第2章3話『セバス・チャン』
「おぉ、勇者様。お待ちしておりました」
ああ、この人が勇者を召喚したこの国のお姫さまって感じなのかな?
ちゃんと挨拶しなきゃ……でも……今は、
「ぷあはははははははははははははは!」
まだ全能の神(爆笑)の事が頭から離れず、笑わずにはいられなかった。
「ゆ、勇者様?」
「あはははははははははははははははははははは。ぷすっ、ふふふふふふふふふふ」
ああ、変な人を見るような眼差しでお姫様が私を見てる!
ちゃんと、ちゃんと挨拶しないと。
「あ、あなたが、ぷすすすすす、この国のおひめ、ぷっふふ、さま?」
しまった。まだ尾を引いていて笑いを堪え切れないままだった。
「は、はぁ。そうですが」
「無礼者! 我が国の姫に対してなんという態度だ!?」
お姫様の後ろに控えていたのか。黒い甲冑を着込んだ騎士が出てくる。
「落ち着きなさいコンラッド! 仮にもこの方は勇者様なのですよ!」
「いいえ、姫様。たとえ勇者様だろうがこのコンラッド。姫様への無礼、見逃せるはずがありません」
そう言ってそのコンラッドと呼ばれた中年の騎士は私へと剣を向け、
「貴殿は勇者だ。だがだからと言って姫様への無礼を見過ごせるはずもない。私をただのそこら辺の騎士だと思って侮るなよ! 私はこの国で一番の剣の使い手だ! 召喚されたばかりの勇者になど遅れをとるはずもない。いくぞぉ!」
こちらの言葉を全く聞かないままコンラッドという騎士がその剣を抜いて、こちらへと突進してくる。
ちょっと!? なんでこうなっちゃうの!? あんな剣で切られちゃったら死んじゃうよ!
斬られる自分を想像して私は無意識に目を瞑ってしまう。そっちの方が危険だと分かっていても、反射的に目を瞑ってしまった。
死ぬのは嫌……痛いのは嫌……助けて……セバス。
そう私が願った時だった。
「だ……誰だ貴様は!?」
先ほど私に斬りかかろうとしていたコンラッドという騎士の
「それはこちらのセリフです。あなた方はどちら様ですか? それにここはどこですかな?」
誰よりも頼りになる、望んでいた声が私の耳に入ってきた。
「セバス!」
私は目を開けて、目の前の執事。セバスへと呼び掛ける。
そこにはコンラッドさんが振り上げた剣を片手で掴みとったまま静止しているセバスが居た。彼は、こちらを軽く振り向き、
「お嬢様。ただいま参上いたしました」
そう、日常で見せてくれるような笑顔を私へと向けた。
★ ★ ★
「貴様ぁ! 何者だと聞いているだろうが! それにここにはどうやって現れた!」
「
「ならばセバス・チャンとやら! 貴様、この城へはどうやって乗り込んできた!」
「ちょっと待ちなさいコンラッド! 剣を引きなさい!」
「し、しかし! 姫様!」
「いいから剣を引きなさい。これは命令です」
「ぐっ。かしこまりました」
コンラッドさんはお姫様の命令に従い、セバスに掴まれていた剣をすっとおろし、鞘へと納めた。
「おぉ、美しいお嬢さん。彼を止めて下さりありがとうございます」
「いえ、むしろ野蛮な真似をして申し訳ありませんでした。深くお詫びします」
そう言ってお姫様はセバスへと頭を下げる。
「わ、わたしも! 私もさっきは笑ったりしていてすみませんでした! この世界に来る前に笑ってしまう出来事があって……決してお姫様を笑ったわけではないんです!」
私もお姫様へと頭を下げる。
「いえいえ、いいのですよ。顔を上げてください。素直に謝ることが出来るなんて、勇者様はやはり良い方なのですね」
顔を上げてみると、お姫様が優しい笑顔で私を迎えてくれる。
しかし、キレイな人だなぁ。嫉妬しちゃう。
お姫様の長いピンク色の髪は、腰まで届いていて、手入れもキチンとしているのか、すごくステキだ。
全体的にほっそりしていて、スタイルだっていい。
「私なんて……むぅ……最近お腹が出てきたかなぁって悩んでいるのに……羨ましい!!」
「お嬢様。声に出ておりますよ?」
セバスの指摘に、私は慌ててお口をチャックする。え!? 今の声に出てたの!?
「ふふ。勇者様も綺麗ですよ。お腹周りの事を気にされていたみたいですけど、気にするほどではないと思います。女性はある程度ふくよかな方が良いと聞きますし」
お姫様が私の発言に対してフォローしてくれる。
お姫様だからお堅い人なのかなって思ったけど、結構フランクに話すんだなぁ、この人。仲良くなれそう!
「あちらのお嬢さんの言う通りですお嬢様。それにあちらのお嬢さんよりお嬢様の方がおキレイですよ」
「またまたセバスったら。お世辞を言っても何も出ないんだからね?」
「事実を申したまでです。特にその胸! あちらのお嬢さんには微塵もありませんが、お嬢様のそれは母性に満ち溢れております! 素晴らしい!」
「ちょっとセバス!?」
何を失礼なことを言っているの!? 謝って!? あのお姫様に謝って!?
「あの、私の執事がすみま――」
そこまで私が言った時だった。
「だぁれの胸が微塵も無いですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
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