10年前に戻ったので幼なじみを運命から救ってイチャイチャする

アサブクロ

第1話 巻き戻り

「明日も仕事なのに、わざわざ来てくれてありがとねこう君」


 窶れた様子で言う光のお母さん。


「俺が来たくて来てるだけなので」


「浩君、これ少ないけど交通費……」


「っ……いえ、大丈夫です。失礼します」


 これ以上ここに居たらまた思い出してしまう。


 心が罪悪感と自責の念で苦しむのを感じた。


 逃げる様に墓地を出た。




 ―――







 俺には10年前、幼なじみがいた。皆川光みながわひかりという名前。地毛の赤い髪をツインテールにしている女の子だった。


 光は小さい頃から鬱陶しく俺に絡んできていた。


 朝、わざわざ俺の部屋に起こしに来るし、昼はパンでいいと言っている俺の分まで弁当を作ってくる。夜は自分の部屋じゃなく俺の部屋でくつろぐ。


 でも、俺はほんとに鬱陶しくは感じていなかった。心の奥底では光が好きだと自分でも感じていたのだと思う。そして光も俺が好きなのだろうと。両想いならずっとこのままで構わないかと。


 が、通り魔に刺されて死んだ。犯人の動機はただ人を殺したかったという理由。


 俺は目の前に居たのに何も出来なかった。体がすくんで動けなかった。



 光は最後に、


「好きよ、コウ」


 と言った。満面の、今にも崩れそうな笑みで。


 何も出来なかった俺の胸の中で光は死んだ。


 ずるりと、光の手が自分の手から糸が切れた人形のように落ちていく感触は鮮明に覚えている。


 当時の俺は犯人と自分への憎しみと苦しみで気が狂いそうだった。光の葬式も行かずに延々と自分の部屋で涙が枯れるまで泣き続けた。


 自暴自棄になり自殺しかけた事もあった。が、怖くて出来なかった。不甲斐ない自分に腹が立って仕方がなくて、それで泣いた。


 そんな事を半年繰り返し、ある日本当に手首を切って出血多量で死にかけた。


 病院で目覚めた時、目元が腫れた母親に抱きつかれた。そして、俺が小さい頃から一切怒ったことの無かった父親に本気で怒られ、本気で殴られた。




 それから俺は家族に心配をかけない事、光の事を極力思い出さない様に生きる事を誓った。


 まずとにかく勉強に無心で打ち込んだ。勉強しまくって一流の大学に行き、一流の企業に就職すれば幸せになれると思ったからだ。


 5年間の記憶はある日を除いて一切無い。自殺しない為に、感情が無い機械のようになっていたのだと思う。


 機械のようになり続け、いつの間にか26歳になっていた。


 光が死んでから毎年、光の命日に墓に行き光の冥福を祈る。


 毎年この日だけは死にたくなる。死んだら光に会えるかも知れないから。結局怖くて出来ないのだけれど。


 これ以上起きていたら、自殺しそうなのでひとまず車の中だがコンビニの駐車場に泊まって寝る事にした。


 ―――








「起きて!」


 愛おしい。俺を揺さぶるその声に愛おしいという感情が溢れ出てきた。


 幸せに包まれ、頬がニヤける。ーーあぁ、こんな感情を感じたのは何年ぶりだろうか。


「変な夢見てニヤけてないで起きて!」


 嫌だ。死んでも起きるもんか。


 起きたらこの感情を味わえなくなる。


 俺は必至に首を振った。


「このっ!起きろつってんでしょ!?」


 布団をバサりと取られ……布団?


 俺は布団なんて被って無かったはず。疑問に思った俺は思わず目を開ける。


「ほら、早くご飯食べないと遅刻するわよ!?」


 ーーーえ、


「何口ポカーンと開けてんのよ。早く顔洗って来なさいよ!」


「ひ、光?」


「アンタ寝ぼけてんの?私以外あんたの部屋にわざわざ起こしに来てくれる女が他にいるわけないでしょ!?……いないわよね?」


 上目遣いでおかしな事を聞いてくる光。愛が溢れて、気が狂いそうになる。


「光っ……」


 目の前の光を抱きしめる。甘い匂いが鼻腔に刺さり幸せでどうにかなりそうだ。


「へあっ!?コ、コウ!?どうしたの!?」


「もう離さない、俺が守る……絶対……」


「……怖い夢でも見たの?」


 心配そうに聞いてくる光。


 ーーー夢。そうか、これは夢か。死んだ光が生き返るワケが無い。まさに夢。普通に考えればそうか。


「……アンタら朝からなにやってんの?」


 懐かしい声が後ろから聞こえてきた。


「ひゃわっ!!!???い、いや、違うのこれはっ」


「どう見ても熱く抱き合ってるじゃない」


 呆れたような目でこちらを見てくるのは、顔の皺と白髪が少ない、若い母さんだった。


「と、とにかくっ!先行ってるからね!?」


 真っ赤な顔した光がするりと腕から抜けて行ってしまった。


「あぁ……」


「アンタ、突っ立ってないでさっさと着替えて、追っかけなさい!」


 母親に怒鳴られ顔に服を投げつけられた。反応出来ずに床に落ちてしまった服は制服だった。それも、唯一記憶がある高校1年の時の色の制服。


「制服……」


「ほら急ぐ!」


 何がなにやら理解できないまま、制服に着替えて急いで光を追いかけた。


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