第2章4話『セバス・チャン無礼極まる!』
「だぁれの胸が微塵も無いですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
お姫様が青筋を浮かべながら激怒していた。
あぁ、気にしていたのね。
だけど、そんなお姫様相手でも、セバスは容赦なかった。
「事実を申し上げたまでです。確かにあなたの容姿はすばらしい。整った顔立ち。綺麗なピンク色の髪。全体的にスラリとしている体。しかし、私はこう思うのです。全体的にスラリとしている必要性など女性には無いのではないかと。女性は痩せるかどうかを気にしすぎる傾向にあると、私は常々思っていたのです。確かに、太りすぎている女性はただのデブです。それはもはや生きている価値もないでしょう。それらを女性と呼ぶのさえ、他の女性に対して失礼ではないかと思われます。私が言いたいのはバランスなのです。女性の胸というのは母性を表すとても重要な部位です。多くの女性は痩せる事に執着するあまり、その母性を獲得することを放棄しているのではないでしょうか? それが私には残念に思えてならない。よいですか? 女性も、男性もそうですが、常に他者からの視線に敏感であるべきなのです。そして、己を高めるべきなのです。その点、お嬢様は素晴らしい。その胸は母性に満ち溢れ、このセバス。飛びつきたいと思った回数は数えられないほどです。女性の胸とはそうあるべきなのです。母性の海、それが女性の胸なのです。だからこそ、私を含める男性は女性の胸がすきなのです。我々男性は女性の胸に故郷を思い浮かべるのです。胎児の時の記憶が残っていなくとも、我々男性は本能でその場所を求めてしまうのです。稀に女性の胸に興味はないという男性もおりますが、その大半が自分の本当の気持ちに気づいていないだけです。もしくは隠しているだけです。本当に興味のない男など、もはや男である価値など無いと言えるかもしれません。大多数の男が女性の胸が大好きなのです。なので、女性はその男性たちに応えるために努力してほしいと私は願っております。その点で言えばあちらのお嬢さんはいくら綺麗だろうと、落第です。あちらのお嬢さんの胸には母性の欠片も見えません。ただただそこには砂漠のような荒れ果てた大地があるだけです。正直、飛び込めと言われても気乗りはしないくらいです。あのお嬢さんはお嬢様と同じく16歳ほどでしょうか? もしそうであれば、今後の成長に期待するばかりでございます。正直あの荒れ果てた大地。見ているだけで悲しみが込み上げてまいります。今からでもその大地、多少は開発した方がよろしいと思いますよ? もっとも、今から開発したところでお嬢様のような大海原になる可能性は限りなく低いと思いますが」
そう言って、セバスはお姫様へと優しく微笑みかける。
そして、
「コンラッド!! あの無礼な
「御意!!」
だよねーー。
ホンッッッッッッッットウに、私の執事がごめんなさい! 基本的には優秀なんだけど、時々こんなふうにおかしくなっちゃうんです!
最後の気遣いも全然気遣いになってないし、むしろ無礼のオンパレードだ。胸の事を気にしているっぽいお姫様からすれば、さぞムカついたことだろう。
「貴様らっ、先ほどから姫様に対して侮辱の数々! 刺身にしてくれる!」
あれ!? 私も数に入れられちゃってる!? さっきちゃんと謝ったのに!
「侮辱とは?
いや、セバス? これ以上ないくらい侮辱してたよ? 謝った方がいいと思うよ?
「ええい! 言い逃れなど見苦しい! 貴様らのそっ首、叩き落してくれる!」
「だからなんで私も数に入ってるの!?」
さっきから無礼のバーゲンセールをしているのはセバスだけだと思うのだけど……。
「落ち着いてください。話し合えば我々は分かり合えます」
いやいやセバス? その話し合いで相手をここまで苛立たせたのはあなただからね?
