第9話『妹が死んだ! 何故だ!?』


 あれから僕は色々試した。

 ベッドに入った瞬間眠ってしまう呪い……それの何が困るって?


 ベッドでアレが出来ないんだよぉぉぉぉぉ!!

 何がって? 察しろぉぉぉ!!!


 最初は絶望しかけたが、すぐに思い直した。

 そう……別にベッドでいたす必要は無いんだ!!


 ん? なんか今クズっていう声が聞こえたような……まぁ僕の事じゃあないだろう。きっと。

 とにかく、僕はそれを試すために色々試した……のだが……。




「服が……脱げないだとぉ!?」


 そうなのだ。

 僕は実験の為、自らの服を脱ごうとしたのだが……脱げない!! なぜだ!?


 そしてその時、


「ん?」



 目の前に小さな紙切れが舞ってきていた。何か書いてある。

 なんとなく気になったので、それを掴んで、中を見てみる。そこには――



 ”武器や防具は武器屋じゃないとはずせませんよ”



「…………」


 僕はその紙をしばらく見つめ、


「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ぐしゃぐしゃに破きまくった。

 もう一片たりとも残さないつもりで破きまくった。もちろん、そんなの無理だから出来る限りだけど、とにかく破きまくった。


「ああ、そうだねえ!! RPGのゲームとかで勇者は武器屋じゃないと装備変えられなかったねぇ!!

 ベッドに関しても勇者は朝だろうが夜だろうがベッドに入った瞬間寝てたねえ!!

 イヤ、ふっざけんなよ!? ホントにふっざけんなぁぁぁ!!!

 なんだよ!? 勇者の悪いところばっか反映されてるじゃあないか!!

 これで勇者としてこの世界に来てるなら諦めもつくかもしれないけどこの待遇は無いでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 っていうかこの紙書いた奴誰だぁ!! 出てこい! 今すぐ泣くまで殴ってやる! いや、泣いても殴るのをやめない!!



「先ほどからどうしたんですか兄さま?」


 僕の行動を不審に思ったのか、ウェンディスが首をかしげて聞いてくる。


「いや、えっと……なんでもないよ」


 さすがに妹にこんな事を話すわけにはいかない。


「はぁ、兄さま。さっさと全て白状してください」


「僕なんでもないよって言ったよねぇ!?」


 それに対する返事が白状してくださいというのはどうなんだ!?


「兄さま……どうしてもおっしゃっていただけないのですか?」


 ウェンディスが僕を上目遣いで見つめてくる。か……かわいいなぁもう!

 容姿は結構僕好みなんだよなぁ……容姿は。


 それでもやはり妹に対してこんなことは言えない。


「ごめん。でもやっぱり言えないよ」


「兄さま……私では力になれないのですか? なんらかの理由でベッドに入ったらすぐに寝てしまう病気にかかった兄さまの役に立ちたいんです!

 それと自分で服を脱げなくなってしまった兄さまの役に立ちたいんです! 兄さま! さあ! 悩みを私に打ち明けてください!!」


「妹が僕の心を的確に読んでくるんだけどどうすればいいのかなぁ!! こんちくしょう!!!!」


 なんだよ!! 言うまでもなく全部ばれてるじゃあないか!?

 もう本当に怖いんだけど!?

「兄さま、私は特別な力なんて使ってませんよ?」

 やっぱりこの子エスパーでしょ!? ってなにぃ!? 遂に僕が考える前に思考を先読みされただとぉ!!??


「まぁまぁ。どうか安心してください。兄さま」


「何を!?」


 安心できる要素が何もないんだけど!? 心のプライバシー権を著しく侵害されてるんだけど!?


「何をって……兄さまが自分で服が脱げなくなったことと、ベッドに入ったらすぐに寝てしまう事についてですよ」


「何か良い案があるの!?」


 この呪いとも言える状態から抜け出す方法がなにかあるのか!?


「ベッドに入ったらすぐに寝てしまう事については仕方ありません。寝る時以外はベッドを使わないように注意するしかないでしょう」


「ふむふむ、それで?」


「服に関しては簡単な事です。兄さまが自分で服を脱げないのならば……私が脱がせばいいだけです!!」


「それはおかしい!!」


 どこの世界に妹に服の着せ替えをしてもらう兄が居るというのか。


「何を言っているのですか兄さま! 兄のお世話をするのは妹として当然! 異世界ではどうなのかは知りませんがこの世界では妹は兄の上の世話から下の世話までするのが常識なのです!! ……ぐへへへ」


「絶対ウソだよね!? そんな常識無いよね!? そしてやめて! もう女の子としてじゃなくて人としてしちゃいけない顔になってるから!!」


 ウェンディスは何を想像したのか、よだれを垂らしながら変態的な笑みを浮かべながら鼻血をだらだらと流していた。自分の言った通り、もう女の子どうこうじゃなく、人としてアウトだろう。


「おっと……淑女しゅくじょたるこの私が見苦しい真似を致しました」


「え? 淑女しゅくじょ? 誰が?」


「兄さま兄さま~、何を辺りを見渡していらっしゃるのですか? 兄さまがずっぽずっぽする淑女のウェンディスは目の前にいますよ~」


「全世界の淑女に謝りなさい!!!!」


 この子を淑女とするならば、世界中に居る女子は聖人とかになってしまうだろう。



「失礼な!? 兄さま以外にはこんなこと言いませんよ! 1人の殿方を想ういたいけなこの私に何の不満があるのですか!?」


 何の不満があるのか? そうだなぁ……。


「存在?」


「まさかの存在の全否定ですか!?」



 いやだって……ねぇ?

