β
広い公園。
子供が、遠くで遊んでいるらしい。声が聞こえる。砂場の辺りだろうか。
飲みかけのコーヒー。
恋人が、いなくなってから。しばらく経った。
それだけ。
普通の生き方を、してこなかった。いろいろなことをやった。自分が自分であり続けるために。正義の味方というよりも、スパイみたいな。そんな人生だった。
仕事の狐狩りで。世界のレールが、切り替わって。別な世界に放り込まれてしまった。
世界の変わり目に脚を挟まれてしまって、両足首を派手に
世界の情報が欲しくて、なんとかして、いちばん近いひとのいる場所に転がり込んだ。世界に、ドラマやアニメほど整合性はない。ラムネに入っているビー玉の、光の屈折のように。適当に曖昧な何かがあるだけ。世界なんて。たいして不思議なものもない。
その世界は、自分が元いた世界と同じだった。転がり込んだ場所にいたひとは、私にやさしくしてくれた。脚を介抱してくれて。世界のことを訊くという私のおかしさを、笑わず真面目に取り合ってくれた。
彼女のことが、好きになった。ひとめ惚れだったのかもしれない。
彼女は、普通ではない何かを求めていた。別な世界から来て、他の世界のことを話す自分は、さぞ新鮮だったことだろう。といっても、彼女の世界と自分の世界に特に違いはないのだけども。何も変わらない。公園はだだっ広いし、コーヒーもうまい。
彼女と仲良くなって。
これからも、ここで過ごすのだろうとなんとなく思っていたある日。戻ってきた。自分が元々いた世界に。
彼女がいない以外は、何も変わらない。平和な街。自分が守った景色。
彼女がいないだけで、なにか、どこか、つまらなかった。
だからといって、彼女のいる世界に行けるわけでもない。
飲みかけのコーヒー。この暑さと陽光で、温くなってきている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます