第2章7話『呪われた村人』

「ところでお嬢様」


「なぁにセバス?」


「これからどちらへ向かいましょう?」


「話を聞いてなかったのセバス? もちろん洒水が居るっていうニヴルなんとかだよ!」


「勿論それは存じております」


「? だったら迷うことないんじゃないの?」


「いえ、それがお嬢様。一つ問題が」


「? どうしたの?」


「そのニヴルヘイムにはどうやって行きましょう?」


「走ってじゃダメなの?」


「どの方向へ?」


「南へ」


「南とはどちらでしょう?」


「………………どちらでしょう?」


 出発早々、私とセバスは迷子になっていた。


★ ★ ★


 どの方向かだけ聞こうと私とセバスは近くに村はないかと探し回った。

 ちなみにその時に、


「あの残念胸のお嬢さんに聞けばよろしいのではないですか?」


 というセバスからの進言があったが即座に却下した。

 この有能だけど失礼すぎる執事さえ居なければそれも良かったかもしれないけれど。


 そうして探し回った私たちは小さな村を見つけたのでそこで情報収集することにした。

 情報収集といっても洒水の居るニヴルヘイムがどっちなのか知りたいだけだ。


「あ、第一村人発見! セバス、行くよ!」


「畏まりました、お嬢様」


 そうして私は水車の前でぼうっとしているおじさんへと声をかけた。



「あのー、すみません。ちょっとよろしいですか?」


「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」


「へ? ああ、そうなんですか」


 正直今はそんなことどうでもいいんだけど……。


「ちょっと道をお聞きしたくて――」


「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」


 ……それはもう聞いたよ?


「ニヴルヘイムがどの方向にあるかお聞きしたいんですけど……」


「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」


「なんなのこの人!?」


 さっきから同じことしか喋らないんだけど!? 何かの呪い!?

 

「仕方ありません。少し拷問いたしましょうか」


 セバスが拳をポキポキと鳴らしながらおじさんの方へと向かっていく。え? そこまでするの? 私たちはただ道が聞きたいだけだよね?


「おい」


「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」


 セバスの呼び掛けに対してもやはり同じことしか言わないおじさん。もはやただの変な人だ。


「さっきからふざけるなよ若造がぁっ」


「ぶへっ」


 あ、セバスがおじさんの頬を殴ってる。手加減してるみたいだけど痛そうだなぁ。


「おらっ、さっさとニヴルヘイムに行く方法を吐け。吐かんかぁっ」


「ぶへっ。武器っぶは、武器っふ、屋でっく、装っふ、備しなっひ、いと、意味んあ、ないぜ、ぶへ」


 凄い……あのおじさん、セバスに殴られながらも同じこと言ってる。


「なかなか根性のある若造ですなぁ。ではこれではどうですかな?」


「んっぶ」


「ちょっセバス!? 何をしているの!?」


 何を思ったのか、セバスはおじさんの服を目にもとまらぬ速さで脱がしていた。


「拷問ですよ、お嬢様。少々見苦しい物をお見せするかもしれないのでしばらく目を瞑って頂けると幸いです」


「もうちょっと早く言ってくれると嬉しかったな!」


 服を脱がせた後でそんな事を言われても手遅れだと思うの。


「そして、これを……こうです!」


「武器、へ、へーっくしょん。ひっくは武器屋で装備しないと、ひっく、意味ないぜ」


「きゃっ、冷たい」


 こっちにまで飛沫が飛んできた。

 どこから持ってきたのか、セバスはバケツの中に入っていたらしい冷水をおじさんへとぶっかけていた。

 しかし、それでもおじさんは同じセリフを言う事をやめない。もはや執念だ。


「これでも吐かないとは……この若造、侮れませんねぇ。ならばこれならばどうですか!?」


 いや、セバス? もうこれは吐く吐かない通り越して異常だからね? 気づいてる?

 そんなセバスはやはりどこから持ってきたのか分からない新たなバケツを丸ごとおじさんに投げつけた。


「んひぃぃぃぃぃぃ、ぶぶぶ、武器は武器屋で装備しないとぉほほほほほほほほ、意味ないぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」



 セバスが投げつけたのは氷がたくさん入っているバケツだった。

 それを全裸の冷水で体が冷えているおじさんにぶっかけたのだ……って、


「鬼!?」


 たかだか道を聞くためにここまでする必要はあるのかな?


「ふぅ、ダメですね。お嬢様。この者、真の漢です。決して口を開かないでしょう」


「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」


 相も変わらず素っ裸で同じセリフのみを言うおじさん。


「ア、ウン、ソダネ」


 これは漢とかじゃなくてただの変態だと思う……。


「もう十分だからセバス。このおじさんの服を返してあげて。いや、その前にお風呂とか入ってもらった方がいいのかな?」


「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」


「…………………………」


 どうしよう。このおじさんの事、可哀そうだと思っていたけどやっぱり放置でいい気がしてきた。


「お嬢様、申し訳ありませんがそれは難しいです」


「へ? どうして?」


「この者の服ですが、脱がせた際に持っているのも嫌だったもので欠片も残らないほど引き裂いてしまいました。さすがの私でもちりから物は作れません」


「いつの間に!?」


 脱がせたあの一瞬にそんな事をしてたの!? というか嫌だったんならなんで脱がせたりとかしたの!? 私そんな命令してないよ!?


「そしてお風呂ですが、正直私はむさい男を連れてお風呂に行くという状況は避けたいのです。これがお嬢様のようにビューティフォーな女性ならば喜んでお風呂の中まで付き従うのですが……」


「そ、そう……。ちなみに私がお風呂に行くときは付き従わなくてもいいからね?」


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………か……畏まりました」


 答えるまでものすごく間があったけどどうして!?

 今度お風呂に入るときは周りをよく見てみよう。なんだか怖い。


「とりあえずやっぱりこのままにはしておけないよ」


 ただ道を聞くだけなのに酷いことをしてしまった。


「ねぇおじさん、今まで付き合わせちゃってごめんなさい。もういいからお風呂入ってきてよ。そのままじゃ風邪ひいちゃうよ?」


 

「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」



「行こっか!! セバス!!」



 このおじさんはもうダメだ。



「御意!!!」




 そうして私たちは全裸で「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」としか言わないおじさんを置いて村を散策することにした。



「武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ」

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