第3章23話『魔王カヤ-5』


 前書き

 今回の話は魔王カヤの回想であり、カヤ視点です。

 その為、出てくるのは基本的にカヤのみであり、洒水やウェンディスは登場しません。



★ ★ ★



 そうして勇者パーティーは再び滅んだ。



 しかし、それでもカヤの怒りは収まらず、



「大体なんなのだあの男はぁ! ”殺るぜ”以外の言葉は喋れぬのかあれはぁ!? あんな危険人物が勇者であるという事がそもそも間違っておろうがぁ!」



 そんなカヤの声に反応するものは誰もいな――




「魔王! 僕の仲間をそれ以上侮辱すると許さないぞ!」

「野郎はちょっと戦闘中にテンションが上がるだけなんだよ!」

「そうです! ヤルゼイさんは日常生活においてもちょっと過剰に自分を表現しちゃうだけのいい人なんです!」

「今までに何人かあやめちゃってますけど本人は反省してるんです! みんな生き返ってますし本人は反省してますしヤルゼイさんは悪い人じゃないんです! 良い人です! 外見や行動で人を判断するなんてひどいです!」

「殺るぜぇ!」



 ……居た。それもすぐ近くに。

 カヤの声に反応する声は丁度五人分。先ほどカヤが滅ぼしたはずの勇者パーティーの者たちの声だ。勇者パーティーは滅んだ。ならばなぜこうして何事も無かったかのように話せるのか?


 答えは簡単だ。勇者パーティーは死んで棺桶状態となり、その状態で声を発していたのだ。

 死人に口なしなど勇者たちにとっては関係ないらしい。




「いい加減沈めぇ!! 頼むから冥府へと旅立つがいいわぁ!!」




 しかしこの状況をカヤは予想していた。

 そもそも彼女はこれまで常に理不尽な目にあってきていたのだ。特に重要な場面であればあるほど常識外の出来事が起こり必ずカヤを不幸にした。この状況で自分にとって何か良くないことが起きるであろうことは十二分に予想できたことだった。そもそもカヤは前回、勇者が死んだ後に出てきた棺桶を見ているのだ。


 カヤは勇者たちの収まっているであろう棺桶へと詰め寄り、自慢の爪の一撃を加える。それは先ほど勇者パーティーを壊滅に追い込んだ一撃である。



「きえええええええええええええい!(キィン)」



 しかし、そんなカヤの攻撃は棺桶に傷一つ付けることができなかった。



「な、なんなのだこれは!? なぜ斬れぬ!? えぇい! カオスの海より来たれ、混沌よ。二度と生き返らぬよう勇者の命を冥府へと誘え! 悪魔の魔手(デビルズハンド)」



 そうしてカヤの最大級の魔法が発動。空から巨大な手が現れ、勇者パーティーの棺桶を握り潰そうと迫る。




「二度と生き返らぬように童自らが冥府へと案内してくれるわぁ! いや、本当に冥府へ行ってくださいお願いします!」



 そうしてその願いは――




「死んだ僕たちを攻撃するとは何事だ!? 恥を知れぇ!」

「死人に鞭打つとは魔王め! ここまで腐っていたのかよ!」

「酷いです! あんまりです!」

「私たちが何をしたっていうんですか!? 私たちはただ正義の名のもとに行動しているだけだというのに」

「殺るぜぇ!」




 叶わなかったらしい。




「……まぁ、そうであろうな。ハハ」



 半ば予想していた結果にカヤは脱力するしかなかった。予想に根拠などない。今までもこのような理不尽な状況が続いていたのだから、どうせまた自分が不利になるような理不尽な何かが起きるのであろうという予感がしていたのだ。全く喜ばしくは無いが、その予感は大正解だったようだ。



 そうして勇者パーティー五人分の棺桶はひとりでに宙へと舞い、ニヴルヘイムの結界を抜けて外へと飛んで行った。



「まだだ! まだ終わらぬぞ! この程度で挫ける童ではないわぁ! 童は生き残って見せる! 平穏な日々を手に入れるのだぁぁぁぁぁぁ!」



 それからカヤは色々と試した。

 話の通じない村人と無理やりにでも交渉をしようとしたり、ニヴルヘイムの結界を破るために、地中は範囲に入っていないかもしれないという希望を胸に穴を掘って結界が途切れている部分を探したり、勇者と自分との圧倒的な差を見せつけることで勇者に自分を倒すことを諦めてもらうように仕向けたりと様々な手を尽くした。



 しかし、




「あぁ、またこの展開か」




 様々な手段を取ったにもかかわらず、カヤはまたもや勇者に殺されることになった。

 村人と無理やりにでも話ができるような状況に仕向けても、やはり村人たちは自分を異常に怖がるばかり。話などできるわけもない。


 地中を掘って掘って掘りまくったが、結界の途切れている部分は見つからなかった。更に言えばその地中にも結界が張ってあるのか不明だが、一定以上の深さになるとどうしてもそれ以上掘れなかったのだ。


 そしてこれが一番の難点なのだが、勇者パーティーはカヤと戦うごとに強くなっていた。カヤとの戦いに慣れたというだけでは説明がつかないほどに攻撃の強さや防御の硬さが上がっていたのだ。無論、鍛えたといわれても納得のしがたいレベルでの成長である。


 カヤからしてみればたまったものではない。勇者は無限コンティニューができる状態でレベルを上げながらカヤに何度も挑んでくるのだ。そんなものいつか負けるに決まっている。確かにカヤも死ねば蘇るが、蘇った先にも希望などないのだ。蘇ったとしても勇者に狙われる新たな日々が始まるだけ。死ぬときの苦しみを再び味わうために生き続けることなどカヤには耐えられなかった。



 そうしてこの世界でもカヤという魔王は滅び、




「はぁ……」




 やはり何事もなかったかのように蘇った。

 やはり戻った先は魔王城の玉座のある部屋だ。

 カヤは無事蘇ったことを祝うわけでもなく、呪うわけでもなく、




「もう……諦めよう」




 ただ、諦めることを覚えた。

 そこからのカヤは努力することをやめた。安らげる時間は魔王城で眠っていられる時間だけ。しかし、勇者がいつかやってきてカヤを殺すのは確定事項だ。制限時間付きの安らぎの時間だった。


 カヤは自分という存在をシステムだと思うようにした。

 そう思わなければ無限の苦しみの円環の中で生きていける気がしなかったからかもしれない。魔王城に入ってきた者をただ殲滅するシステム。自分をそういう感情のない物へと変えたのだ。



 そうして何度も殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され、殺し、殺され…………何度も何度も数えきれないほどの世界をめぐってカヤは出会ったのだ。







「突然の邂逅に怯え、言葉も出ぬか? 無理もあるまい。しかし、安心するがいい。童は今回、戦いに来たわけでは……」



「ロリババアキターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」





 今までの世界で出会ったことがない。カヤを怖がらない異質な村人へと。


 だから、カヤは賭けたのだ。異質な村人――豊友ほうゆう洒水しゃすいへと己の運命を賭けたのだ。


 この村人ならばカヤの救いのない永遠のループを終わらせてくれるかもしれない。そう願って――


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