしてるんだい!? レンディア! 僕と君は親友だよね!? カヤ! 僕は君を救うのに重要な人物なんだよね!? 僕を助けてくれぇ!」



 僕の必死の懇願は、



「洒水……大人になれよ?」

「主様……童は二番目でよいからゆっくりとするがよいぞ?」




 その言葉とともに二人の気配は遠ざかっていった。



「………………」

「………………」



 取り残されるウェンディスとウェンディスに燃やされ続けている僕。

 一瞬の静寂の後、



「さぁ、兄さま! 今こそ一つになる時です!」


「誰がなるかぁ! っていうか熱いよ! このままだと僕は焼け死んじゃうけどウェンディスはそれでいいの!?」


「問題ありません! 兄さまのモノはもっと猛々しくて熱いですから! ……妹にこんな恥ずかしいことを言わせるなんて……兄さまは本当に変態ですね(ポッ)」


「変態に変態って言われた!? 僕の知る限り変態ランキング不動の一位に輝いているウェンディスに変態と言われる筋合いはないよ!?」


「いえいえ、私なんてまだまだです。ですが兄さまの中で一番になれるものがあるだなんて私は果報者ですね! 燃えてきました!」


「駄目だこの妹! 何を言ってもエロ方面にしか話が行かない!? だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 この日の僕の教訓。

 ウェンディスが邪魔だからって放置し続けると後でとんでもない事になるという事を思い知りました まる

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