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 広い公園。

 子供が、遠くで遊んでいるらしい。声が聞こえる。砂場の辺りだろうか。

 飲みかけのコーヒー。

 恋人が、いなくなってから。しばらく経った。

 それだけ。

 普通の生き方を、してこなかった。いろいろなことをやった。自分が自分であり続けるために。正義の味方というよりも、スパイみたいな。そんな人生だった。

 仕事の狐狩りで。世界のレールが、切り替わって。別な世界に放り込まれてしまった。

 世界の変わり目に脚を挟まれてしまって、両足首を派手にくじいた状態で公園のすべり台に落ちた。

 世界の情報が欲しくて、なんとかして、いちばん近いひとのいる場所に転がり込んだ。世界に、ドラマやアニメほど整合性はない。ラムネに入っているビー玉の、光の屈折のように。適当に曖昧な何かがあるだけ。世界なんて。たいして不思議なものもない。

 その世界は、自分が元いた世界と同じだった。転がり込んだ場所にいたひとは、私にやさしくしてくれた。脚を介抱してくれて。世界のことを訊くという私のおかしさを、笑わず真面目に取り合ってくれた。

 彼女のことが、好きになった。ひとめ惚れだったのかもしれない。

 彼女は、普通ではない何かを求めていた。別な世界から来て、他の世界のことを話す自分は、さぞ新鮮だったことだろう。といっても、彼女の世界と自分の世界に特に違いはないのだけども。何も変わらない。公園はだだっ広いし、コーヒーもうまい。

 彼女と仲良くなって。

 これからも、ここで過ごすのだろうとなんとなく思っていたある日。戻ってきた。自分が元々いた世界に。

 彼女がいない以外は、何も変わらない。平和な街。自分が守った景色。

 彼女がいないだけで、なにか、どこか、つまらなかった。

 だからといって、彼女のいる世界に行けるわけでもない。

 飲みかけのコーヒー。この暑さと陽光で、温くなってきている。

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