「問答無用!!」
コンラッドさんは剣を抜き放ち、セバスへと斬りかかる。
「チョイチョイチョイヤーーーーー」
なにその掛け声!?
しかし、そんな変な掛け声でもその剣の冴えは本物だ。少なくとも私に対してあの剣が向けられていたのなら為すすべも無かっただろう。
”私に対して向けられていたなら”ね。
「おぉ、気合の入った良い一撃ですなぁ。相当修練を積んだのでしょうね」
「な!?」
セバスはコンラッドさんの刃を真正面から受け止めていた……指2本で。
真剣白刃取りという技があるけど、あれの指バージョンだ。もちろん、こんなこと普通ならできないと思う。少なくとも私はセバス以外でこういうことが出来る人間を漫画の中の世界くらいでしか知らない。
「しかしあなた様の剣はまだまだ粗いですなぁ。技術はよろしい。気合も十分以上に入っております。見事なものです。賞賛の言葉を贈らせていただきたい。
しかし、物事には限度という物がある。あなたの剣はまさにそれです。気合が入りすぎているがゆえに、切っ先に貴方様の感情が現れています。優れた剣術家ならばそれを読み取り、次の行動が読めてしまうのですよ」
「ぐっぬぅっ動かん!」
セバスは人差し指と中指でコンラッドさんの刀を挟んでいるだけだ。しかし、そこにどれだけ力が入れられているのか、コンラッドさんは剣を押したり引いたりしているようだが肝心の剣はピクリとも動いていなかった。
「やれやれ。落ち着いてください。私はあなたに敬意を表しているのです。話し合おうじゃありませんか。私は強い者が好きです。そして、強くなりたいと願う者が大好きです。だからこそ、私にあなたの手助けをさせて頂きたいのです。私のアドバイスを受けるだけで、あなたの武技の世界はより一層広くなるでしょう。どうですか?」
「姫様に無礼を働いた輩の教えなど受けるものかぁ! ええい離せ! 離さんかぁ!!」
「まったく、嘆かわしい事です。ここまでされてなお力の差も分からないのですか? 私は勇敢な者、勇気を示したものを愛します。しかし、あなたのそれは勇気なのではない」
そう言って、セバスはコンラッドさんの剣から手を離す。
「なっ、う、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
コンラッドさんはいきなりセバスが剣を離すものだから、一瞬体勢を崩す。しかし、それもつかの間。すぐに体勢を立て直し、セバスへと突貫していく。
それをセバスは何か可哀そうなものを見るような目で見ながら、
「それは勇気ではなく、無謀と言うのです!!!」
「ぷげらぁっっ!!」
セバスが何をしたのかは分からなかった。
ただ、いつの間にかコンラッドさんの持っていた刀が爆散して、それと同時にコンラッドさんの体が真横に吹き飛んでいった。
「良いですか!? 勇気というのは策を持って、絶対に成功させようという気概の事を言うのです! あなたのように何も考えずに愚直に立ち向かうのはただの無謀!! 愚かな行為です。そんな物は子供にでもできます!!」
《ポカーン》
あ、お姫様が口をあんぐり開けてセバスの方を見つめている。それほどショッキングだったのかな?
「あ、あなたはいったい何者なのですか? 勇者様の執事をしていたという事は、勇者様と同じ異世界の方だと思うのですが……」
「異世界?」
セバスは聞きなれない単語に首を傾げる。
「あのね。セバス。私にもあまり信じられないんだけれど、私この異世界で勇者に選ばれちゃったみたいなの。それで」
「お待ちくださいお嬢様」
私の説明を遮るかのようにセバスは右手の平を突き出し、
「なにやら複雑な事が起きているようですが……とりあえずお茶などしながらに致しませんか? そちらのお嬢さんもどうです?」
セバスは柔和な笑顔を私とお姫様へと向ける。
「う、うん。分かった。お姫様はどう?」
「わ、私もそれで構いません」
そうして、茶会が始まる。
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