 僕だって妹に夢見てたよ。

 妹が居ない1人っ子の僕からしたら、妹が居て妹なんてロクなもんじゃないと言ってる連中が妬ましくて仕方なかったよ。居ないよりはいる方がいいじゃん。とか思ってたよ。

 でも……それでも……


「この妹は何もかも間違ってると思う……」


 もうこれは妹とかじゃなくて、人間としてアウトな部類だ。

 とか考えていると、


「あれ? ウェンディス?」


 先ほどまで目の前に居たウェンディスの姿がない。

 少し目を離したすきに……一体どこへ行ったのだろう?




「♪~♪~♪~」





 いつの間にか彼女は僕の背後に回り込んで、僕のズボンへと手をかけていた……。





「あれ? おかしいですねぇ? 脱がせません。ええい! 負けるものかぁ!!」


「おかしいのは君の頭だよこの変態妹がぁ!!」


「きゃっ」


 僕はズボンへと手をかけていた妹をその手で振り払う。


「何が負けるものかぁだよ!? 何を勝手に兄の服を脱がせようとしてるの!? ってぇぇ!?」


 僕はウェンディスの方を振り返り、思わず驚愕きょうがくの声を上げてしまった。

 いや、ウェンディスの方と言うより、ウェンディスが居た方向と言えば正しいだろうか? そこには、


「兄さま兄さま~。私はか弱い乙女なんですからもうちょっと優しく扱ってくださいよ~」


 ウェンディスの声を発する棺桶かんおけがあった。

 

 え? ちょ、なぁにこれぇ? もしかして……死んじゃった?


「そげなばかな!?」


 あれだけの事で!? 死んじゃったの!? うそん!?


「え!? いやほんとにえ!? どうしよう!? ごめんウェンディス!」


「もう、兄さまったら妹に暴力をふるうなんて~。そんな兄さまでも私は愛せますのでもっともっと責めて下さっても大丈夫ですよ」


「大丈夫じゃ無いよね!? 死んじゃってるよね!? 棺桶かんおけになっちゃってるよ!?」


 こんな姿になってまで手をあげる人はなかなか居ないだろう。


「こういう場合はどうすれば……」


「兄さま、さきほど言ったじゃないですか~。教会に行って頂ければ生き返れます。なので出来れば教会まで連れて行ってもらってもよろしいですか?」


 そうだ! 教会だ!


「でも教会って……どこに?」


「ご安心を。私が案内いたします。私の案内通りに進んでください。あ、それとこれをどうぞ」


 そうウェンディスが言った瞬間、棺桶のふたが少し開き、そこから鎖が投げ出された……。


「これで引っ張っていってください。私は御覧の通り動けないので」


 本当に動けないのか? 確認してみたい気はするが棺桶かんおけを開けるのもなんか違う気がする。ここはおとなしく従っておこう……。



「分かったよ……よいしょっと……って軽っ!?」


 鎖を持って、棺桶を引きずるように歩こうとする僕だが、あまりの軽さに驚いた。

 中に人が入ってるとか入っていないとかの問題じゃない。棺桶の重さも感じられないくらいだ。


「兄さまったら……尻軽女のように軽いだなんて……照れます」


「そんな事言ってないし、それ褒め言葉でもなんでもないよねぇ!?」


 少なくとも照れる要素は0だろう。


「申し訳ありません……。こうして死んでいる状態では兄さまの突っ込みを十全に受け入れることが出来ません……。

 ですがご安心ください! 私が生き返ったらいくらでも突っ込んでください! お願いします!!」


「ことわぁる!!!」


 ウェンディスが言うと何もかもが変な意味にしか聞こえない! 代わって!? 誰か兄の役目を変わって!? お金でもなんでも払うからさぁ!!


 僕にこの子を押し付けたお兄さんの気持ちが少しだけ分かった気がする……。

 この子に付き合わされ続けるくらいなら消えた方がマシだと思ってしまう気持ちも分からないこともない……。


「兄さま兄さま、早く行かないと日が暮れますよ~。まずは私たちの家から出て右の方向です」


「誰のせいで足止め喰らってると思ってるの!!??」


 しかし、こうして立ち止まっていても時間の無駄であることは否めない。僕とウェンディス《棺桶状態》はウェンディスの案内で教会へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る