第10話『神父様は外道!』


「兄さま~。目の前に大きな建物が見えますよね? そちらが教会となります」


「うん」



 僕とウェンディス村の中にある教会にまで移動していた。

 

 教会と言うだけあって周りの家より少しだけ大きい。そして教会というだけあって。屋根にどでかい十字架が乗っている。


「さて……今度はどんな変人が出るのやら……」


「兄さま。神父様は良いかたですよ?」


「アーハイハイ」


 ウェンディスの”良い方”というのは信用できない。というか”良い方”=まともな人と言うわけではないんだ。


 この村では僕の常識が通用しないのはいい加減分かった。ここはきっと村は村でも戦闘民族達が住まう村なのだろう。だって皆強いもん。


 僕はため息をつきながら、教会の扉を開け、中へと入る。



「ここが教会か……」


 中は僕のイメージ通りだった。

 窓は全てステンドグラス。聖人や神を描かれたものだろうか? が飾られている。

 天窓も設置されており、普通ならそこから日の光が中に入ってきてより美しく見えるのだろう。しかし、この村の上空は暗雲が常に立ち込めており、日の光など入ってこないため、その光景はお預けだ。


 赤の絨毯じゅうたんが神父と思わしき人のところまで真っすぐ続いており、いかにもここを進めと言わんばかりだ。


 絨毯じゅうたんかられている左右のスペースにはいかにもな木製の長机が6つ、きれいな形で等間隔に並べられている。サミットとかで使うのだろうか? 今は信徒の1人も居ない。


「あの~、すみませ~ん」


 僕は奥に居る神父と思わしき人に呼び掛けてみる。


「……………………………………」



 返事は無い。無視されているようだ。

 聞こえてないとかじゃ無いよね? 僕と彼の距離は大体15メートルくらい。僕の姿だって見えているだろうし、声も聞こえてると思うんだけど……さっきからあの人微動だにしないぞ……。


「あの~、すみませ~ん」


「兄さま兄さま。神父様は決して自分から動きませんよ?」


「え? なんで?」


「そういうものなんです」


「納得できるかぁ!?」


 ねえねえ神父さん! 救うべき死んでいる人がすぐそこに居るんだよ!? もっと何か反応とかしようよ! あんた神様の言葉を伝える人がそんなノリで神父やっていけると思ってんのかぁ!!


 ……と、こんなところで道草食ってる場合じゃない。さっさと行こう……。


「あの~、すみませ~ん」


 神父の前までウェンディス《棺桶状態》を引っ張っていき、再び呼び掛けてみる。すると、


「おお、迷い子よ。私の教会に何の御用ですかな?

 死人の蘇生ですかな? 解毒ですかな? はたまた呪いの解呪ですかな?」


 ああ、解毒や解呪とかも請け負ってるんだ……。


 神父さんは30~40歳くらいの人だった。

 整えられているのか。そのあごからは黒いひげが規則正しい感じで真っすぐ伸びており、優しそうな雰囲気を醸し出している。

 神父服を着ていることもあってか、そういうところからも優しそうなオーラが滲み出ている。いや、優しいならさっき呼び掛けたときに駆け寄ってきてよっていう話なんだけど……。



「えっと……蘇生をお願いします。妹が死んでしまったので」


 これで生き返るんだよ……ね?


「おお、ウェンディスよ! 死んでしまうとは情けない!!」


「死人に対して言いすぎじゃない!?」


 死者にむち打つとはまさにこのことだろう。


「それで生き返らせてもらってもいいですかねぇ!!」


 もうさっさとここから離れたい……。


「よろしいでしょう。それでは100Gの寄付をお願いします」


「ああ、お金取るんだったね……」


 なんか納得いかないんだけど……。


「村人料金ゆえに、お安いのですよ?」


「村人料金?」


 え? なにそれ? 


「わが協会では蘇生に当たり、勇者からはその所持金の半分を頂きます。冒険者からは3000Gを頂きます。そして村人は100Gとなっております」


「村人お得すぎる!!」


 唯一村人の良いところを発見した気がする!!


「まぁその代わり税金……ゴホッゴホッ。それ以外の寄付も頂きますが」


「それ以外の寄付? っていうか今税金って言わなかった? ねぇ?」


 教会には似つかわしくない言葉が聞こえた気がするんだけど。


「はい。この村の方たちにはわが協会に毎月800Gの寄付をお願いしております」


「なにそれ!?」


 村人に寄付を強制させる教会なんて聞いたことがない!! もっと質素に生きてよ!?


「ちなみにそれを払わなかったら?」


「寄付をしない方ですか? 特に何もありませんが……。そうですねぇ。その方には神のご加護が与えられなかったりしますねぇ」


 ほう……神のご加護か……。


「ちなみにこの蘇生って神のご加護の内に入ります?」


「勿論です」


「もうそれ脅迫みたいなもんだよね!?」


 要は”寄付しなければ生き返らせたりしないぞ?”って事でしょ!? いくらなんでも神に仕える神父のやる事じゃ無いと思うんだ!!


 そんな時だった。


「なか……まを……やっと……ついた……」


 教会の扉が開き、1人の男が棺桶を3つ引きずりながら入ってきた。なかなかシュールだ。

 その体は随分傷ついており、何かしらの戦闘の後だという事が分かる。


「あれは……」


 勇者とかかな?


「兄さま、ステータスをご覧になってはいかがですか?」


 ああ、そうだった。見れば一発だね。

 と言うわけで、僕はその傷ついた青年の姿を凝視する。すると、


★ ★ ★


 ラザクーロ・ヴォルテシア 22歳 男 レベル:71

 クラス:冒険者

 筋力:114

 すばやさ:126

 体力;118

 かしこさ:88

 運の良さ:74

 魔力:69

 防御:105

 魔防:68

 技能:命中率向上LV3・俊敏性向上LV3・カウンターLV3


★ ★ ★


 勇者じゃなくて冒険者だった……。

 

 それにしても……ステータス低っ!!

 僕が今まで見てきた人たちの中でダントツの最下位じゃあないか!!



「いや、違う。落ち着け、僕」


 多分この人が普通なんだろう。というかレベル71 って書いてあるしむしろ強い方なんだろう。

 今まで僕が見てきた人がおかしいだけなんだろうなぁ……。


「神父……さま……どうか……蘇生をぉ」


 その冒険者はよろめきながらもこちらに向かってくる。しかし、


「ぐぅぅっ。毒が……回って……もう……げん……かい……だ」


 毒ぅ!?


「神父さん! 先にあの人を助けてあげて!? 今にも死にそうだよ!?」


「お断りします。すべては彼が私の元まで来てからです」


「あんた鬼か!!??」


 目の前で今にも死にそうな人がいるというのに、それでもこの神父は自分から動かないらしい。もはや神父としてではなく、人としての精神を疑うレベルだ。


「ク……ソォ……ここ……まで……か……」


 そう言葉を残して、その冒険者は――棺桶になった。


「冒険者さーーーーーーん!!!」


 あともう少しのところで死んじゃったよ冒険者さん!!

 

「神父さん!? 何を考えているんですか! あなたが手を差し伸べなかったせいでこうして彼は死んでしまったじゃあないですか!!

 神に仕える者として何か思う事は無いんですか!?」


「おぉ、ラザクーロとその仲間たちよ。全滅してしまうとは情けない。始まりの町へと立ち去るがいい!!」


「あなたホント鬼だね!!」


 もはや死人にむちどころか死人にマシンガンを撃ってるレベルだ。

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